血液腫瘍病理学
CMMLの症例ページ?
World Health Organization (第4版)のCMML診断クライテリア*1 †
骨髄幹細胞レベルのクロナールな異常による造血器腫瘍。単球増多症が特徴で以下の診断基準を満たす。
heterogenousな疾患群であり, MDSに近い病態からMPDに近い病態の疾患が混在する。
頻度はMDSが10万人に対して12.8casesであり, その約3分の1がCMMLとなる。--和文の文献では, 10万人に3-4人*2あるいは人口10万人あたり年間12人*3など.
1 持続する末梢血のmonocytosis >1000/mm3(μl)
2 フィラデルフィア染色体または BCR-ABL1 fusion geneは陰性。
3 PDGFRA, PDGFRB, or FGFR1 再構成なし(特にeosinophiliaを伴う症例では必要)
4 末梢血あるいは骨髄の芽球 <20% 芽球は myeloblasts, monoblasts, promonocytes を含む。
5 1つ以上の骨髄球系細胞に異形成が認められる。
骨髄異形成がないか軽微の場合にはその他の条件を備えること
(a)血液細胞が細胞遺伝学的にクロナリティを獲得しているか,分子遺伝学的な異常を認めること
(b)単球増加がすくなくとも3ヶ月以上持続すること。
(c)その他の単球増加の原因がすべて除外可能なこと。悪性腫瘍, 感染症, 慢性疾患などを除外する
病型
CMML-1: 前単球を含む芽球が末血で <5%, 骨髄で <10% , criteria 1 から 5 を満たす場合CMML-1と診断しうる。
CMML-2: 前単球を含む芽球が末血で5% から 19% あるいは骨髄で 10% から 19% または Auer rods を認めるか末血あるいは骨髄で芽球が<20% ,かつcriteria 1 から 5 を満たす。
臨床像 †
- 高齢者に多い。中央値は65-75歳, 男性が女性の1.5-3.0倍
- 倦怠感, 体重減少, 発熱, 盗汗などが主な症状。(B症状のようですな。)
- 白血球増多を示す症例と, 正常ないし減少症例があるがいずれも単球は増加している。
- 肝脾腫を伴う症例が多い. 肝脾腫は白血球増多症例に多い.
- 通常リンパ節腫大はみられない。見られる場合はAMLへの移行を疑う。
- Median survival: 20-40 months
- 急性転化は 15-30%で, 芽球転化症例の予後は不良である。
CMML診断アルゴリズム †
1. まずは3ヶ月以上持続するmonocytosis. Mo > 1000/µl
2. 白血球の異形成, カテゴリーA(低分葉, 顆粒減少)の所見は末梢血での判定がわかりやすい。スメアーをみる。
3. 骨髄は, 過形成。顆粒球性過形成でASD-Giemsaでは赤くみえる。一見M3のようなpromyelocytesの密な増殖像, 落ち着いて見ると各成熟段階の顆粒球や、赤芽球系細胞がみられる。
4. 骨髄では末梢血と異なり, 単球系細胞の増殖はわかりにくい。骨髄像の特徴である。免疫染色が必要になる。
5. 芽球はmyeloblasts+monoblast(この2つはMay-Giemsaでは鑑別困難)にpromonocytesを含む.
6. monoblastsはCD34が陰性になることが多く、注意が必要である。C-KITが陽性になることがある.
7. CD2, CD56の異常発現, HLA-DRの発現減少がFCMでわかることがある。
8. 異形成造血: Mgk系ではCD42b, CD61などによりmicroMgk(微小巨核球:核はpromyelocyteのサイズ以下)
9. 増殖所見や異形成所見が軽微な場合はクロナリティの確認が必要。核型/ 遺伝子異常の確認など。
SRSF2, ASXL1, CBL, EZH2, JAK2, KRAS, NRAS, RUNX1, TET2の9個の遺伝子をシークエンスすればCMML疑い症例の90%のclonal eventをカバーできる*4. (実臨床では実際できないでしょ. )
CMMLの骨髄組織像 †
- granulopoietic hyperplasia(顆粒球系過形成)が最も顕著な所見
- erythropoietic hyperplasia(赤芽球系過形成)を認めることもある。
- 単球増加は常に見られるが末梢血にくらべ骨髄では単球増加がめだたない場合も多い。 疾患の骨髄組織の特徴といえる。
- 単球は核嵌入など, 核形状不整, 細胞質から形態的同定がある程度できる。確実な同定には免疫染色が必要である
- 巨核球の異形成が大部分の症例で認められる。円形分離核の大型Mgk, 小型単核Mgkが出現する。(CD42b染色などが有効)
- 芽球が増加する場合(CD34+ cells増加あり)はCMML-2と分類される。著増はAMLへの移行が疑われる。
- 成熟した形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid dendritic cells)の結節状集簇所見が20%の症例でみとめられる。
- 形質細胞様樹状細胞はばらついた繊細なクロマチンと不明瞭な核小体をもつ円形核の細胞で, 細胞質は好酸性で細胞膜は明瞭である。この細胞も腫瘍性とされている。
- 軽度ないし中等度の細網線維増加(繊維化)が20-30%の症例に認められる。
- 単球マーカにはCD68(PGM-1), CD163が信頼性高い。CD14, lysozymeは単球, 顆粒球両系統, naphtolASD染色は好中球(好酸球も同定可能)の同定に有用である。
- 単球はCD13, CD33陽性で,さまざまな程度に CD14, CD68, CD64を発現する
- CD14発現低下は, 単球の成熟不良を反映している。
- CD56過剰発現やCD2の発現を認める一方で, HLA-DR, CD13, CD15, CD36の発現を欠くと腫瘍細胞である可能性が高い。
- CD34の発現が多いと, 急性転化しやすいとされる。
- CD34陽性細胞が少ないからといって, 芽球転化を否定はできない。単芽球はしばしばCD34が陰性のためである。
- CMLとは異なり, 好酸球増多は認められない. 好酸球増多症例はBCR-ABL1 fusionのほか, PDGFRα, PDGFRβ, およびFGFR1異常について調べる必要がある. WHO分類では好酸球増多症例はCMMLから除外され別の疾患に分類された.
- CMMLでの限局性の好酸球増多はmastocytosisの合併による. systemic mastocytosisに合併する非マスト細胞性のクロナール血液疾患のうち, もっとも多い骨髄系腫瘍はCMMLであることが報告された. *5
CMMLの骨髄スメア所見 †
- 種々の成熟段階の単球が増加する。骨髄所見では末梢血に比べて単球増加を確認することが難しい。
- 巨赤芽球性変化, 異常核, 環状鉄芽球など赤芽球の形態異常は約1/2の例に認められる。
- 小型Mgk, 異常核分葉のMgkが出現する。(80%以下の症例)
- 骨髄芽球、単芽球、前単球をふくむ芽球は有核細胞の20%未満にとどまる。
CMMLの末梢血所見 †
- 白血球増加が約半数に見られる。正常ないし減少例も認められる。
- 単球が著増する。白血球増加症例では単球だけでなく好中球も増える場合がある。
- 単球数は 2000-5000/μlのことが多い。白血球の10%以上をほぼ常に占める。(クライテリアは>1000/μl)
- 増加する単球は通常, 形態的に異常のない成熟単球である。
- 異常単球の出現(顆粒形成, 核分葉-クロマチン構造の異常= 未熟な細胞であるが, 単芽球や前単球に比べ, クロマチンは凝集し, 核の嵌入や核溝があり, 細胞質はより、灰色がかっている。)を認める場合がある。
- 好中球にも異形成が見られる(低分葉, 異常分葉, 顆粒減少, 顆粒形成異常など)ことがある。
- 前骨髄球と骨髄球の割合は白血球の10%未満である。
- 芽球(前単球, 単芽球, 骨髄芽球を含む)は白血球の20%未満。
単球, マクロファージを認識する, 一般的に用いられている抗体. †
CD14
- CD68やCD163などとともに単球/マクロファージにかなり特異的に発現される分子のひとつ.
- CD14は, GPI結合性I型糖タンパクで, LPS/LPB複合体受容体であり, LPSによる単球・マクロファージの活性化はCD14を介する.
- 主として単球・マクロファージに発現するが, 顆粒球やB細胞にも低レベルの発現が見られる.
CD16---CD16(FcγRIII), CD32(FcγRII), CD64(FcγRI)
- 単球・マクロファージが免疫グロブリンFc部分に対して発現する受容体. なかでもIgGのFcレセプター(Fcγ)はマーカとして有用.FcγRはCD16(FcγRIII), CD32(FcγRII), CD64(FcγRI)の3種類に大別される.
- CD16には, I型膜貫通性糖タンパクであるCD16a(FcγRIIIa)とGPIアンカー型のCD16b(FcγRIIIb)の2種類のサブタイプが存在する.
- 単球やマクロファージに発現しているのは, CD16aであり, NK細胞やT細胞の一部にもこの型が発現されている.
CD68
- CD68はライソゾーム膜タンパクの一つでLAMP(lysosomal-associated membrane protein)ファミリーに属し, マウスのマクロシアリンに相当する. エンドソームやライソソームに強く発現しているが, 一部はI型膜貫通糖タンパクとして細胞膜にも発現され, 酸化LDLをリガンドとして認識することからクラスDスカベンジャー受容体の一員でもある.
- CD68は樹状細胞や破骨細胞を含むほとんどのマクロファージ系細胞に発現している. パラフィン切片に使えるKP-1やPG-M1などの抗体が存在する.
- 抗体により反応性に多様性が見られ, 単球・マクロファージ以外に好中球や好塩基球, リンパ球, 骨髄巨核球, メラノーマ細胞, 腎尿細管上皮などとの反応が認められ, 結果の解釈に注意が必要である.
CD71
- 95kDのII型膜貫通糖タンパクでトランスフェリンに対する受容体である.
- 活性化された白血球に発現され鉄の取り込みに働き, 細胞増殖に必須の分子である.
- 活性化マクロファージ以外に活性化されたリンパ球, 赤芽球, 脳血管内皮細胞, 種々の増殖細胞に発現が見られる.
- 幼若赤芽球の認識にも用いられる. (成熟した赤芽球には発現されない?)
CD163
- 分子量130kDの膜貫通型糖タンパクで細胞外領域にscavenger receptor cysteine-rich(SRCR)ドメインをもつ.
- 単球や組織マクロファージに限局して発現され, 樹状細胞やその他の細胞は陰性で, 単球/マクロファージの同定に有用な抗原と考えられている. CD163の機能は不明.
CD206 (mannose receptor)
- マンノース受容体は分子量175-190kDのI型膜糖タンパクで成熟組織マクロファージや肝類同内皮細胞の細胞膜に発現されているが単球は陰性である.
- 樹状細胞にも発現され, 抗原の取り込みと提示, 細菌や異物貪食に関与して感染防御の最前線で重要な役割をはたしていると考えられる.
CD13 (aminopeptidase N)
- CD13は細胞膜に存在するzinc-binding metalloproteaseの一つでII型膜貫通糖タンパクである.
- MHC classIIに結合したペプチドをトリミングして抗原提示に関与している.
- コロナウイルスは感染時にCD13を受容体として利用する.
- 単球, 顆粒球およびこれらの前駆細胞に発現しており, AMLのマーカとして有用.
- 免疫組織学的には, 種々の組織マクロファージと反応するとともに, 尿細管上皮, 小腸上皮刷子縁, 血管内皮, 線維芽細胞,骨髄間質細胞, 破骨細胞, 細胆管上皮での発現も認められる.
CD33
- 67kDのI型膜貫通糖タンパクでシアル酸結合タンパクであるsialoadhesinファミリーに属するがその機能は十分には解明されていない.
- 多機能幹細胞での発現は見られないが, 骨髄球系細胞の幼若細胞や単球・マクロファージに発現され, 骨髄球系細胞の分化抗原である. 好中球での発現は弱い.
- リンパ球には発現されないため, AMLとALLの鑑別に用いられる.
CMMLのGenetics †
クロナールな染色体異常がconventional な方法でCMML症例の20-40%に認められる。しかし疾患非特異的である。(「この異常があればCMMLと診断する」という染色体異常はない.)
- 最も多いのは trisomy8. monosomy7/ del(7q), 12p の構造異常が認められるが, これらは, 他のMDS/MPNにもよく認められる。
次世代シークエンサー(next generation sequencer)をもちいた解析によりいくつか頻出する遺伝子の異常が認められている。
- TET2(tet methylcytosine dioxygenase 2)のnonsense/ missense mutation, deletionが44.4%(36/81)のCMMLに認められ, mutationがあるCMMLの方が, TET2 wild typeケースよりも予後がよかった。TET2のmutationは, CBL遺伝子異常と合併することが多かった(66.7%[12/18case]). その他, KRAS, NRAS, RUNX1に変異が認められた.*6
- TET2 conserved regions(保存領域)における変異(missense mutationが多い)が40.5%[17/42例]のCMMLに認められた*7
- RAS遺伝子の点突然変異が約40%の症例に認められる。
RAS変異はCMMLを予後不良型(MP-CMML)にする二次的変異として働いている。CMMLの診断と経過観察のためにRAS変異を調べることが推奨される.*8
- PDGFRalpha, betaの遺伝子異常をともない好酸球増加を示す症例は現在別の独立した疾患カテゴリーに入っている。(WHO新分類)
CMMLに認められる遺伝子異常 †
CMML症例の10%以上に出現する遺伝子変異*9
1. DNA methylation:TET2 (60%), DNMT3A (10%)
2. Histon modification:ASXL1 (44%), EZH2 (10%)
3. Spliceosome:SRSF2 (40%), U2AF1 (15%), ZRSR2 (10%)
4. Tyrosin kinase:CBL (20%), JAK2 (10%)
5. Transcription:RUNX1 (20%), CEBPA (20%)
6. RAS pathway:NRAS (16%), KRAS (11%)
7. Cohesin complex:STAG2 (10%)
8. Others:SETBP1(15%)
Catalogue of somatic mutation of cancer (COSMIC)*10によるCMML 変異遺伝子top20(右図)
■ RNA スプライス因子
○-->スプライシング因子のページを見る.
○ スプライソソーム複合体を形成するタンパク質をコードする遺伝子のうち, SRSF2, U2AF1, SF3B1, ZRSR2がMDS/MPNで高頻度に変異が認められる。
○ MDS/MPNで変異のみられるスプライシング因子のほとんどがsplicing A complex(右図)に所属しており,3'スプライシング部位の認識が共通の機能である。
○ これらの遺伝子変異は相互に排他的でZRSR2(X染色体)以外は, いずれも変異のhot spot(限られたアミノ酸に変異が集中する)が認められる。
○ それぞれの変異はMPD/MDSの異なる病型において認められる. SRSF2変異はCMMLとaCMLに, SF3B1はRARS-tに高頻度に出現する。U2AF1変異はMDS/MPNの経過中に認められる二次性白血病に頻度が高い.
○ 2つ以上の変異が同時におこると腫瘍化に不利に働く可能性があると推察される。
○ 変異に関連するスプライシング異常が精力的に検索され, U2AF1変異は異常なエクソンスキッピングをきたすことが認められた. 変異例でスキップされるエクソンの3'側イントロン,エクソン端から3番目の塩基は特異的に" T "であった.*11
■SRSF2変異
○ SRSF2変異はエクソン内のモチーフを認識し, EZH2のエクソンスキッピング*12の原因であることがわかった。このエクソンスキッピングは新しいストップコドンを作り出し, いわゆるnonsense-mediated decayと称されるRNAの分解が起こり遺伝子の低発現をきたす。*13
SRSF2変異は EZH2のphenocopy(遺伝子変異はことなるが表現形が同じになる)といえる。
SRSF2 シークエンスprimer--SRSF2 Pro95周辺 187bp のampliconが得られる。*14
SRSF2-f; TTCGCCTTCGTTCGCTTT
SRSF2-r; TCCGGCGTCCGTAGCCA
CpG-rich 用のPCRをおこなう。変異のパターンは左図に示されている。
論文*14にPCRのレシピがありません。94℃ 30sec, 60℃ 1min, 72℃ 1min, x35 + 72℃ 10min, 4℃ soak でかかりました。
Takara Hot start Taq を使用しているので CG-rich PCRにQ solutionを使いました.
○ 最近, ZRSR2の変異が関連するモチーフがU12タイプのイントロン領域に特異的な配列であることが明らかにされた. *15
○ JMMLとCMMLは病理学的に非常に類似しており, RAS pathwayほかさまざまな体細胞変異が共通して認められるにもかかわらずJMMLでは, スプライス因子の変異は非常に低頻度である。*16この理由はいまのところ不明。
■ コヒーシン複合体遺伝子 cohesin complex genes
- スプライス因子遺伝子変異についで骨髄腫瘍に発見された頻度の高い変異を呈する遺伝子群.
主な遺伝子は, STAG2, SMC3, SMC1A, SMC1B, RAD21などで, 細胞分裂期の姉妹染色体分離の際に重要な働きをする。
○ 遺伝子変異は, MDS/MPNの10%に認められる。通常ナンセンスやフレームシフトなど機能喪失型変異をきたすことが多い.
○ cohesin complex遺伝子変異の骨髄腫瘍における病態については検討中である. すくなくともMDS/MPNの細胞増殖に何らかのかたちで関与している.
○ 遺伝子変異はスプライス因子遺伝子とおなじく, 排他的である。
Cohesin complex geneのページを見る。
■ DNAメチル化関連遺伝子
TET2--> TET2 mutationのページをみる
○TET2, DNMT3A, IDH1/2などのDNAメチル化関連遺伝子変異がMDS/MPNに認められる。
○TET2変異は atypical CML(aCML), CMMLの30〜60%, RARS-t症例の20%以上に認められる。単一遺伝子変異としては, ASXL1, SRSF2とならびMDS/MPNにおいて変異する頻度が最も高い。機能の異なるこれらの高頻度変異は, 高頻度に1症例に共存して認められ相互に協調して腫瘍化に関与している。
○TET2は5-mCを5-hmCに変換する酵素の一つであり, 機能喪失型変異をきたし, UPDの頻度が高く, 野生型アレルが消失する.
○TET2変異は, 脱メチル化薬の治療反応性と関連があり, 化学療法抵抗症例や移植適応外症例などを対象に治療適応の検討がなされている。
DNMT3A--> DNMT3のページをみる
○この遺伝子がコードするDNAメチルトランスフェラーゼは, CpGアイランドにおける5'シトシンをメチル化する。
○DNMT3Aは通常へテロ接合型のミスセンス変異を呈し, ドミナントネガティブ効果により,野生型の機能が抑制される。
○変異はAMLに, より高頻度に認められる. MDS/MPNではCMML(5〜10%), RARS-t(17%)に稀ならず検出される。
IDH1/2
○IDH1/2遺伝子は, ほぼすべての変異がhot spotを呈する1アミノ酸置換であり, 他, 稀なフレームシフト変異がある。
○変異はヘテロ接合型であり, 変異型と野生型のタンパクが二量体を形成する。
○野生型二量体IDHはイソクエン酸をαケトグルタル酸に代謝する。機能獲得型の変異型酵素はαケトグルタル酸から2ヒドロキシグルタル酸を産生する。
○変異体が野生型とは異なる代謝産物を生み出すことから機能変化型変異と呼ばれることがある。
○異常産生された2ヒドロキシグルタル酸は, TET2やKDM6AなどJumanjiドメインを有する酵素を抑制する効果をもつためこれらの遺伝子の機能喪失型変異と結果的に同じ効果が認められる。
○IDH1/2変異はTET2変異とは排他的に認められ, これらの遺伝子が同じパスウェイに属することが示唆される。
○DNMT3と同じく当初はAMLのゲノム解析により変異が発見された。MDS/MPNではMDS/MPN-uにおいて6-10%,と比較的多く認められる。
■ ヒストン修飾遺伝子
ASXL1
ヒストン修飾遺伝子のうち CMMLで変異が最も高頻度にみられるのはASXL1である。
○PRC2複合体の動員, 安定化に関与していると考えられている.
○frameshift変異, nonsense変異により機能獲得をきたしPRC2複合体がかかわる遺伝子抑制を解消する。その結果標的遺伝子の転写が促進されることになる*17。
PRC2複合体のページをみる。
○CMMLにおいては40%以上もの症例にASXL1変異が検出される。
○CMMLにおけるASXL1のmutationは, exon12に集中している。flame shift変異の頻度が高い。
PCR2(Polycomb repressive 2)複合体
○EZH2はMDS/MPNにおいて高頻度に変異が認められている。
○野生型は, EED, SUZ12などとともにPRC2複合体を形成しヒストンH3リジン(K)27をメチレーションし, 標的遺伝子の抑制にかかわる.
○EZH2, EED, SUZ12の3遺伝子は, aCML, CMMLにおいて合計, 6−15%の症例に変異が認められる。変異はほぼすべて機能喪失型であり抑制されている標的遺伝子が逆に転写が亢進する. ASXL1変異との共存が観察される。
○EZH2, EED, SUZ12の3遺伝子はいずれもUPDの好発部位に位置し, 高頻度にホモ接合型の変異を呈する。
KDM6A (lysine (K)-specific demethylase 6A/ UTX)
○ヒストンH3K27などの脱メチル化酵素をコードするKDM6AもCMMLで変異が認められる。*18
○H3K27のメチル化に正反対の機能をもつ, PRC2複合体とKDM6Aの変異は通常, 排他的に認められる.
○H3K27メチル化により, 転写が抑制される遺伝子はCMMLにおいては発現が増加・減少のいずれの方向にも異常となる可能性がある。
■ RAS関連パスウェイ
○CMMLでは体細胞変異, JMMLでは胚細胞と体細胞変異が認められる。
○KRAS, NRASの変異がJMML, aCML, CMMLにおいて認められる。通常へテロ接合型を呈し, 限られたアミノ酸配列に変異が集中している。
○RAS関連パスウェイに属する PTPN11, およびNF1は先天性Noonan症候群の原因遺伝子とされ変異はJMMLにより高頻度. CMMLではまれ.
○新規RAS関連パスウェイの変異 RIT1体細胞変異が報告された. 同じアミノ酸配列の胚細胞変異がNoonan症候群において認められ,これらの変異は他のRAS関連パスウェイ変異と排他的にみられた。
■受容体型チロシンキナーゼ(receptor thyrosin kinase, RTK)
○CSF3RはWHO分類でMPNに属する慢性好中球性白血病(CNL)において高頻度に発現する。その後MDS/MPNにおいても稀ながら認められた.
○KIT, FLT3変異も稀ながら認められる. KIT変異はMastocytosisを合併するCMMLに特異的に認められる.
○これらのRTKはCBL E3ライゲースのターゲットになっている。
CBL †
○receptor thyrosin kinaseをポリユビキチン化するE3ライゲースをコードする遺伝子
ユビキチン化のページを見る。
○RASパスウェイの変異のない, JMML/CMMLのコホート研究でUPD11qが検出されたことから微小欠損病変を併せて解析することから発見された.
○JMMLでは一部, 胚細胞変異を認める。
○第11番染色体上の染色体異常により高頻度にホモ接合型, ヘミ接合型を示し, 野生化型が消失する。
○変異はE3ライゲース活性に重要なRINGドメインに集中して認められる. 変異体では, RTKなどターゲットタンパク質のユビキチン化減少と安定化が認められる。
○CBL変異とRASパスウェイの変異とは排他的に認められる。
■SETBP1
- 最初, 先天性Schinzel-Giedion症候群において胚細胞変異が認められた。
- その後骨髄腫瘍に体細胞変異が見られたが、胚細胞変異と体細胞変異はまったく, 同じアミノ酸変異を呈していた。
- 成人のMDS/MPNにおいて, aCML(25%), CMML(15%), MDS/MPN-u(10%)とひろく体細胞変異が認められる。
- 小児JMMLにも, 同じ体細胞変異が認められる(8%)
- RASパスウェイ変異とは異なり, SETBP1変異はいずれのMDS/MPNにおいても臨床経過後期に二次的に獲得されている。
■転写因子
- 転写因子をコードするRUNX1, CEBPA, NPM1はAMLだけではなく, MDS/MPNにおいても変異が認められる
- RUNX1, CEBPAは特にCMMLにおいて変異の頻度が高い。
- これらのAML関連遺伝子は, まれならずMDS/MPNの経過中にサブクローナルな変異を獲得し, 二次性のAMLに進展する。
■DNA修復関連遺伝子
- TP53変異はMDS/MPNにも検出されるが, 二次性AMLや治療関連MDSにくらべるとまれである。
- TP53は, CBL, EZH2と同様, 高頻度にLOHを合併し, 野生型アレルが消失する。
- その他, 二本鎖DNAの修復に関わるBRCC3の変異がMDS/MPNに認められる. 機能喪失型変異が認められ, X染色体上に存在し男性優位で病初期に獲得されることが多い。*19
■ETNK1
- ETNK1は フォスファチジルエタノールアミンの代謝経路にかかわる酵素をコードする。
- aCMLのエクソーム解析により新規ドライバー遺伝子として機能獲得型の変異が検出された。*20
- 同様の変異がCMMLにおいても認められ, SETBP1変異と共存する症例も報告されている。
- Mastocytosisとの関連も示唆されている。
CMMLのクローン性進展機構まとめ(- 2015) †
- CMMLでは発症の最も初期段階において, クローン優位性を獲得するための遺伝子異常発生が必要である。
- TET2変異はクローン性を誘導する基幹変異のひとつであることが明らかにされた。
- クローン優位性獲得後に, 骨髄単球系指向性, 骨髄系細胞分化異常・細胞増殖性にかかわる遺伝子異常が段階的に加わる.
- 段階的遺伝子異常付加により直線的にクローンが進化し, CMMLの骨髄単球増多と多様な血球減少所見を呈する。
CMML発症のクローン構成(clonal architecture)の解明*21 †
CMML患者さんのCD34+骨髄細胞を成熟段階(造血幹細胞 hematopoietic stem cell:HSC, 多能性前駆細胞 multipotent progenitors, 骨髄系前駆細胞 common myeloid progenitors, 骨髄単球系前駆細胞 granulomonocyte progenitors)に分け単一細胞づつ増幅しクローン性の遺伝子異常を解析した.
- CMMLで高頻度に認められる, epigenetic関連遺伝子, RNAスプライシング関連遺伝子, signal伝達経路遺伝子, 転写因子関連遺伝子について変異を解析した.
- 各症例の遺伝子変異はHCSの段階において認められた.
- 変異をもたない細胞から全変異をもつクローンまで遺伝子変異は直線的にひとつずつ積み重ねられた複数のクローンが存在した.
- 分化の進んだ骨髄前駆細胞では, HSC分画で認められた複数の遺伝子変異のうち変異を多く獲得した増殖優位性をもつクローンが主に検出された。
CMMLの腫瘍幹細胞(Leukemia initiating cell:LIC)はMDSと同様, HSC由来である. 一方, AMLでは造血前駆細胞がLICと想定されている.
CMMLの病型を規定する遺伝子変異
- HSCで単独遺伝子変異クローンを構成しているTET2変異やASXL1変異がCMMLの初発変異として骨髄系優位性の獲得に関与していると想定され, CMMLと他の骨髄性腫瘍を区別する機序と考えられている。*21
- SRSF2などの2次変異が加わり分化異常がおこり, CBL変異などのシグナル伝達経路異常による過剰増殖や, RUNX1変異などによる他造血細胞減少作用が付加してCMMLの病態が形成されると推察される.
- genome異常のほか, 微小環境などの影響が表現型の多様性をおこすと想定されている.