チロシンキナーゼ tyrosine kinase

正式表記は: ATP: protein-tyrosine O-phosphotransferaseでATPのγ位のリン酸基をタンパク質のチロシン残基(水酸基)にのみ転移する反応(=リン酸化)を触媒する酵素。

チロシンキナーゼ活性はラウス肉腫ウイルスのがん遺伝子v-srcタンパク質産物に初めて発見されて以来, インスリンやEGFなどの増殖因子受容体の細胞内ドメインにも発見されたことから細胞のがん化や増殖制御において重要な役割をになうものとして注目されてきた。

タンパク質チロシンキナーゼ(PTK)を介するシグナル伝達は細胞の運命、動態、機能制御に決定的な役割を担っておりきわめて広範囲なシグナル系に関与している。しかし, その働きは他のPTKの活性調節や, SH2, PTBドメインなど、およびその標的配列を介したタンパク質間のリン酸化チロシン依存的会合の制御に特化している*1

  • 自分自身および少数の細胞内シグナルタンパク群の特定チロシン残基をリン酸化する
  • MEKのようにスレオニンとチロシンを同時にリン酸化する酵素(dual specificity kinase)とは区別される。
  • 植物やバクテリアにはなく動物に固有の酵素。
  • 構造からSrcのように細胞外ドメインを持たない非受容体型チロシンキナーゼと増殖因子受容体のように膜貫通型の受容体型チロシンキナーゼの2種に大別される。
  • ヒトゲノムには90種ほどのチロシンキナーゼが存在し, 32種(10のサブファミリー)が非受容体型, 58種(20のサブファミリー)が受容体型に分類される。

チロシンキナーゼの基本的機能

チロシンリン酸化により種々のアダプター分子やシグナル分子を特定の場所に集積, その結果活性化されるシグナル伝達経路を介して細胞増殖、分化、生存、死など細胞の運命を決定している。

受容体型チロシンキナーゼ(RTK)の主要なシグナル伝達経路は(1) MAPK経路と (2)PI3キナーゼ(PI3K)経路である。

 
RTKfamily.jpg

代表的な受容体型チロシンキナーゼ

  1. ErbB受容体ファミリー
    上皮成長因子 (EGF) 受容体(EGFRあるいはHER1)、HER2、HER3、HER4
  2. 血小板由来増殖因子(PDGF)受容体(PDGFR)
  3. ニューロトロフィン(神経栄養因子)受容体、TrkA、TrkB、TrkC
  4. インスリン受容体およびインスリン様増殖因子(insulin-like growth factor、IGF1)受容体
  5. 血管内皮細胞増殖因子 (VEGF) 受容体 (VEGFR)
  6. 幹細胞因子(Stem cell factor、scf)受容体(がん遺伝子としてc-kitとも呼ばれる)
     
    多くの細胞外・細胞表面シグナルタンパクがRTKを使っている。膜結合リガンドの最大グループはエフリン(ephrin)でヒトでは8種類が同定され, 発生時の細胞や軸索の移動の際, 誘因や反発の応答により特定の特定の経路に沿って誘導するなど多くの機能をもつ。
    受容体はEph受容体(Ephreceptor)とよばれ, RTKのなかで最も数が多くヒトでは13個の遺伝子がある。
     
    エフリンとEph受容体は同時にリガンドと受容体の両方の働きをする点で特異的である。この二方向性シグナル伝達(bidirectional signaling)は発生途上の近隣の細胞グループどうしが混在しないようにする場合などに必要と考えられている。
 

Srcファミリーチロシンキナーゼ(非受容体型チロシンキナーゼ)

非受容体型チロシンキナーゼは, 細胞内に活性ドメインをもたない受容体と共役し, 受容体シグナルをチロシンリン酸化反応に転換する

SrcはT細胞受容体(TCR)や細胞接着分子インテグリンのシグナル伝達に働きその機能がよく理解されている。

TCRシグナル: 抗原提示によりTCRが刺激されると、まずSrcファミリーのLckが活性化される。LckはTCRのζ鎖をリン酸化する。リン酸化ζ鎖に細胞質のZAP-70とよばれる非受容体型チロシンキナーゼが結合, 活性化する。 次いでZAP-70は膜アダプタータンパク質LATをリン酸化する。リン酸化LATはCa2+動員の2次メッセンジャーであるイノシトール-3-リン酸(IP3)を産生するPLC-γや、Grb2や, PI3KをリクルートすることによりT細胞活性化に必要な下流シグナル伝達経路を活性化することになる。

インテグリンシグナル: インテグリンの下流ではSrcやFAKなどの非受容体型チロシンキナーゼが活性化し, FAK自身やCasと呼ばれるSrc基質タンパク質にGrb2やCrkといったアダプター分子がリクルートされ、その後下流のMAPキナーゼ経路やRhoファミリーGタンパク質の活性化を介して, 細胞接着による細胞増殖細胞運動が制御される。


*1 山梨裕司 チロシンキナーゼのシグナル伝達 実験医学 2005;23(11):39-47

添付ファイル: fileRTKfamily.jpg 1993件 [詳細] fileEGFR.jpg 1578件 [詳細] fileEGFRautophospho.jpg 716件 [詳細] fileEGFR-RAS.jpg 1289件 [詳細]

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Last-modified: 2014-08-29 (金) 12:41:21 (1488d)