Breast cancer--乳癌の基礎

 

乳癌のmolecular classification

2000年, Perou CMらは, DNAマイクロアレイをもちいて, 遺伝子発現パターンによる乳癌分類をおこなう.
同一腫瘍で再現性のある発現パターンを示す496遺伝子のサブセットを選択し, intrinsic gene subsetとしてこれらを乳癌検体で再検討しintrinsic subtype分類を樹立した.*1

PerouやSorlieによりintrinsic subtype分類を樹立した.*1*2萌芽的研究が行われ, 遺伝子発現パターンにより乳癌を分類できることが示唆され, 分子肖像(molecular portrait)と呼ばれた. 後, TCGAやMETA-BRICによる大規模研究により初期の成果が確認されさらに詳細なmolecular portraitが描かれている.

Perouらのintrinsic subtype classification : 「intrinsic」; original paperでは, 「個々の腫瘍で発現が変化しない, 固有の発現状態を示す」という意味*3

1) luminal type: 管腔型

2) basal-like type: 基底様(類基底)型

3) HER2(ERBB2) type: HER2型

4) normal breast-like: 正常乳腺様型

この分類のkeyとなる遺伝子クラスターには, 以下のものがある

1. HER2クラスター;HER2, GRB7などHER2を含む17q12の増幅単位(amplicon)に位置する遺伝子群.

2. 基底上皮関連クラスター;CK5, CK17, EGFR, P-cadherinなど基底上皮/筋上皮に特徴的な遺伝子群.

3. ルミナル(管腔)上皮/ERクラスター;ERα, XBP1, FOXA1, GATA3など,管腔上皮に発現し, ERαにより発現が制御される遺伝子群.

4. 正常乳腺様クラスター;脂肪組織など非上皮組織で発現する遺伝子群

 

 高精度マイクロアレイによる, 細胞増殖遺伝子クラスターを加えた再サブクラス分類 (2006 Huら*4)

1) Luminal A type; ERクラスターが高度に発現する型

2) Luminal B type; ERクラスター発現がより低く, 細胞増殖クラスターの発現が高い型

3) HER2陽性(HER2+) type; HER2クラスター発現が高く, ERクラスター発現がほぼ陰性.

4) 基底細胞様 basal-like type; 基底上皮細胞特徴的分子を発現. 細胞外分子発現も高い傾向がある.

この4型が現在の intrinsic subtypeの基本型となっている.

  • Huらのintrinsic subypte分類は癌細胞のgradeや予後とも強い相関があった.
     

管腔細胞型 Luminal type

  • 乳癌の大部分をしめ, 正常乳腺管腔上皮で発現している, CK8やCK18の発現や管腔細胞型発現シグネチャー(ESR1, GATA3, FOXA1, XPB1, MYBにより特徴づけられる.
  • 管腔細胞型はER陽性乳癌の大部分をしめ, 管腔細胞型A(luminal A)と管腔細胞型B(luminal B)の2つのサブタイプに分類される.
  • luminal Aはより一般的であり, ER関連遺伝子の発現が高く, HER2クラスターと増殖関連遺伝子の発現が低い.
  • luminal BはER関連遺伝子の発現が低く, さまざまな発現レベルのHER2クラスター, 増殖関連遺伝子の高発現が特徴.
  • luminal Aはluminal Bに比較して予後が良好である.

HER2(HER2-enriched)型

  • HER2型は全乳癌の10〜15%をしめ, HER2および増殖関連遺伝子の発現が高く, ER関連遺伝子の発現が低い.
  • 最近のTCGAの研究によると, IHC, FISHにより分子的にHER2陽性と診断された乳癌のすべてが臨床的にHER2型であったわけではなく, 逆もまた同様であった.
  • 遺伝子発現プロファイルからはHER2型とはみなされない, 臨床敵にHER2陽性乳癌の大部分はHER2を高発現するが, 管腔細胞型の発現プロファイルを示す.

HER2遺伝子(c-erbB-2, neu)増幅またはHER2タンパク質過剰発現が認められるHER2陽性乳癌は全乳癌の10-30%

HER2陽性乳癌は組織学的異型度が高い(Grade3), invasive ductal carcinomaが多く, なかでも広範囲に乳管内進展成分を有する例に高頻度に認められる.

2001年にトラスツズマブ適応以前は予後不良の癌と知られる一方で, アンスラサイクリン系抗がん剤に感受性が高いことも知られていた.

HER2陽性乳癌のうちホルモン受容体陰性のHER2陽性乳癌は, HER2-enriched型とよばれ, ホルモン受容体陽性のluminal B(HER2陽性)型とは別に治療戦略をたてられている.

HER2検査ガイドが, 乳がんHER2検査病理部会より作成されており, IHC法によるHER2発現判定基準, ISH法によるHER2増幅判定基準ほかが記載されている. 2001年の初版いらい3度の改訂が行われ, 現在は第4版が出版されている.--->日本病理学会のPDFが無料でダウンロード可能.

エストロゲン受容体陰性型

mark-B.jpg ER陰性型は多様な腫瘍からなる集団で, 典型的にはER, PgR, HER2陰性で, しばしばトリプルネガティブ乳癌(triple negative breast cancer; TNBC)と呼ばれる.

  • すべての基底細胞型乳癌がtriple-negativeとは限らず, その逆も同様である.
  • ER陰性型の基底細胞型乳癌は, (第一世代のマイクロアレイで同定されている) 増殖関連遺伝子と基底細胞タイプのCKを高発現.
  • 細胞周期制御関連遺伝子の低発現がみられ予後は不良.
  • 基底細胞型はER陰性型に最も多くみられ(全ER陰性乳癌の50〜75%), 全乳がんの15〜20%を占めるが, 低クローディン(claudin-low), インターフェロン型(interferon-rich), アンドロゲン受容体型, 正常型(normal-like)などその他のタイプのER陰性乳癌も存在する.
  • 低クローディン型は基底細胞型と似ているが, 上皮細胞の密着結合に関与するクローディン遺伝子の低発現がみられる.また
    上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition; EMT)という幹細胞様の特徴をもつ.*5

mark-Or.jpg Triple negative breast cancer(TNBC)のサブタイプ

多様なtriple-negative breast cancerの特徴をとらえるために原発腫瘍の発現プロファイリングが行われ, 6つのサブタイプが同定された. これらの分類は, それぞれ異なる治療法に対する感受性をもつという前臨床的証拠(preclinical models for selection of targeted therapies)が示されている.*6
このようなトラスレーショナルな関連はさらに検証が必要である.

  • 2種の基底細胞型
     
  • 免疫修飾型(immunomodulatory)
     
  • 間葉型(mesenchymal)
     
  • 間葉系幹細胞型(mesenchymal stem-like)
     
  • 管腔細胞アンドロゲン受容体型(luminla androgen receptor)
     
    breastCa-class.jpg

mark-R.jpg 乳癌分子分類の厳密な定義については盛んに議論され, 複数の独立したデータセットで再現性が確認されて予後予測における有効性が確かめられている.

mark-R.jpg 治療方法は乳癌患者さん全体ではなく, 分子分類に基づいて検討されるべきであり, ER, PgR, HER2の状態により乳癌を分類したうえで評価を行うための臨床研究が計画されている.

  • St.Gallen International Breast Cancer Conferenceにおいて2011年, 乳癌は単一の疾患ではなく, 遺伝子アレイテスト,あるいはKi-67などの増殖マーカとER/PgR/HER2の状態の組み合わせによる近似法をもちいて分類すべきであると提唱され, 2013年同委員会はこの見解を再確認している. *7
  • 全乳癌症例にgene profilingをおこなうのは実際的ではなく, 2013年のSt.Gallen consensus 会議では,一般的な病理検査で得られる免疫組織化学法を主体としたER/PgR/HER2/Ki67状況に基づくintrinsic subtypeの代替定義が採択されている.*8*9

分子分類による乳癌の遺伝的異常

全タイプの乳癌の変異プロファイリングにより乳癌は非常に多様であることが確認された.
TCGAのデータでは, 10%以上の頻度で体細胞変異がおきている遺伝子は, TP53, PIK3CA, GATA3の3つだけであった.*10

乳癌の変異プロファイルにはサブグループごとに特定のパターンが観察された.

  • 有意に変異をおこしている遺伝子の割合は管腔細胞型で最も低かったが変異スペクトルの観点では最も多様であった.
     
  • Luminal Aで最も高頻度の変異は, PIK3CA(45%)で,MAP3K1, GATA3, TP53, CDH1, MAP2K4が続いた.
     
  • Luminal BもLuminal A 多様な変異スペクトルを示し, TP53とPIK3CAがともに29%で最も高頻度であった. TP53についてはLuminalAでは変異が少ない(12%)のに対して Luminal Bでは変異が多い(29%)という違いがみられた.
     
  • HER2型においてもTP53(72%)とPIK3CA(39%)の変異が多いが, 管腔細胞型とは異なり他の有意な変異の頻度は低い.
     
  • 基底細胞型は通常, TP53の変異を有し(80%), 管腔細胞型と共通する変異はほとんどないと考えられる. TP53変異も基底細胞型は多くの場合, ナンセンス変異かフレームシフト変異であり, 管腔細胞型にミスセンス変異が多いのと対照的であった.
     
  • 基底細胞型の変異は漿液性卵巣癌と類似性を示している.*11

乳癌予後予測に関連する遺伝学的シグネチャー

遺伝子発現分子シグネチャーは, 現在, 予後の予測や化学療法と内分泌療法の有効性予測のために臨床的にもちいられている.

  • van't Veerら, van de Vijverらにより転移の可能性の高い乳癌患者群を同定するため遺伝子発現解析が最初に応用された.
    予後不良シグネチャーをもつグループでは, 遠隔転移ハザード比は5.1(95%CI; 2.9〜9.0, p<0.001)で, この評価法を使った全身化学療法の必要性を検証する前向き研究がEORTCとBreast International Group(BIG)により行われている.
  • 予備的研究では,70遺伝子の発現パターンが予後予測に有効でありSt.Gallen委員会が用いているものをはじめ古典的な予後判定基準よりも優れていた. しかしながらその効果は当初の報告より弱く, 遠隔転移時間のハザード比は1.85(1.14〜3.0)で, OSのハザード比は2.5(1.4〜4.5)であった.
  • 70遺伝子の発現解析はMamma Printとして商品化されFDAからクラス2,510(k)製品として認可をうけている.
  • そのほかにRotterdam発現シグネチャーやGenomic Grade Index(GGI)などの予後判定遺伝子発現解析が開発されている.
  • Rotterdam発現シグネチャー; 76遺伝子のパターン解析によりリンパ節転移陰性の高リスク症例を同定する.
  • Genomic Grade Index(GGI); 組織学的に中悪性度の乳癌症例中から予後不良群と予後良好群を鑑別することが可能.
  • これらの発現解析の有用性はいまだ明確ではない. 標準的なあるいは臨床的変数では認識できないような予後グループを遺伝子発現解析により認識できることは強調されるべきである.

治療効果予測のためのシグネチャー

mark-Or.jpg 内分泌療法

Oncotype Dx*12;250の候補遺伝子から開発された, 16のがん関連遺伝子と5つの参照遺伝子をもちいて0〜100の再発スコアを計算するアルゴリズムが開発され, それにより10年での再発可能性が評価される*13.

Paikら*13により, 2つのランダム化比較試験をもちいた解析結果が報告されている.

  • NSABP(National Surgial Adjvant Breast and Bowel project)-B14では, リンパ節転移陰性のER陽性腫瘍が, タモキシフェン療法あるいはホルモン療法なしにランダムに振り分けられた.
  • NSABP-B20ではリンパ節転移陰性のER陽性腫瘍が, タモキシフェン単剤とあるいはタモキシフェン, シクロスホスファミド, メソトレキセート, フルオロウラシル(CAM療法)併用療法にランダムに振り分けられ
    この組織検体をもって, 低リスク群(再発スコア18未満), 中リスク群(再発リスク18〜30), 高リスク群(再発リスク31〜100)の3つの再発リスク群が設定された.
  • この設定により, NSABP-B14の検体を解析すると, 10年遠隔転移の割合は, 低リスク群で6.8%(95%CI; 4.0〜9.6), 中リスク群で14.3%(95%CI; 8.3〜20.3), 高リスク群で30.5%(95%CI; 23.6〜37.4%)であった.

PaikらはさらにNSABP-B14, およびNSABP-B20の別グループの患者さんを含めて解析し, Oncotype DxによりCMF療法の効果を予測できることを示している*13.

  • NSABP-B20で, 低および中再発スコアの場合, 化学療法の利益はほとんどないが, 高再発スコアの場合には化学療法の利益が高い.
  • 逆にNSABP-B14においてはタモキシフェンの効果は低リスク中リスク群に限られている.
    これらの結果からは, 臨床的特徴(リンパ節転移陰性, ER陽性)から予後良好と推察される患者さんにおいては, Oncoypte Dxによりタモキシフェン単独が効果的(低リスク群)なのか化学療法が効果的なのか(高再発リスク群)を決定できるとされている.
  • 中再発スコアの患者さん(Ca 25%)に化学療法が有効かどうかは不明であり, 現在前向きランダム化試験(Tailor Rx)が行われている. この試験では中再発スコア群は内分泌療法単独かあるいは併用療法かに振り分けられている.

リンパ節転移陽性の低再発スコアでは, 5-FU, アドリアマイシン(ドキソルビシン), シクロスホスファミド併用療法(FAC)の効果がなかったことが示された*14. Oncotype Dxはリンパ節転移陽性患者でも有用なことが示されたが, さらに最新レジメでの追加評価が必要である.

Oncotype Dxのアロマターゼ阻害薬のホルモン療法効果予測の報告が最近なされ, タモキシフェンとアナストロゾールの両方で同等に有効であることが示されたがどちらが有効なのかは明示されなかった.*15

腫瘍のサイズ, グレードなど臨床病理学的因子とOncotype Dxはそれぞれ予後予測因子として有用のため, これらを統合して単独の予後予測よりも精度をあげられるかどうかが最近検証された.*16*17
ER陽性, リンパ節転移陰性の患者さんにおいて, 統合スコアをもちいて再発スコア単独よりも有意な予測が可能であった.

oncotypeDx and BCI.jpg
  • 統合スコアにより中リスク群に分類される患者さんが減少しリスク分類が改善した,
  • 化学療法の効果については, 臨床病理学的因子の追加による改善はみられなかった.

Oncotype DxとBCI(右図)*18

 

mark-R.jpg Breast Cancer Index(BCI)-Avaria Dx社, California

ER陽性乳癌のその他の予測法として Breast Cancer Index(BCI)-AvariaDx?社, California がある.

  • 定量的RT-PCRをもちいて, HOXB6とIL17BR遺伝子の発現量を測定し, 増殖スコアも考慮. 未治療ER陽性, リンパ節転移陰性患者の再発リスクマーカとなることが確認されている*19*20.
  • ER陽性, リンパ節転移陰性のタモキシフェンで治療された乳癌の2つの研究で有用性が示された.
    さらに最近の研究では, 補助内分泌療法後の, 後期再発の予測に有用であることが示されている*21.
  • ATAC試験(Arimidex, Tamoxifen, or Alone or in Combination Trial);BCIとOncotype Dx, IHC4(IHCで4種類のタンパク質発現を解析しスコア化する)とを比較.
    タモキシフェンあるいはアナストロゾールを投与された, ER陽性, リンパ節転移陰性例においてBCIが初期と後期の再発を両方予測できる唯一の予想指数であった.*22.
    この試験は5年間の内分泌療法をうけた閉経後女性患者さんを対象にしておりこの集団で臨床的価値をもつと推察される.
     
     

PAM50

乳癌多重遺伝子検査のひとつ, 基本的に早期手術可能乳癌, 特にホルモン受容体陽性でリンパ節転移陰性または1-3個まで症例が対象で
予測予後や, 内分泌療法に化学療法を加えるかどうか, 適応決定診断を目的にする.
PAM50/Prosigna®の他, Oncotype DX®, Mamma Print®, Map-Quant DX®, Endo-Predict®, Curebest 95GC Breast®がある.

Perouらが提唱したintrinsic subtype分類をFFPE組織の測定系で乳癌診断用に開発されたもので50gene assayともよばれる.

Prosigna(NanoString? Technologies, Seattle, WA)という商品名で測定系のNanostring nCounter Dxとのセットでintrinsic subtype分類とリスク評価モデルとして臨床検査に導入されている.

pN0乳癌症例の検討では, subtype分類と, 腫瘍ごとに算出する再発リスクrisk of relapse(ROR)は予後と有意に相関し, 術前化学療法の効果予測が可能であった.

内分泌療法を受けたER陽性乳癌患者さんで, RORスコアは予後予測, 晩期遠隔再発予測に有用であった.

 

乳癌のエピジェネティクス

  • TCGAの研究によると, 乳癌はサブタイプにより異なるメチル化パターンがあることが報告されている.*10
  • 管腔細胞型Bではメチル化過剰であり, 基底細胞型では低メチル化である.*10
  • 主要なエピジェネティクスがん治療薬にはDNAメチル基転移酵素(DNA methyltransferase; DNMT)やヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase; HDAC)の阻害薬がある.
    乳癌では, HDAC阻害薬が乳癌細胞に効果があり, 多くの第I相, 第II相試験が進行中である.*23*24*25

mark-R.jpg マイクロRNA(miRNA)と乳癌-->microRNAのページへ

miRNAは小さな非コードRNAであり, 2つの方法で多数のターゲットmRNAの転写を制御する調節分子.*26

  • RNA干渉; miRNAが完全に相補的なタンパク質コードmRNAに結合することによりRNA-mediated interference(;RNAi)経路を, 誘導する.
    mRNAはRNA誘導サイレンシング複合体(RNA-induced silencing complex: RISC)中でRNA分解酵素により分解される
  • 第二の方法は, 標的タンパク質コードmRNAの3'非翻訳領域(3'UTR)内の不完全な相補領域に結合し翻訳レベルで遺伝子の発現を抑制する.*27
  • miR-21, miR-155, miR-7, miR-210は高悪性度の乳癌で過剰発現している.
  • let-7, miR-125aは乳癌で発現が低下している. miR-125aはERBB2とERBB3を阻害することで, がん抑制遺伝子として機能していると考えられている.
  • TCGAの研究により, マイクロRNA発現プロファイルにより乳癌に7つのサブタイプが同定されてた. これらのmiRNAクラスターのうち2つがTP53変異と相関し, 基底細胞型と一致する.
    それ以外の変異状態や, mRNAに規定される乳癌サブタイプとの相関は見られなかった.*10
  • miR-210などの低酸素にかかわるmiRNAは乳癌予後不良を示すバイオマーカであることが示されていることなど, miRNAの発現異常のパターンが予後および放射線療法への反応性にかかわることが報告されている.*28
  • ドキソルビシンやタモキシフェンに対する耐性とかかわるmiRNAがあることがin vitroで示されている.*29*30
  • miRNAが予後予測バイオマーカになるのか, 治療標的となるのか乳癌での研究がすすんでいる.

乳癌--タンパク質とその経路の異常

hallmark of the cancer; がんに関連する分子メカニズムががんのホールマークとして提唱された. (originalは2000年の総説で, 2011年に改訂された)*31

提案されたホールマークにふくまれるのは,

  • 自律的増殖シグナル
  • 増殖抑制からの回避
  • 細胞死への抵抗性
  • telomere短小化抑制による不死的複製
  • 血管新生
  • 浸潤と転移
  • ゲノム不安定性
  • 代謝の脱制御
  • 腫瘍免疫の回避

遺伝的異常やエピジェネティックな異常は多くの場合, タンパク質の発現量, 機能, 相互作用の異常やシグナル伝達系の異常に反映される.
TCGAの研究により特定の乳癌のサブタイプと関連するプロテオームに関する知見が得られ, ERやHER2など古典的なドライバー以外の重要な治療標的が示された.*10

多くの異常が協調して悪性の表現型をもたらすことは疑いがない, その中で, いくつかのKyeとなるタンパク質とその経路が乳癌の発生と成長において決定的に重要な促進因子となっており, 治療のターゲットになる.

エストロゲンシグナル

乳癌とエストロゲン, エストロゲン受容体

乳癌のほとんどが, エストロゲンへの暴露とERシグナル伝達経路の異常と密接にかかわっている.

  • リガンドの結合により活性化したエストロゲン受容体(ER)は協調して働く制御タンパク質とともにエストロゲン応答遺伝子プロモーター領域のエストロゲン応答配列に結合し, 続いてプロゲステロン受容体(PgR)などのさまざまな増殖促進的な遺伝子が転写される
  • ERの発現レベルは生物学的に興味深いだけでなくすべてのER発現乳癌の治療に推奨される抗エストロゲン治療の効果的な治療反応性予測因子である.
  • 浸潤性乳癌の7割でERの過剰発現があるがその機構は明らかではない. 遺伝子増幅もそのひとつと考えられるが, 転写異常や転写後修飾(たとえばmiRNAによるmRNA発現量の調節) なども原因の可能性がある.
  • 最近の研究では, ER変異がERシグナル経路を恒常的に活性化し抗エストロゲン療法に対する耐性の原因となっている可能性がある.
  • エストロゲン効果はゲノム的(genomic;転写調節因子であるER核内受容体を介しておこる効果), あるいは非ゲノム的(non-genomic)に発揮される. ゲノム的な効果と異なり, 非ゲノム的効果はきわめて迅速で(エストロゲン暴露から数秒ないし数分以内), 膜結合ERあるいは細胞質ERのホルモン依存的な活性化によると考えられている。
  • このような核外のERの活性はEGFR, インスリン様増殖因子-1受容体(IGF-1R), c-Src, Shc, PI3Kのp85α調節サブユニットなどの重要な増殖制御キナーゼを急速にリン酸化および活性化させる. このようなERと増殖因子受容体のクロストークは双方向性である.
    • たとえばHER2の恒常活性化によりERシグナルが上昇し抗エストロゲン療法に不応性となる. これらの知見から獲得性あるいは生得的な抗エストロゲン療法への抵抗性がHER2/IGF-1R/EGFR活性化によることが示唆される.

増殖因子受容体経路

ヒト上皮増殖因子受容体2 (HER2)

RASとホスファチジルイノシトール3-キナーゼ経路

血管新生


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Last-modified: 2019-04-23 (火) 21:03:33 (204d)