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シグナル伝達 signal transductionの一般原理

 

細胞内シグナルを伝達する巨大タンパク複合体= シグナル伝達複合体

  • 膜型貫通レセプターによるシグナル伝達は, 数段階におよぶシグナル伝達の最初の過程としてレセプターにリガンドが結合したことを細胞内に伝える。
  • レセプターからのシグナルは一連のタンパク群からなる細胞内シグナル伝達経路の相互作用によって伝達される。
  • 細胞内シグナルカスケードは独自の細胞応答を特徴づける生化学的反応をおこす。どのような酵素活性の集合体を形成するかで細胞の応答が決定される。
  • おなじ酵素を使用していても, 別の経路では異なった酵素と組み合わされることで限られた構成単位で多様なシグナル伝達システムを構築することができる。

シグナル伝達複合体の会合には多数のタンパク結合ドメイン(protein interaction domains)が関与する。

  • シグナル伝達複合体を形成する最も重要な機構は特定チロシン残基のリン酸化であり,リン酸化チロシンには多くの蛋白ドメインが結合する。
  • 最も重要な経路はSH2ドメイン(SH2 domain)で多数の細胞内シグナル伝達分子に存在し, さまざまな酵素活性や機能ドメインと連結している。
  • SH2ドメインはある特定のアミノ酸配列に存在するリン酸化チロシンを特異的に認識し結合する.
  • レセプター結合型チロシンキナーゼからのシグナル伝達には, シグナル伝達複合体を形成するため足場蛋白scaffold proteinアダプター蛋白 adaptor proteinが利用される。これらは酵素活性をもたないが, シグナル伝達分子を複合体に近接させそれぞれが相互作用可能な環境を提供する。
  • 足場蛋白scaffold proteinは比較的大きな蛋白で, 複数の部位でリン酸化をうけ, 多くの異なる蛋白と会合できる。
  • 足場蛋白により, どのシグナル伝達分子をシグナル経路に利用するかを決定し, 細胞応答を特徴づける。
  • アダプター蛋白は比較的小さく, 通常3つ以下のドメインをもち2つの蛋白を結合させる。Grb2はレセプターのチロシンリン酸化を次の段階へ連結させるアダプター蛋白の一例で, レセプターや足場タンパク上のリン酸化チロシンにSH2ドメインを介して結合, プロリンに富む領域をもつシグナル伝達蛋白のSOSにSH3ドメインを介して結合する。

シグナル伝達蛋白はドメイン単位で他のシグナル伝達蛋白や脂質シグナル伝達分子と相互作用する。

 
蛋白ドメイン伝達蛋白の例リガンドの種類リガンドの例
SH2Lck, ZAP-70, Fyn, Src, Grb2, PCL-γ, STAT, Cbl, Btk, Itk, SHIP, Vav, SAP, PI3Kリン酸化チロシンpYXXZ
SH3Lck, Fyn, Src, Grb2, Btk, Itk, Tec, Fyb, Nck, GADSプロリンPXXP
PHTec, PLC-γ, Akt, Btk, Itk, SOSホスファチジルイノシトールPIP3
PXp40phox, p47phox, PLDホスファチジルイノシトールPIP2
PDZCARMA1(=CARD11)蛋白のC末端IESDV, VETDV
 
 

低分子量セカンドメッセンジャー

  • 細胞内に初期シグナルが発生し細胞内標的分子へ情報が伝達される場合は, セカンドメッセンジャーと呼ばれる低分子量の生化学的媒介物質を産生する酵素の活性化を伴うことが多い。
  • 細胞内に拡散した媒介物質はさまざまな標的蛋白を活性化させるシグナルとして働く。
  • 活性化された酵素1分子でもセカンドメッセンジャーを大量に産生できるので媒介物質によりシグナルの増幅が可能となる。
  • チロシンキナーゼを介するレセプターにより産生されるセカンドメッセンジャーにはカルシウムイオン(Ca2+)やさまざまな膜脂質がある。膜脂質は細胞膜に限局するが膜上を自由に移動できる。
  • セカンドメッセンジャーは標的蛋白に結合して構造変化をおこしタンパク質を活性化する。

分子スイッチとして働く低分子量Gタンパク

  • ==>低分子量Gタンパク?のページを見る。
     

シグナル伝達分子を細胞膜へ誘導させるさまざまな機構

膜貫通型レセプターのシグナル伝達には細胞内シグナル伝達分子を細胞膜へ誘導することが重要である。

1.レセプター自身や, 足場タンパク質がリン酸化チロシンにSH2ドメインをもつシグナル伝達タンパクを引き寄せる。

2.細胞膜に連結している低分子Gタンパク質が活性化し細胞膜近傍にシグナル伝達タンパクが集合する。

3.レセプターの活性化により局所的な細胞膜脂質の修飾がおこる

  • 細胞膜リン脂質ホスファチジルイノシトールがホスファチジルイノシトールキナーゼ酵素によりリン酸化されておこる。
  • ホスファチジルイノシトールのイノシトールは糖環で, 単独あるいは複数の水酸基がリン酸化され多数の誘導体が存在する。主なものにホスファチジールイノシトール二リン酸 phosphatidylinositol3,4-bisphosphate(PIP2)とホスファチジールイノシトール三リン酸phosphatidylinositol3,4,5-trisphosphate(PIP3)がある。
  • PI3キナーゼはチロシンリン酸化をうけたレセプター自身のSH2ドメインを介して結合し, 細胞膜近傍に集合する。
  • レセプター活性化後には細胞膜のホスファチジルイノシトールは速やかに産生されるが短命である。
  • PIP3はプレクストリン相同pleckstrin homology (PH)ドメインかPXドメインをもつタンパクにより特異的に認識され、これらのドメインをもつタンパクを細胞膜に誘導するよう働く。

○--> PIK3-Aktとがん, のページを見る。

 

細胞膜脂質ラフト構造へのシグナル伝達タンパク配置

細胞膜脂質二重層構造は均一ではなく局所的に組成が異なる機能ドメインが存在する。コレステロールやスフィンゴ脂質に富む細胞膜のマイクロドメインを脂質ラフトとよぶ。

  • 細胞膜の構成比率の大部分を占めるリン脂質の側鎖は不飽和脂肪酸が主成分であるのに対し, 脂質ラフトを構成するスフィンゴ脂質の側鎖は飽和脂肪酸が主成分である。
  • スフィンゴ脂質間の側鎖飽和脂肪酸が直線状になり分子間相互作用しやすい環境になる。このため脂質ラフトには多くの受容体やカベオリンなど細胞内タンパク質が集合し細胞外からの刺激を細胞内に伝えるためのシグナル伝達の場として機能するようになる。

脂質ラフトは細胞内小胞輸送, コレステロール輸送, 免疫応答などの多様な生理機能の発現関与する。 病原性大腸菌O-157が産生するベロ毒素, C型肝炎ウイルス, インフルエンザウイルスなどが脂質ラフトに集積する。


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Last-modified: 2014-08-29 (金) 12:41:21 (2606d)