MLL Mixed-Lineage Leukemia Gene
FLT3 fms-related tyrosine kinase 3 †
KIT, FMS, PDGFRとともにIII型受容体型チロシンキナーゼ(RTK)に属する。
III型受容体型チロシンキナーゼは細胞外領域に5つの免疫グロブリン様構造をもつ。細胞内領域には傍膜貫通領域(juxtamembrane; JM), キナーゼ挿入部(kinase insert; KI)を境として2つの部分からなるチロシンキナーゼ領域(TK1, TK2), C末端領域で構成される。FLT3は, CD135として免疫グロブリンスーパーファミリ-(*)に属するCD抗原のひとつ。
FLT3遺伝子:
24のexonからなり13q12に位置する。コードするFLT3タンパクは造血幹細胞のほか, 脳, 胎盤, および肝で確認されている.
別名:CD135, FLK2 (Fetal liver kinase 2), STK1 (Stem cell kinase 1)
FLT3受容体に結合するリガンド(FL)は骨髄ストローマ細胞で産生される。FLは直接または他のサイトカインとともに造血幹細胞を刺激し, その生存, 増殖, 分化に重要な役割をはたす。
FLT3分子は大部分の急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ球性白血病(ALL)の細胞表面に発現し, FL(FLT3リガンド)の刺激により増殖活性化とアポトーシス抑制がおこることが知られている。
FLT3遺伝子変異 †
AMLの予後予測に染色体分析は最重要であるが, 約2/3は予後中間群となってしまい, この中間群には遺伝子異常による層別化が推奨されている.
FLT3-ITD, NMP1変異, CEBPA両アレル変異はAMLに認められる遺伝子異常の中で予後予測に最も重要であり, 一般に
- FLT3-ITD陰性で, NPM1変異あるいはCEBP両アレル変異陽性症例は予後良好とされている.*1
FLT3遺伝子変異はAMLの約30%に認められる高頻度な遺伝子異常であると同時に独立した予後因子でありWHO分類第4版において検索すべき遺伝子異常の1つとして記載されている。
1. FLT3/ITD突然変異
1996年横田ら*2により, 微小残存病変マーカとして白血病細胞のRTKをスクリーニングしているうちAML患者細胞で通常より数十bp大きなFLT3転写産物があり, JM領域, exon11コード配列の塩基重複(internal tandem duplication: ITD)によることが見出された。
- FLT3/ITDは主にexon11にあるJM領域をコードする塩基配列の一部がhead to tail方向で重複する。
- 重複する領域の長さと部位は症例ごとにすべて異なるがin frameとなるように付加的なヌクレオチドの挿入がおこりITD下流のアミノ酸配列に変化がおこることはない。
- 機能的キナーゼ領域は保たれたまま, JM領域だけが長くなることがこの変異の特徴である。
- FLT3遺伝子JM領域にはD593からK602に一致するDNA配列のパリンドローム(回文)配列があり、一本鎖になるときヘアピンを含む複合二次構造を作りやすい傾向があり複製のずれをひきおこして塩基欠失, 付加, フレームシフト, 重複などをきたすのではないかと推察されているがその分子機構はまだよくわかっていない。
- 同様の重複突然変異の例にMLL遺伝子のpartial tandem duplication; MLL/PTDがあるが、50kbにもおよぶ領域であり変異のメカニズムはまったく異なると考えられる。
2. FLT3キナーゼドメイン点突然変異 (FLT3/KD point mutation)
- FLT3のkinase activation loop(A loop)内, D835で点突然変異が発見された*3。このAsp残基はRTK属でよく保存されており活性をつかさどる重要な部分とされている。
- 同領域でD835V, D835E, D835N, D835Y, D835Hの点突然変異も報告されている。
- cKITでもloop内のD816の点突然変異がおこることがよく知られており, この付近の異常はキナーゼの恒常的活性化を来すと考えられる。
特別な細胞遺伝子グループに属するAML患者さんの予後に影響を与える分子遺伝学的変化(WHO blue book 第4版)*5:FLT3に関する臨床研究 †
FLT3-ITD
- 核型は正常型。
- FLT3−ITDをもつAML患者さんのCRD(complete remission duration), DFS(disease-free survival)は, もたない患者さんに比べ顕著に短い。*6*7*8*9
- FLT3−ITDをもつAML患者さんのEFS(event-free survival)は, もたない患者さんに比べ顕著に短い。*10
- FLT3−ITDをもつAML患者さんのOS(overall survival)は, もたない患者さんに比べ顕著に短い。*11
- FLT3−ITDのあるなしでAML患者さんのOS(event-free survival)は, 変わらない*12
FLT3-ITD with no expression of wild type FLT3 allele
- FLT3-ITDをもち, 野性型FLT3アレルをもたない患者さんのDFSとOSは, FLT3-ITDを持たない患者さんに比べ顕著に短い*13
FLT3-TKD
- FLT3-TKDをもつ患者さんのDFSは野性型FLT3アレルの患者さんに比べ顕著に短い*14
NPM1とFLT3-ITD変異
- NPM1変異があり, FLT3-ITD変異を欠く患者さんのCR rate, EFS, RFS(relapse-free survival), DFS, OSはNPM1変異とFLT3-ITD変異のある患者さん, またはFLT3-ITDあるなしにかかわらず野性型のMPN1患者さんに比べ顕著に良好である。
NPM1変異は, FLT3-ITDを持つ患者さんの悪い予後に影響をあたえないのではないか*15*16*17
- FLT3-ITDのないNPM1変異をもつ患者さんのEFSとOSはFLT3-ITDのあるNPM1変異患者さん, およびFLT3-ITDのあるなしにかかわらず野性型のNPM1患者さんとくらべ明らかな違いはみられない*18
免疫グロブリンスーパーファミリー (IgSF) †
スーパーファミリー(SF, 超家系)という概念はアミノ酸配列データベースの構築を行う際,アミノ酸配列のうえで50%以下の相同性をもつタンパク質群を示す言葉として使われる。
その相同性はしばしば15-25%と低いことがある。その場合は特徴的な配列が存在するとき同一のSFとして分類するようである。[ちなみに相同性が50%以上の場合は単に”ファミリー(家系)として分類される]
IgSFに属するCD抗原はIgの可変領域のIgVドメインとCD2やCD4でみられるIgC2ドメインのいずれか一方,あるいは両方をもつ. IgSFにはもうひとつIg定常域領域のIgC1ドメインがあるがCD抗原には少なくCD1に認められているのみである。
どのドメインも約100残基のアミノ酸からなり, ほとんどの場合一対のジスルフィド結合をもつ. ジスルフィド結合を形成するシステイン残基はどのドメインの場合もアミノ末端側から約20残基目の位置とカルボキシ末端側から約20残基目の位置に存在する。*19
2つのシステイン間には約60残基前後のアミノ酸が存在する。一般に, これらのシステイン近傍のアミノ酸配列において相同性が高いが, それぞれのドメインごとに特徴的な配列があるようである.
IgVドメイン---C末端側のシステイン近傍は D-X-G/ A-X-Y-X-Cのコンセンサス配列
IgC2ドメイン---N末端側システイン近傍にV-X-L-T-C配列, C末端側システイン近傍にはC-X-A-X-Nのコンセンサス配列が存在.
IgC1ドメイン---N末端側システイン近傍にL-X-C-X-X-X-X-F-X-P, C末端側にはC-X-V-X-Hの特徴的配列が存在する.