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注意:この治療法は現在確立されたものではなく, 臨床試験研究中の治療法です. 「たくさんのお金を払えば, この治療をする」という話は完全にインチキ(十分な臨床試験による効果が確認されていない時点でお金はとれないでしょう.)なので,
患者さんはだまされないように注意してください。必ず主治医の先生や腫瘍専門医の先生にご相談ください。(当サイトは治療をすすめるものでなく, 被害にあわれても管理者は責任がもてません)

 

CAR-T; Cellular immunotherapy using chimeric antigen receptor-expressing T-cells

養子免疫療法

がん患者さんからT細胞を採取して体外で培養, 増殖させ活性化した後に再注入する養子免疫療法は以前からがんに対する免疫療法としておこなわれてきた。

しかし, がん特異性のないT細胞を再注入しても臨床効果はなかった. ホルマリン固定パラフィン包埋組織から「がん抗原」と称するものを取り出し, それで免疫賦活したT細胞を再注入する治療も, 一部の例外を除いては効果が確認できなかった. この治療が健康保険適応外で法外な値段で行われ, がんで苦しむ患者さんに, 経済的負担でさらに追い打ちをかけた事例が厚生労働省の注意指導を受けたことが最近のニュースで取り上げられている。

一部の例外としては, 悪性黒色腫(melanoma)において, がん抗原特異的なエフェクターT細胞を含む細胞集団の注入で治療効果を示す症例が報告されている. (TIL; tumor-infiltrating lymphocyte).
TIL療法においても良好な状態の腫瘍切除組織が必要であることや, 必ずしも良好なTILを培養することができない例も存在することから汎用性や応用性には問題が山積みの状態である。(街のクリニックが簡単にできる状況ではありません)

CAR-T療法*1

がん特異性をもたないT細胞に遺伝子操作による改変を加えて, 末梢血から, がん特異性を獲得したエフェクターT細胞を大量に, 確実に作成する技術(遺伝子改変型T細胞療法)を用いる次世代の養子免疫療法のひとつ。

 
CAR-T.jpg
 

chimeric antigen receptor(CAR)の分子構造は, 腫瘍細胞表面抗原を認識するモノクロナール抗体由来のL鎖とH鎖の可変領域(VL, VH)を直列に結合させた一本鎖抗体(single chain variable fragment: scFv)とT細胞受容体のCD3 ζ鎖を結合させたキメラタンパク質.

一本鎖抗体とCD3ζ鎖の間には細胞外ヒンジドメイン, 膜貫通ドメイン, T細胞活性化に必要な細胞内シグナル伝達ドメインが組み込まれている.

抗体を組み込んだキメラタンパク質によってT細胞に抗原特異性を付与する考えは1989年イスラエルのグループにより提唱された.*2

CARの細胞外ヒンジドメインや膜貫通ドメインにはCD8αやCD28など種々の分子由来配列が使われ, そのデザインによりCARの発現効率や機能が左右されると考えられている.

CAR分子は細胞内シグナル伝達ドメインの構造により第一から第三世代までに分類され, 第一世代はCD3ζ鎖のみ, 第二世代はCD3ζ鎖に, CD28またはCD137のT細胞共刺激分子シグナルドメインを加えた構造になっている. 第三世代の分子は異なる共刺激分子を複数組み込んでいる.

第二,第三世代のCAR-T細胞は第一世代に比較して増殖能, サイトカイン産生能, 細胞障害活性が強く, 生体内で長期に生存することが示されている. *3*4*5

CD137を含む細胞内シグナル伝達ドメインは, CAR-T細胞の免疫疲弊を防ぎ, セントラルメモリーT細胞への分化を介してCAR-T細胞の長期生存を誘導する点で, CD28よりも優れているようである. *6*7
CAR-T細胞療法の効果や安全性のため, 最適なCAR分子構造の開発が必要である.

 
CD137.jpg

CD137(4-1BB/ 4-1BBリガンド レセプター)

T細胞に特異的な遺伝子を探索する過程で, 細胞障害性T細胞とヘルパーT細胞においてcon AやT細胞レセプター抗体で誘導されてくる分子の一つとして単離された.
活性化T細胞の増殖を促進するリンフォトキシン様の4-1BBリガンドのレセプター(サイトカインレセプター)である.

分子量30-40kDaの膜結合タンパクで238aa. N末端側169残基は細胞外領域で, 3個のTumor necrosis factor receptor(TNFR)ドメインを含む. TNFRドメインをもつreceptor familyには, CD27, CD30, CD40, CD95(Fas), CD120a(p55TNFR, TNFR1),CD120b(p75TNFR, TNFR), TNF receptor-related protein(TNF-RP), CD134(OX-40)などが属している.

CD137は, 培養細胞では, 活性化を受けたT細胞だけでなく, 活性化されたB細胞や単球で誘導される. 脾では35-45%のT細胞が恒常的にCD137を発現している.

CD137Ligand(4-1BBL)はtype況燭遼譽織鵐僖質でリンフォトキシンTNFと相同性をもつ. 4-1BBLは成熟B細胞やマクロファージ, 抗CD3抗体で活性化された特定のT細胞, 前駆B細胞や未熟マクロファージに低いレベルで存在する.

CD137は活性化T細胞において, CD80と同様な共刺激を与えることにより増殖やサイトカイン産生を増強する働きをもっていると考えられている.

CAR-T細胞療法の臨床試験

1. CD19をターゲットにしたCAR-T療法では第響蟷邯(-->参考:治験wikipedia)が進行している.

  • 非ホジキンリンパ腫, ALL, CLLなどのB細胞系悪性腫瘍にCD28または, CD137を使った第二世代のCD19標的CAR-T細胞が使用されている.*8
     
  • 小児・若年者の再発難治性CD19+ALL患者さんを対象とした第I, 第響衫彎音邯海任, 36/39(92%)という高い完全寛解率が得られており, 最初の患者さんは2年以上の長期寛解を維持している.*9
     
  • CD19標的CAR-T療法では, 腫瘍細胞だけではなく, CD19+の正常B細胞を攻撃しB細胞の消失がおこる.( on-target off-tumor toxicityとよぶ). これは有害事象の代表であるが, 精製immunoglobulin投与によりしのぐことが可能であり現時点では重篤な感染症の報告はない.
     
  • ただしon-target off-tumor toxicityはCD19標的CAR-T療法の臨床的問題点であり, 寛解を長期維持するためにどれくらいの期間CAR-T細胞を生体内で維持する必要があるのかはまだ明らかではない.
     
  • 標的がん細胞のCD19表面抗原消失や, 選択的スプライシングによる変異でCAR-Tの認識を回避することが報告されている.*10

2. Hodgkin lymphomaのCD30を標的とするCAR-T*11

3. CLLやMantle cell lymphomaなど種々のがん細胞に発現するROR1(receptor thyrosine kinase-like orphan receptor 1)標的CAR-T*11. ROR1は悪性B細胞に特異的に発現することから正常B細胞に対するon-target off-tumor toxicityがないとされている.

4. 非ホジキンリンパ腫や多発骨髄腫, CLLのIgG kappa 軽鎖を標的にするCAR-T*11

5. AMLについては正常幹細胞に発現せず, 腫瘍細胞特異的な抗原の選択が難問であるが, IL-3Rα/CD123, CD33, Lewis-YなどのCAR-Tの標的分子が検討されている.

6. Multiple Myelomaについては, Lewis-Y, IgG kappaを標的とした臨床試験に加えて, CD138, BCMA(B cell mutation antigen),CS1(CD319/SLAMF7)を標的のCAR-Tが検討されている.


*1  玉田耕治 キメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞療法(CAR-T細胞療法) 実験医学 2016; 34(12): 173-178
*2  Gross G et al. Expression of immunoglobulin-T-cell receptor chimeric molecules as functional receptors with antibody-type specificity. Proc Natl Acad Sci U S A. 1989 Dec;86(24):10024-8.
*3  Savoldo B, et al. CD28 costimulation improves expansion and persistence of chimeric antigen receptor-modified T cells in lymphoma patients. J Clin Invest. 2011 May;121(5):1822-6.
*4  Milone MC, et al. Chimeric receptors containing CD137 signal transduction domains mediate enhanced survival of T cells and increased antileukemic efficacy in vivo. Mol Ther. 2009 Aug;17(8):1453-64.
*5  Carpenito C, et al. Control of large, established tumor xenografts with genetically retargeted human T cells containing CD28 and CD137 domains. Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Mar 3;106(9):3360-5.
*6  Long AH, et al. 4-1BB costimulation ameliorates T cell exhaustion induced by tonic signaling of chimeric antigen receptors. Nat Med. 2015 Jun;21(6):581-90.
*7  Kawalekar OU,et al. Distinct Signaling of Coreceptors Regulates Specific Metabolism Pathways and Impacts Memory Development in CAR T Cells. Immunity. 2016 Feb 16;44(2):380-90.
*8  Frey NV, Porter DL. CAR T-cells merge into the fast lane of cancer care. Am J Hematol. 2016 Jan;91(1):146-50
*9  Maude SL, et al. Chimeric antigen receptor T cells for sustained remissions in leukemia. N Engl J Med. 2014 Oct 16;371(16):1507-17.
*10  Sotillo E, et al. Convergence of Acquired Mutations and Alternative Splicing of CD19 Enables Resistance to CART-19 Immunotherapy. Cancer Discov. 2015 Dec;5(12):1282-95. doi: 10.1158/2159-8290.CD-15-1020. Epub 2015 Oct 29.
*11  Ramos CA, et al. CAR-T Cell Therapy for Lymphoma. Annu Rev Med. 2016;67:165-83.

添付ファイル: fileCD137.jpg 124件 [詳細] fileCAR-T.jpg 359件 [詳細]

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Last-modified: 2018-05-30 (水) 17:31:43 (198d)