Breast cancer--乳癌の診断と治療

BRCA1 and BRCA2

BRCA1/2はがん抑制遺伝子としてしられている.

TP53のように細胞周期を直接抑制するgate keeperではなく, ゲノム安定性に必須なcare taker型がん抑制遺伝子で, DNA損傷修復, 細胞周期チェックポイント制御, クロマチン再構成remodeling, 中心体制御など多彩な機能を有している. *1. これらはすべてゲノム安定性を維持するための機能である.

DNA損傷応答/修復はヒト発がんの抑制に機能する一方, DNA修復機能が亢進しているがん細胞では抗がん剤や放射線による細胞死が誘導されにくく治療抵抗性となる.

BRCA1/2の機能のうち, DNA相同組み換え修復(homologous recombination repair: HRR)は, 最も重要で, PARP(Poly(ADP-ribose)polymerase)阻害剤の感受性を左右する.

  • BRCA1 BRest CAncer 1 gene, BRCA1 DNA repair associated., 17q21
     
    BRCA1はHRRにおいて, 1) 切断端削り込みによる1本鎖DNA(ssDNA)の伸長, 2) 仲介役のPALB2を介して, BRCA2と結合し, BRCA2を損傷局所へ誘導する, 2つの過程で必須である.*2 *3 1)の十分な長さのssDNAがないとssDNAは姉妹染色分体へ侵入できない.
     
  • BRCA2 BRCA2 DNA repair associated., 13q12.3
     
    BRCA2の機能はBRCA1が多機能を有するのに比べ, HRRに限定している. BRC repeatと呼ばれる8つの繰り返し配列をもち, それぞれのBRC motifを介して, 複数のRAD51と結合する.
     
    BRCA1によりDNA損傷局所に誘導されたBRCA2は伸長したssDNAにRAD51を供給する. RAD51はリコンビナーゼという酵素であり, ssDNAに結合してDNA-RAD51フィラメントを形成し, 姉妹染色分体に侵入してホモロジーサーチ(相同部位探索)を行う相同組み換え修復のエフェクター分子として働く.
     
    BRCA2の細胞局在は時空間的に異なり, 細胞周期間期には中心体に局在し, その複製やポジショニングを制御する(中心体ダイナミックス制御)
     
    BRCA2は分裂期には染色体に結合し, 染色体維持・分配に関与する(染色体分配制), 細胞質分裂では2個の娘細胞の中間体切断を制御する(細胞質分裂制御)
     
    BRCA1,2はDNA損傷修復をはじめ, 中心体ダイナミクス制御, 染色体分配制御, 細胞質分裂制御と細胞周期の各時期や場所においてゲノム安定化に機能している.*4

DNA二本鎖切断(double-strand break: DSB)を配列エラーなく元通りに修復する機構がHRR. 細胞にとって, DSBは一本鎖切断(single-strand break: SSB)にくらべより致命的であり, 可及的速やかに修復する必要がある.

DSBは, アントラサイクリン系や架橋剤などの化学療法薬, 放射線の他, DNA複製にともなって発生する.

DSBの修復機構には, 切断端を単純に再結合する, 非相同末端再結合(non-homologous end-joining: NHEJ)と姉妹染色分体を鋳型にして損傷部位をより正確に修復するHRRがある.*5*6

細胞周期において, HRRが可能なのは姉妹染色分体が存在するS期およびG2期に限られる. G1期の細胞はNHEJにより修復される.NHEJは比較的正確であるがDSBの生じ方によってはエラーを起こす可能性がある.

 

相同組み換え修復メカニズム

相同組み換え修復(homologous recombination repair; HR) *7

DNArepair_Kumikae.jpg

DNA二重鎖切断は染色体の欠失や転座をひきおこす重篤なDNA損傷で, 電離放射線により誘発されることが知られていた.

最近の研究では, 損傷塩基と複製フォークの衝突によってもひきおこされることが示された.

塩基, およびヌクレオチド除去修復では, 損傷塩基を除去後に無傷の一本鎖DNAを鋳型にして修復合成できるが, DNA二重鎖切断にはこの方法が使えない. 修復には, S期あるいはG2期に存在する姉妹染色体分体の相同な部位を鋳型として使用する.

1. 損傷部に複合体MRN(MRE11/RAD50/NBS1), BCRA1, およびDNAヌクレアーゼCtIPとの複合体が形成される.

2. CtIPがDNA切断端から3'側のDNAを切除して, 一本鎖DNAを生成, RPA(複製タンパク質A)との結合により安定化する.

3. 次にBRCA2がRPAとRAD51との交換反応を促進, 一本鎖DNAにRAD51が巻きついたヌクレオフィラメントを形成する.

4. RAD51フィラメントは, 姉妹染色分体の塩基配列が相同な部位に侵入し, CtIPが分解した一本鎖のそれぞれが修復合成される. その後, ホリデイジャンクション中間体を経由して修復が完了する.

  • ホリデイジャンクションはHolliday Rにより遺伝子組み換え機構を説明するモデルとして提唱された. 二本のDNA二重鎖の一本鎖の鎖間交換により, それぞれのDNA二重鎖が鎖と交換していない鎖からなりたつ中間体構造.

5. MRN複合体の成分NBS1を欠失したナイミーヘン症候群(Nijmegen breakage syndrome: NBS)では高頻度にリンパ腫の発生が報告されている.

BRCA1, BRCA2は家族性乳がんのタンパク質でありゲノム安定性に重要なタンパク質である.

家系内集積性乳がん/ 家族性乳がん: 家系内に複数の患者さんがみられる乳がん.*4

遺伝性乳癌: 家系内集積性乳がん/ 家族性乳がんの中で常染色体顕性(優性)遺伝性の遺伝子の存在が強く示唆される乳癌*4

全乳がんの15-20%が家族性乳がんで, その約1/3が遺伝性乳がん(全乳がんの5%)

遺伝性乳がんの60-70%がBRCA1/ BRCA2遺伝子の変異により発生する遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(hereditary breast and ovarian cancer: HBOC).

 

合成致死性, PARP阻害薬の作用機序

合成致死性(Synthetic lethality): 酵母遺伝学の言葉で, ある1つの遺伝子Aに欠損がおこっても, その機能が他の遺伝子Bにより補完されると細胞は何ら不都合がないのに対し,
お互いに補完しあう遺伝子A, B両方に欠損がおこると細胞が死ぬ現象.

PARP阻害薬の作用機序は合成致死性であり, この場合の遺伝子AはPARP, 遺伝子Bは, BRCA1/2を含むHRRに必須な遺伝子となる.

PARPの機能

PARP(poly(ADP-ribose) polymerase)は, ポリADPリボシル化により側鎖をもつADPリボース鎖を, PARP自身を含む標的タンパク質に付加する酵素である.

ADPリボース鎖は種々のDNA修復タンパク質をDNA損傷部位に誘導し, DNA一本鎖損傷修復(single-strand break repair:SSBR)*8,と代替非相同性末端再結合(Alternative non-homologous end-joining: Alt-Ej)に必須な役割を果たす.

ヒトではPARPは18ものメンバーをもつファミリーを形成するがこれらの機能に関わるのは主にPARP1であり, PARP2は一部補完的な役割を果たしていると考えられている.

 
  • PARP阻害薬によりDNA複製途中などで生じる一本鎖切断を修復するPARPを阻害すると塩基除去修復が機能しないため細胞は一本鎖切断を二本鎖切断に変換し, 二本鎖切断修復機能を使って修復を試みる.
  • このときBRCA変異などによりHR修復機構が行えない場合, 非相同末端結合(NHEJ)やマイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)による修復が行われるか, または修復がおこなわれず二本鎖切断が持続する.
  • NHEJやMMEJなどによる修復は非常にエラーが多く, これらの機構で修復された細胞にはゲノムの複雑な再構成が生じ, 細胞死が誘導される.

従来の抗がん剤の腫瘍効果はDNAを損傷させ細胞死を誘導するものであり, BRCA変異などによりDNA損傷修復能が低い細胞では合成致死(synthetic lethality)が誘導されやすい. 実際DNA損傷修復能が低いHBCOはDNA障害型抗がん剤(カルボプラチンなど)に感受性が高いことが明らかになった

PARP阻害薬のPARPに対する作用

  1. PARP酵素活性阻害; PARPのDNA一本鎖切断修復を阻害する.
     
  2. PARPのDNAへの取り込み(PARP trapping); 修復のためDNA損傷部にリクルートされたPARPがDNAから遊離するのを阻害する. DNA-PARP複合体が増加しDNAを損傷する.
     
  • ´△料蟆壇あるいは相乗効果による抗腫瘍効果がPARP阻害剤の効果と考えられる.

漿液性卵巣がんの合成致死療法--niraparib

漿液性卵巣がんのゲノム解析では, 約50%にBRCA1・2遺伝子, Fanconi貧血関連遺伝子, EMSY遺伝子, PTEN遺伝子などの異常がみつかりDNA損傷のHR修復機構が低下している可能性が示唆され, これらの卵巣がんには, PARP阻害薬, あるいはカルボプラチンなどの白金製剤による治療が有効と考えられた.

  • 卵巣がんで白金製剤に感受性を示したが再発した症例をBRCA遺伝子変異陽性群と陰性群にわけ, 各々をさらに無作為化しPARP阻害薬 niraparib治療群とプラシーボ群の無増悪生存期間を比較するとBRCA遺伝子陽性群でのniraparib治療群が優位によ良かったとする結果が報告された. *9
  • BRCA遺伝子変異陰性群でもniraparib治療群で無増悪生存期間が良かったためにゲノムワイドな解析情報であるhomologous recombination deficiency(HRD)scoreを作成, 組み込んだ解析では, HRD score陽性がniraparib治療の無増悪生存期間のよい指標になると示された.*10
  • BRCA遺伝子変異陰性, HRD score陰性でもniraparib有効例が存在することからHRD scoreはまだ改善の余地があるとされている. *9

PARP阻害薬の耐性機序と感受性症例の選定

BRCA1・2遺伝子変異があっても, DNA損傷修復機能が保たれ, PARP阻害薬に抵抗性を示す症例があるため, BRCA1・2遺伝子変異陽性乳がん/卵巣がんを対象としたPARP阻害薬の臨床試験は期待したほどの治療効果はえられなかった.

  1. BRCA変異による機能消失に対し, BRCAの二次的変異により部分的にDNA損傷修復機能が回復している.
     
  2. BRCA変異に加えて53BP1やRNF168の障害による部分的にDNA損傷修復機能が回復している.
     
  3. PTIPの障害, CDH4, PARPの過剰発現による複製フォークの保護
     
    P糖タンパク過剰発現による薬剤耐性など

PARP阻害薬感受性症例の選定方法

1.recombination proficiency score(RPS)*11: DNA損傷修復に関わる遺伝子の中から4種類の遺伝子(Rif1, PARI, RAD51, および Ku80)を選び遺伝子発現量を利用する.

これら4種類の遺伝子発現量が多い場合を lowRPSとし, low RPS腫瘍は変異原性が高く, 臨床症状が高度で低生存率. HRの抑制はゲノム不安定性をより強くして悪性度の進行をきたすと推察される.

2.homologous recomibination deficiency score(HRD): PARP阻害薬の感受性例を選別するためにがん組織のDNA損傷修復機能を数値化した指標.*10

SNPアレイとシークエンス技術を組み合わせた情報からゲノムの再構成の状態を解析して

  1. loss of heterozygosity(HRD-LOH)スコア
  2. telomeric allelic imbalance(HRD-TAI)スコア
  3. largescale state transition(HRD-LST)スコア の3種を算出統合.

HRDスコアが高い(positive)症例はDNA修復能が低く「感受性」であり, スコアが低い(negative)症例はDNA修復能が維持されているために「抵抗性」である可能性を示す.


*1  Venkitaraman AR.Cancer susceptibility and the functions of BRCA1 and BRCA2. Cell. 2002 Jan 25;108(2):171-82.
*2  Xia B, et al. Control of BRCA2 cellular and clinical functions by a nuclear partner, PALB2. Mol Cell. 2006 Jun 23;22(6):719-29.
*3  Zhang F, et al. PALB2 links BRCA1 and BRCA2 in the DNA-damage response. Curr Biol. 2009 Mar 24;19(6):524-9.
*4  三木義男 BRCA遺伝子の基礎と合成致死療法の開発にむけて 医学のあゆみ 2017;261(5):423-428
*5  Ciccia A, et al, The DNA damage response: making it safe to play with knives. Mol Cell. 2010 Oct 22;40(2):179-204.
*6  Ceccaldi R, et al. Repair Pathway Choices and Consequences at the Double-Strand Break.Trends Cell Biol. 2016 Jan;26(1):52-64.
*7  渋谷正史ほか編集 がん生物学イラストレイテッド2011;155-157, 羊土社 東京
*8  Konecny GE, Kristeleit RS, PARP inhibitors for BRCA1/2-mutated and sporadic ovarian cancer: current practice and future directions. Br J Cancer. 2016 Nov 8;115(10):1157-1173.
*9  Mirza MR, et al., Niraparib Maintenance Therapy in Platinum-Sensitive, Recurrent Ovarian Cancer. N Engl J Med. 2016 Dec 1;375(22):2154-2164.
*10  Timms KM, et al., Association of BRCA1/2 defects with genomic scores predictive of DNA damage repair deficiency among breast cancer subtypes.Breast Cancer Res. 2014 Dec 5;16(6):475.
*11  Pitroda SP, et al., DNA repair pathway gene expression score correlates with repair proficiency and tumor sensitivity to chemotherapy. Sci Transl Med. 2014 Mar 26;6(229):229ra42.

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Last-modified: 2018-09-02 (日) 22:00:58 (107d)