第2回東日本骨髄病理研究会?
Blimp1/PRDM1
B-cellの終末分化 †
文献*1
B細胞は抗原刺激に応答して抗体産生細胞である形質細胞へ終末分化をとげる。この分化に先立ち抗体遺伝子のクラススイッチ(class switch recombination: CSR)組み換えや体細胞突然変異(Somatic hypermutation: SHM)が生じる。この変化により抗体結合性向上と多様化が実現される。この後に転写抑制因子であるBlimp-1/ PRDM1が誘導されB細胞の終末分化が駆動される。転写因子Bach2はBlimp-1遺伝子を抑制しつつ, B細胞終末分化過程に伴う抗体遺伝子多様化を統合制御している。
形質細胞分化に先立つB細胞の変化:CSRとSHM †
Activation-induced cytidine deaminase (AID) 活性化誘導性シチジンデアミナーゼ
- AID= AICDA activation-induced cytidine deaminaseは刺激依存的にIgクラススイッチを起こすB細胞株CH12F3-2で, クラススイッチを誘導する条件で発現が増強する遺伝子として単離された。ヒトでは12p13に局在。
- 遺伝子はシチジンデアミナーゼファミリーに属するRNA編集デアミナーゼをコードしている。
- タンパク質は免疫グロブリンのSHM, 遺伝子変換, CSRを行い,遺伝子の欠損は常染色体潜性高IgM免疫不全症候群type2(HIGM2)の原因となる。
- AIDはシチジンデアミナーゼドメインを持ち成熟B細胞ではほとんど発現せず, 活性化B細胞でのみ発現する。活性化B細胞でもとりわけ胚中心B細胞で強く発現する。形質細胞への分化とともにその発現は再び消失する。
- AIDはシチジンデアミナーゼファミリーの中でもAPOBEC-1ともっとも高い相同性をもつ。APOBEC-1はコレステロールのキャリアタンパク質をコードするapoB100のmRNAの特定のシチジンを脱アミノ化してウラシルに変換することにより,apoB48のmRNAに変換する。
- AID欠損マウスではIgクラススイッチもIgV領域体細胞突然変異も起こらない。
また線維芽細胞などにAIDを発現させるとクラススイッチも体細胞突然変異活性を示すようになるのでAIDはIgクラススイッチとIgV領域体細胞突然変異を誘導するのに必要かつ十分な分子である。
- AIDがどのようにしてCSやSHMをおこすかは以下の2つのモデルが提唱されている。
- 1. AIDがAPOBEC-1と同様に何らかの標的遺伝子mRNAを編集することで標的遺伝子が機能を変換しクラススイッチや体細胞突然変異をおこす。この場合の標的遺伝子にはクラススイッチの際にS領域の切断やSHMの際に突然変異を導入する酵素などが想定されている。
- 2. AIDがRNAではなく, DNAに働くと想定。AIDが免疫グロブリン遺伝子のV領域やS領域に働き, DNAを変換し, V領域での塩基の欠失やS領域の切断をおこすというモデル。
- CSRやSHMはゲノムDNAに積極的に変異を導入する反応であり, このような反応がBリンパ球以外の細胞でおきたり抗体遺伝子以外の遺伝子を対象としておきればがん化の原因になるためAIDを厳密に制御することはがん化を防ぐという点で重要と考えられる。実際AIDはがん遺伝子としての作用を有することがマウスモデルで報告されている。*2
class switch recombination(CSR)にかかわる転写制御
- 抗体重鎖遺伝子座には抗原認識をする可変領域をコードするVDJエキソン群の下流に定常領域エキソン(C領域)がクラスターを形成し配列している。
- VDJに最も近い上流にはIgMを規定するCμエキソン, 次いでCδエキソンが位置している。未感作(ナイーブ)B細胞では同じVDJ領域をもつ膜型μ鎖, 膜型δ鎖が産生されL鎖と会合し膜型IgM, IgDとなる。
- B細胞が活性化, 分化してIgM分泌形質細胞になるとV領域はそのままの分泌型μ鎖のみを産生するようになりL鎖と会合して分泌型IgMとなる。分泌型/膜型μ鎖, δ鎖いずれが産生されるかはsplicingの違いにより決定される。
- 各アイソタイプ定常領域エキソン直前には特有のサイトカインなど上流シグナルに反応するIプロモーターが存在する。より下流にはIエキソン, およびDNA切断部位のS領域が存在する。
- 活性化B細胞ではCSRに先立って特定のIプロモーターからの転写が誘導され近傍のクロマチン構造が活性化される。
- この後AIDに依存する形でS領域のDNA切断が生じる。AIDの作用機構には不明な点が多い。同時に最上流にあるCμエキソン直上でも同様にDNA切断が生じ, 間にはさまれたDNA領域が除去され両端がDNA損傷修復系により再連結される。
- 結果, VDJ領域の下流に新しい定常領域エキソンが位置するようになり、IgG, A, Eのアイソタイプ抗体がつくられる。
- AIDは同時にVDJ領域への体細胞突然変異導入も何らかのかたちで引き起こす。*3
somatic hypermutation (SHM)
- 胚中心ではB細胞が抗原提示細胞やTリンパ球と相互作用し著しく増殖する。この際Igクラススイッチとともに, DNA修復酵素が重鎖VDJエキソン, 軽鎖VJエキソンに作用し個々の塩基配列に点変異を生じる。変異を生じる機構についてはまだよくわかっていない。この変化を体細胞超変異(somatic hypermutation)と呼ぶ。
- この結果少しずつ異なるIgV領域をもつB細胞が生じる。多くの胚中心B細胞は突然変異により抗原への反応性が消失するが, ごく少数親和性が増したIgを産生するB細胞が出現する。低親和性Igを産生するB細胞はアポトーシスを起こす一方, 高親和性Ig産生B細胞は生存し抗原に対し, 非常に親和性の高い可溶性抗体を大量に分泌できるようになる。(Igの親和性成熟 affinity maturation).
- 胚中心B細胞では体細胞突然変異の亢進はIgV領域以外では認められない。
抗体遺伝子自体によるB細胞終末分化の転写制御 †
- 成熟B細胞までの分化過程でも抗体遺伝子は発現するがそのレベルは形質細胞での発現と比較するとずいぶん低い。
- 形質細胞になる前は主にイントロンエンハンサーがIgH遺伝子の発現を制御する。
- 形質細胞ではIgH遺伝子の3'側に存在するエンハンサー(3' locus control Region: LCR)が活性化して高発現をもたらす。毎秒1000分子の抗体が産生されるといわれる。
- また3'LCRはIプロモーターの活性化を介しクラススイッチの特異性を左右する*4*5
LCR:
通常のエンハンサー活性に加えクロマチン構造を積極的に活性化する作用を有したとえばトランスジーンに連結して染色体に挿入した場合, 周辺クロマチン環境の影響を受けることなく遺伝子を活性化できる。グロビン遺伝子座で最初に同定された。
転写因子Bach2 †
- Bach2は塩基性領域・ロイシンジッパー(bZip)を二量体形成・DNA結合ドメインとしてもつAP-1系転写因子。
- bZipに加えてタンパク質相互作用やクロマチン構造制御にかかわるBTB(Broad complex-Tramtrack-Bric a brac)ドメインも有する。
- がん関連転写因子Mafファミリーの小Maf(MafF, MafG, MafK)とヘテロ二量体を形成、Maf群因子認識配列(MARE)に結合して転写を抑制する。*6
- Bach1は広範な細胞・組織で発現するのに対しBach2はBリンパ球や神経細胞に特異的である。Bリンパ球ではプロB細胞から成熟Bリンパ球までの分化段階で発現するが形質細胞では発現が低下する。*7*8
- Bach2は IgH3'LCRを抑制する。3'LCRは約40kbの領域に分散する複数の配列からなるが, その中にはMAREが複数存在する。Bach2はこのMAREに結合し3'LCRのエンハンサー活性を抑える*9. 3'LCRのエンハンサー活性がBリンパ球では低く、形質細胞では高いことと一致する。
- Bach2は活性化Bリンパ球でのCSRとSMHを実行する。Bach2ノックアウトマウスではB細胞分化はほぼ正常に起き, 成熟B細胞から形質細胞も分化してくるが抗原刺激に応答するCSRもSHMもほとんど認められない*10。このCSR障害はアイソタイプすべてにおよぶ。Bach2はCSRとSMHに必須の転写因子であり他に同様の転写因子は知られていない。
- Bach2ノックアウトBリンパ球でも刺激後のIプロモーターからの転写は正常に起きるのでCSR障害の原因は他にあると推察される。
- CSR障害と同時にSMHも障害されるので, CSRとSMHに共通に必要とされる遺伝子の発現を抑制している可能性がある。 Bach2ノックアウトBリンパ球ではAIDの発現が著しく低下する*11.このことからBach2はAID発現誘導に必須の因子といえるが, 基本的にBach2は抑制因子として働くためBach2とAIDの間に別の遺伝子が介在することが予測されている。
- Bach2ノックアウトマウスでは抗原刺激に応じた胚中心形成も障害される。よってBach2は活性化されたBリンパ球の移動, Tリンパ球との相互作用, または以後のBリンパ球増殖にも必要と考えられる。
Blimp-1/ PRDM1 †
- 転写抑制因子Blimp-1は, Bリンパ球が形質細胞へ分化する過程に必須の因子でマウス成熟B細胞が形質細胞へと分化する際に強く誘導される遺伝子として発見された。
- N末端側にSETドメインサブクラスであるPRドメイン, 中央にプロリンリッチ領域, C末端側にDNA結合にかかわる5個のZnフィンガーをもつ。SETドメインがメチル化酵素活性があるかどうかは不明。
- Blimp-1はコリプレッサーGroucho, ヒストン脱アセチル化酵素(HDACs), メチルトランスフェラーゼG9aをリクルートして標的遺伝子を抑制する.
- Blimp-1はBリンパ球特異的に欠損させても成熟Bリンパ球までの分化はほとんど影響されない。形質細胞への分化はまったく起きなくなる*12. Bach2と異なりIgM産生形質細胞すらできない。
- Blimp-1過剰発現によりB細胞株を形質細胞へと分化させることが可能*13でありBlimp-1は形質細胞分化マスター因子とされる。
- 標的遺伝子としてはPax5など初期Bリンパ球分化にかかわる遺伝子, c-Mycなど細胞増殖にかかわる遺伝子, Bcl6など胚中心形成・維持に必要な遺伝子などが報告されている。
- Blimp-1の標的遺伝子の多くはBリンパ球機能にかかわる遺伝子であることからBlimp-1は成熟B細胞の遺伝子発現パターンをキャンセルすることにより形質細胞分化を進めるとするモデルが提唱されている。*14
- Blimp-1の発現は形質細胞分化に先立って強く誘導される。
- Bach2はBlimp-1遺伝子を直接抑制する*15. Blimp-1遺伝子プロモータ-上流に進化的によく保存されたMAREが存在し, ここにBach2/小Maf二量体が結合して転写を抑える。
- Bach2ノックアウトBリンパ球ではベースのBlimp-1発現レベルが上昇し, 形質細胞分化の際にはBlimp-1発現レベルは野生型細胞よりも著しく高くなることから, Bach2の機能のひとつはBlimp-1遺伝子発現を抑えることといえる。
- AID発現を活性化するPax5遺伝子をBlimp-1が抑制, Bach2はBlimp-1遺伝子発現にブレーキをかけることによりPax遺伝子抑制を解放し, AID発現, さらにはCSRやSHMを許可する。以上のような形質細胞分化の遺伝子回路(デコード回路)の存在が推定されている。実際Bach2ノックアウトBリンパ球では活性化の際Pax5のダウンレギュレーションがより効率よくおきBlimp-1の発現上昇ともよく一致する。
- Bach2の抑制が解除されるだけではBlimp-1の誘導は起こらず何らかの活性因子が考えられている。
小Maf・他のbZip因子二量体や活性化作用を有する大Maf(c-Maf, MafBなど)のサブファミリーのいずれかが活性化因子として推定されうる。
- c-Maf, MafBはいずれも形質細胞由来骨髄腫原因遺伝子でもある*16
- IRF4はBlimp-1遺伝子活性化候補。IRF4ノックアウトマウスでは形質細胞が分化せずBlimp-1発現も誘導されない*17.Blimp-1遺伝子のイントロン領域にIRF4が結合し転写を活性化する。Blimp-1はIRF4の誘導に必要とされ, この2つの因子は互いにポジティブフィードバックループを形成し形質細胞分化を駆動するようである。
Gene: IRF4 (also known as MUM-1)--->IRF4 pubmed gene
- コードするタンパクは転写因子のinterferon regulatory factor familyに属し独特なtryptophan pentad repeat DNA-binding domainをもつ。ウイルス感染へのインターフェロン反応制御とインターフェロン誘導遺伝子の調節に重要な役割を果たす。このファミリーはリンパ球に特異的でありToll-like-receptor(TRL)シグナルを抑制的に調節する。この遺伝子とIgH遺伝子をふくむ転座t(6;14)(p25;q32), は形質細胞の原因となる。スプライシングバリアントが認められている。
6p25-p23に局在。Sequence :Chromosome: 6; NC_000006.11 (391739..411443)
Gene: Blimp-1(PRDM1 PR domain containing 1, with ZNF domain)--->Blimp-1 pubmed gene
- PRDM1 PR domain containing 1, with ZNF domain [ Homo sapiens ]
Gene ID: 639, PR domain containing 1, with ZNF domain provided by HGNC
別名:BLIMP1; PRDI-BF1
コードするタンパクはβインターフェロン遺伝子発現を抑制する。βインターフェロン遺伝子プロモーターのPRDI(positive regulatory domain I element)に特異的に結合する。この遺伝子の転写はウイルスにより誘導される。2つの異なったspliced transcript variantsがアイソフォームをエンコードすることが報告されている。
6q21に局在. Sequence :Chromosome: 6; NC_000006.11 (106534195..106557814)
Gene: BACH2 BTB domain and CNC homolog 2 [ Homo sapiens (human)]-->BACH2 pubmed gene
- Gene ID: 60468
Official Symbol: BACH2provided by HGNC
Official Full Name;BTB domain and CNC homolog 2provided by HGNC, Also known as BTBD25
Expression; Biased expression in lymph node (RPKM 7.1), appendix (RPKM 2.5) and 10 other tissues See more
Location:6q15,Exon count:16
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