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Essential thrombocythemia(ET) 本態性血小板血症 †
巨核球の過形成にともなう血小板数増加を示し, 臨床的には血栓, 出血症状を呈する疾患。
WHO2016でのET updated diagnostic criteria
Major criteria:
- platelet count ≧45x104/μl
- Mgk proliferation with large and mature morphology
- Not meeting WHO criteria for CML, PV, PMF, MDS or other myeloid neoplasm
- Presence of JAK2, CALR or MPL mutation
Minor criteria:
- Presence of a clonal marker or absence of evidence for reactive thrombocytosis
4つのMajor criteriaすべてに合致するか, Major criteriaのうち上から3条件とminor criteriaで
ETの診断になる。
WHO 2008のET診断基準---以下の4項目をすべて満たす。
- 1.持続する血小板増加, plt;45x104/μl以上(以前2001年の基準は60x104/μl以上であった)
- 2.骨髄生検で大型成熟Mgkの増加を証明。顆粒球または赤血球に有意な増加や左方移動を認めない。
- 3.CML, PV, MF, MDS他の骨髄系腫瘍の診断基準に一致しない。(除外項目)
PVの除外
1. Ht値やHb値に基づく. 赤血球量測定は不要.
2. 血清フェリチン値が低下しているときは鉄補充によってもPV診断基準値までHbが上昇しないことを確認する必要がある.
PMFの除外
1. 細網線維や膠原線維増加を認めない--->鍍銀染色, EVG染色
2. 末梢血に白赤芽球症を認めない。
3. PMFに特徴的なMgk(小型から大型のもので, N/C比異常, クロマチン増加, 球形核や不整に折りたたまれた核, 密な集蔟)を伴った骨髄過形成がない。
CMLの除外
bcr-abl fusion geneを認めない--->核型, FISH, RT-PCR
MDSの除外
赤芽球系, 顆粒球形細胞に異形成を認めない。
- 4.JAK2 V617F変異や他のクローン性の増殖所見を認める。もしくは反応性血小板増加を認めない。
反応性血小板増多を示す要因が存在しても1-3を満たす場合はETが否定できない。
臨床事項
年間 0.2-2.3人/ 10万人の発症頻度.
発症年齢は 50-60歳代に多いが, 女性では30歳前後にも第二のピークがみられる. 女性にやや多い. 小児にもまれに認められる.
症例の50%以上は無症状. 検診などで偶然に血小板増加を指摘される. 残りは, 血栓症, 出血症状で発見される.
長期の無症状の間に重篤な血栓症や出血などの症状を繰り返し, 緩徐に進行する.
血栓症は細血管から大型動静脈までさまざまな部位に発症し, 大血管血栓症では, 脳梗塞, 虚血性心疾患, 肺血栓, 門脈血栓, 深部動静脈血栓などをきたす. 静脈血栓よりも動脈血栓の頻度が高い.
微小血管血栓による 四肢虚血病変として皮膚紅痛症をおこし, 壊疽に陥る場合もある.
出血の合併症は5%ほどの頻度. 消化管や上気道粘膜に多い. 他, 皮下出血, 尿路出血, 鼻出血, 手術後出血などがある.
脾腫はETでは軽度で, 15-20%にみられるに過ぎない. 脾腫はWHOの血小板増多を伴うprefibrotic PMFのほうが顕著.
Post-ET myelofibrosis/ evolving to AML/ MDS
長い経過のうち, 約10%のET症例が PMFに移行することがあり, post-ET myelofibrosisとよばれる.
PVのPMF移行頻度と比べると, 頻度は約半分である. (PVのPMF移行はETの約2倍)
AMLやMDSへの移行は約5%以下の症例に認められる. 多くは化学療法の影響があると考えられる.
ETからPVへの移行は 5%未満の症例に認められる.
生存期間中央値は 10 - 15年. 中年後期に発症することから, 多くの患者さんが正常に近い寿命を期待できる.
JAK2, 他のクローナルマーカーの追加 †
ETにおいても60-65%の症例に JAK2 V617Fの変異が認められている。
MPLの変異が2006年に報告された。MPL W515L/Kの変異はET症例の5%ほどに認められるにすぎない。
CALR exon9の変異*1*2
CARL変異はPVには認められず(*), JAK2,または MPLの変異がないET, MFにおいて,各々67-71%, 56-88%と高率に認められた。
- (*) calreticulin mutationを示す, JAK2V617F(-), MPL(-)のPVが報告されています。*3
JAK2, MPL, CARLの変異はほぼ相互に排他的であり, ET全体におけるCARL変異の頻度が20-25%と高率である。
2008年診断基準の策定時にはCARL変異は発見されておらず、反応性血小板増多を否定する除外診断となっている。
- JAK2, MPL, CARLの変異解説ページをみる-->ページへ移行
ET, PMFの遺伝子変異- JAK2, MPL, CALR変異*4 †
JAK2, MPL, CALRの変異は互いに排他的としてよい。
ごくまれには2つの変異が同時に存在する症例がみつかる。JAK2とCALR, JAK2とMPLが同時に変異したET症例が1例つづ認められている。
ETとPMFの遺伝子変異パターンはよく似ていることがわかる。
変異CALRは,C末端に野生型にはない正に荷電するアミノ酸配列を生じ, c-mpl(MPL)とCALR Nドメインの結合を抑制しているPドメインの作用をなくしてしまうことによりCALR変異型タンパク質とMPLの結合を来すようになる。野生型CALRはMPLには結合しない。*5

MPL(c-mpl)遺伝子のページをみる--->MPL proto-oncogene
血栓症 LowリスクETの治療:定期的な経過観察のみを行う。骨髄抑制をきたす薬剤や血小板を低減する薬剤の投与は不要.*6
血栓症 HighリスクETの治療:合併する血栓症の予防を目的としてHU と低用量アスピリンを併用する*7 *8
(ただし,長期投与による二次発がんのリスクが懸念されるため,特に若年者では,予後因子に基づき症例を選択する)
血小板数が著増している場合(血小板数150 万/μL 以上)のアスピリン単独投与は,出血を助長する危険があるため,HU 投与により血小板数を減らしてから投与する。ET の発症年齢はPV と比べ若く,やや女性に好発することから,妊娠,挙児希望が問題となることがある。このような場合は,HU に代わり,IFNαを投与する。
HU 不耐容もしくは抵抗性の症例には,欧米ではアナグレライドが使用されている。本邦でも2014年承認. アナグレライド(+低用量アスピリン)はHU(+低用量アスピリン)より静脈血栓症のリスクは低いが,心房血栓,重篤な出血,骨髄線維症への進展頻度が高い*8
【第1.1版修正】
血小板数が著増している場合(血小板数150万/μL以上)のアスピリン単独投与は,出血を助長する危険があるため,HU投与により血小板数を減らしてから投与する。ETの発症年齢はPVと比べ若く,やや女性に好発することから,妊娠,挙児希望が問題となることがある。このような場合は,HUに代わり,IFNαを投与する。HU不耐容もしくは抵抗性の症例には、アナグレリド(+アスピリン)を投与する。アナグレリド+低用量アスピリンは、HU+低用量アスピリンより静脈血栓症のリスクは低いが、心房血栓、重篤な出血、骨髄線維症への進展頻度が高く、EFSは劣るという報告と*8、アナグレリドはHUと較べEFSに有意差を認めない*9との報告がある。
雑感
canonical JAK2V617F,CALR exon9,MPL W515K/L変異がすべて陰性の症例は全体の約18%程度を占めるとされ、日本人では多い。その他の変異をもつETに比べて若く発症しているが予後が悪い。*10
- 遺伝子変異検査は日本では保険適応がない。一般病院では真性多血症でJAK2遺伝子変異をSRLなど検査会社に出し,有料で調べるくらいが精一杯.
- JAK2遺伝子変異をETで調べてみると、ET(本態性血小板増多症)でJAK2遺伝子変異陽性の症例は血栓症が多いとのこと。
- 一般的にはETで若い人は治療はしないことが多いが、年齢が若くてもこれらの症例では血栓予防をしたほうが良いかもしれない。
- 逆に低リスクでCALR遺伝子変異のある人にアスピリンを投与すると、出血が多くなると言われている。
- 骨髄増殖性疾患自身, 血栓症のリスクで、理由としてWBCと巨核球は互いに刺激しあって血小板が活性化され血栓が起きやすくなると考えられる。
そのような症例に対してはWBCも低下させることで血小板の凝集も抑えられるようになるハイドレアが効果的と考えられる。
- また網状血小板(若い血小板)が多い症例もトロンビンに対して反応しやすいため、血小板の凝集がおきやすい。JAK2遺伝子変異陽性のほうが網状血小板が多く, これもハイドレアが良いとされる。
アナグレリド/アナグレライド anagrelide
- アナグレリドは2014年11月25日, アナグレリド塩酸塩水和物(商品名アグリリンカプセル0.5mg)が薬価収載と同時に発売され使用できるようになった。
- anagrelideはimidazoquinazolineの誘導体で, 血小板のcyclic AMP phosphodiesterase活性を阻害することにより血小板凝集を抑制し, また骨髄巨核球の増殖と成熟を抑制することから血小板減少作用を示す.
- DNA合成に影響しないので白血病発症リスクが少ないとされ、海外でも若い人に対してはハイドレアよりもアナグレリドが多く使用されている(最近ではハイドレア単独ではそれほど白血病になるリスクは高くないとされている)
- 発がん性はない一方でさまざまな副作用が報告され, 動悸, 頻脈, 頭痛, 水分貯留, 嘔気, 下痢など薬剤作用機序に関連したものの他, 心筋症やうっ血性心不全の報告もある。高齢者の使用には注意が必要かもしれない
アナグレリドの血小板に対する効果はゆっくりで60万以下になるのには平均99日もかかり、ハイドレアからアナグレリドに変更するときは、ハイドレアは併用しながらゆっくり治療薬を移行させていったほうが良いといわれる。
1回0.5mgを1日2回経口投与する。なお、増量する場合は1週間以上の間隔をあけて1日用量0.5mgずつ行い、1日4回を超えない範囲で分割して投与する。ただし1回用量2.5mgかつ1日用量10mgを超えてはならない。
How We Diagnose Essential thrombocythemia †
Rumi E and Mario Cazzola*11
thrombocytosis(血小板血症)は, plt. ≧ 45万/μlで定義される。*12
主要なthrombocytosisは, reactive(/ secondary)thrombocytosis, clonal myeloid neoplasms, familial/ hereditary thrombocytosisの3タイプに分けられる。
反応性血小板血症 reactive thrombocytosis が最も頻度の高いタイプなので, 初診では注意深い問診, 理学所見(肝脾腫の有無), first-levelのチェックにより二次性血小板血症を診断する。
- first-levelのチェック
- Familial history; 血縁のthromobocytosis, 他の血液疾患の有無。
- Medical history; thrombocytosisをきたす疾患(悪性腫瘍, 炎症性腸疾患, 鉄欠乏, 脾腫, 出血), 血管合併症(血栓, 出血), 糖尿病, 高血圧, 高脂血症
- Life style; 喫煙, physical activity, 食事習慣
- Medication; 常用薬物, 新しく始めた服薬。
- symptoms; 頭痛, めまい, ふらつき, 耳鳴り, 肢端紅痛症, 知覚異常, 体重減少, 盗汗, 発熱. 初診時にはET患者さんは無症状で, 血小板血症は偶発症として発見されることがほとんど.
- first-level検査;CBC, PB smear, 鉄の状況(serum iron, TIBC, transferrin, serum ferritin), CRP, BCR-ABL1スクリーニング, 顆粒球DNAでJAK2, CALR exon9, MPL exon10変異の有無を調べる。
- secondary-level検査; bone marrow検査, von Willebrand factor(plt.>100万/μlのとき, 後天性von Villebrand症候群が疑われる時), X線/超音波検査, MRIなど
secondary ETの証拠がそろわなければ, 顆粒球DNAを使いMPNsの3つのdriver genes; JAK2V617F, CALR exon9 indel, MPL exon10 W515L/Kについて変異の有無を調べてしまう。
Iwata City Hospitalのスクリーニング--> JAK2->CALR exon9->MPL W515. CALRは変異タンパクへの抗体が開発されている*13。(市販の抗体あり)
ET caseの62%(466/745)にJAK2V617F, 24%(176/745)にCALR exon9 indels, 4%(28/745)にMPL exon10 mutationsが認められた.
10%(75/745)が3大driver gene mutationを示さない「triple-negative ET」であった。[Rumi E et al.*14]
本邦の報告*15ではET case(n=110)のうち, 54%(59/110)にJAK2V617F, 19%(21/110)にCALR exon9 indels, 7%(8/110)にMPL exon10 mutationsが認められた.
triple-negativeは22/110, 20%であった.複数の遺伝子異常を示すcase(JAK2+CALR, JAK2+MPL)も各々0.9%みとめられた。
家族性血小板血症 familial thrombocytosis(FT)からfailial ETを鑑別する.
- FTは遺伝性血小板血症 hereditary thrombocytosis(HT)と 家族性本態性血小板血症 familial ETの2つを含む。
- HTはTHPO(thrombopietin)遺伝子あるいはMPL遺伝子のgerm-line 変異と関連している。
- 近年の報告は, HTとnon-canonicalなJAK2のgerm-line変異との関連を指摘している*16 *17*18*19*20.
- familial ETにおいてはJAK2変異は、常に体細胞性の後天性変異である.*21, *22, *23
- 実際の診療においては, thrombocytosis, MPNsの家族歴において, 少なくとも2人のMPNがあれば, CBCを検査し早期, 無症状のMPNsを見いだすようにしている.
- familial ETの治療はsporadic ETの治療とかわらない. 近年の研究ではfamilial ETもsporadic ETも予後に変わりはないと報告されている。(右図)*24
- 家族歴からHTが疑われた場合は, JAK2, MPL, THPO遺伝子の全coding regionを検査している。*11