免疫グロブリン遺伝子 immunoglobulin gene

生殖細胞系(germ-line)における免疫グロブリン(Ig)とT細胞レセプター(TCR)の遺伝子座は基本的に同様である。遺伝子は分断されており、組み換え再結合されることで抗原レセプター蛋白質をコードする機能的な遺伝子を形成する。

免疫グロブリン遺伝子座の構成*1

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IgH鎖, IgkL鎖, IgλL鎖のすべてをそれぞれコードする3つの異なった遺伝子座が存在する。各遺伝子座はそれぞれ14q32.33, 2p12, 22q11.2と違う染色体上に位置する。

染色体の位置や各遺伝子座の遺伝子セグメントの配列は異なるが哺乳類においてIg遺伝子構成は本質的に同じ。

生殖細胞の各Ig遺伝子座は複数のコピー数をもったV, J, Cの3種類のセグメントにより構成され、IgH鎖はさらに多様性(D)セグメントをもっている。遺伝子座においてそれぞれの遺伝子群は非翻訳DNAにより互いに分離されている

 
  • Ig遺伝子座5'末端にはV遺伝子セグメント(V gene segments)のクラスターがあり, 300bpほどの配列から構成されさまざまな長さの非翻訳DNAにより互いに分離されている。V遺伝子(=V領域エクソン)の数は種およびIg遺伝子座により大きく異なり, ヒトH鎖は約100個、kL鎖には35個のV遺伝子をもつ。重鎖遺伝子座はchromosome14q32に2Mb(200万塩基)の範囲にわたり広がっている。
     
  • V遺伝子配列はすべて互いに異なっているがその配列相同性により複数のファミリーにグループ化できる. 各ファミリー内の塩基配列の相同性は70-80%になる。各ファミリー内のV遺伝子が類似の抗原特異性をもつレセプターをコードするわけではない。
     
  • 重鎖とκ鎖のV遺伝子断片(VH, Vk)にはともにそれぞれ7個のファミリーが存在し, (Cλ)遺伝子断片には8個のファミリーがある.
     
  • すべての遺伝子セグメントが機能的な蛋白をコードしているわけではなく, 一部の遺伝子では変異が蓄積して機能を示せない配列をもつ遺伝子: 偽遺伝子pseudogene(Ψで記載される)が存在している.
     
  • 各V領域エキソンの5'末端には翻訳タンパク質のN末端残基に存在する20-30アミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列が存在する。この末端残基は中等度疎水性でリーダー(シグナル)ペプチドを構成する。シグナル配列は新しく合成されたすべての分泌蛋白質や膜貫通タンパク質にみられリボゾーム上で合成中のポリペプチドの小胞体内腔への誘導に関与している。小胞体でシグナル配列はおそらく翻訳終了前に速やかに切り出され成熟タンパク質には存在しない。
     
  • V遺伝子3'末端の先にはさまざまな距離をもってC遺伝子セグメントが存在する。
     
  • 各遺伝子座によりC遺伝子の数と構成が決まっている。IgH鎖は9個のC遺伝子(CH)をもちそれらは縦列に並んで9種の異なるIgアイソタイプとサブタイプのC領域をコードしている。
     
  • IgkL鎖には1個のC(Ck), λL鎖は4個の機能的C遺伝子(Cλ)をもつ。CkとCλ遺伝子はL鎖の細胞外C領域すべてをコードする1個のエキソンをもつ。
     
  • CH遺伝子は対照的に5-6個のエキソンから構成され3-4個のエキソン(V領域のエキソンと類似の大きさ)はH鎖アイソタイプのC領域すべてをコードし2個の小さなエキソンはH鎖の膜貫通ドメインや細胞質内ドメインを含むC末端をコードする。
     
  • Ig遺伝子座において種々の長さのintronにより分離されたV遺伝子とC遺伝子の間ではintron中に30-50bpのJセグメント配列が6個存在する。またIgH鎖ではDセグメントがある。(D遺伝子断片の一部はわずか数塩基長しかない)
     
  • IgH鎖遺伝子座にはCHの遺伝子セグメント5'末端に6個の機能的なJセグメントからなるクラスターと20個以上(〜25)のクラスターからなるDセグメントが存在する。
     
  • ヒトk鎖遺伝子座ではCk5'末端に5個のJセグメントからなるクラスターがあり, ヒトλ鎖では4個の機能的なCλ遺伝子それぞれの5'末端に1個のJセグメントが存在する。
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一次免疫グロブリン遺伝子再構成

 
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成熟B細胞では遺伝子再編成の結果,再編成した可変部遺伝子は定常部遺伝子のすぐ近傍に位置するようになる. リンパ球系細胞以外の細胞ゲノムでは, 免疫グロブリンの可変部をコードする遺伝子と定常部をコードする遺伝子は互いに遠く離れて局在している.

  • 免疫グロブリン重鎖の可変部ドメインは3つの異なった遺伝子断片から構成されている.
     
  • V遺伝子断片(VH)とJ遺伝子断片(JH)にくわえて, (VH)と(JH)の間に多様性断片 diversity segmentあるいは(DH)遺伝子断片がある.
     
  • 完全な重鎖可変部遺伝子を産生するDNA組み換えは二段階にわけられて起こり(右図), 最初の組み換えでは(DH)遺伝子断片が(JH)断片と結合する.
     
  • 続いて(VH)遺伝子断片がD(JH)断片と再編成により結合し, 完全な形の(VH)領域エクソン(VDJ)遺伝子が形成される. 最後に RNAスプライシングを経て, 可変部配列と定常部配列が結合する.
     
  • 重鎖では定常部がひとつではなく, いくつもの定常部遺伝子断片が順番にならんで存在している. これらの定常部はそれぞれ異なるisotype(class)に対応している.
     
  • B細胞は最初μとδの2種類の重鎖isotypeを発現, mRNAの選択的スプライシングによりIgMとIgDがB細胞表面に発現してくる.
     
  • γ鎖(IgGをつくる)をはじめとする他のisotype重鎖発現は''活性化B細胞分化後期にクラススイッチとよばれるDNA再編成反応により生じる.
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免疫グロブリン軽鎖再構成

  • 軽鎖遺伝子の場合, 可変部は2つの異なったDNA断片によりコードされ, ひとつめの遺伝子断片は軽鎖可変部の大部分(1-95/101のアミノ酸をコードするDNA断片で可変部断片variable segmentあるいはV遺伝子断片とよばれる.
     
  • もう一つの断片は可変部の残りのアミノ酸(最大13個のアミノ酸)をコードしており, 結合断片joining segmentあるいはJ遺伝子断片とよばれる.
     
  • VとJ遺伝子断片の結合により軽鎖可変部ドメイン全体をコードする1個の新しいエクソンが産生される.
     
  • 遺伝子再編成がおこると, 定常部遺伝子と遠く離れているV遺伝子断片が定常部の近くに存在するJ遺伝子断片に結合, V遺伝子と定常部が近接することになる.
     
  • 再編成されたJ遺伝子断片は定常部遺伝子とごく短いイントロンDNAにより隔てられているのみ. 転写後のRNAスプライシングにより可変部エクソンが定常部エクソンと結合し, 免疫グロブリン軽鎖の完全なmRNAが形成される.
     

免疫グロブリン定常部の構造と種類

B細胞免疫グロブリンは, 細胞膜貫通型のレセプターおよび分泌型抗体として産生される. 抗体定常部ドメインは抗体分子が広範なエフェクター機能(エフェクター機構;病原体を破壊, 排除する生体の機構.)を発揮するために重要である.

  • 免疫グロブリンはその重鎖の違いから, いくつかの異なったクラスに区分けされる.
     
  • 再構成した(VH,重鎖可変部)遺伝子が異なったCH, 重鎖定常部遺伝子に連結することにより抗原特異性は同じで異なった重鎖をもつ免疫グロブリンが個々のB細胞クローンから産生される.
     
  • ナイーブB細胞は可変部遺伝子群の下流に別々に散在するCH遺伝子断片のうち, 2個の定常部CμとCδを使う. これら遺伝子は可変部と結合して, タンパクに翻訳され膜型IgM, IgDとしてナイーブB細胞上に発現する.
     

活性化B細胞では, class switchとよばれる体細胞遺伝子組み換えがおこりCμとCδ以外のCH遺伝子発現が誘導される.

  • 任意のB細胞上にどのVSUB{H領域エクソンが発現するかは骨髄B細胞初期分化の過程で決定され,その後に体細胞高頻度突然変異(somatic hypermutation)がおこっても, それ以上にはV(D)J組み換えはおこらない. この任意のB細胞の子孫細胞はすべて同一のVSUB{H遺伝子を発現する.
  • B細胞は免疫応答の過程で成熟増殖し, 任意のB細胞子孫細胞にはいくつかの異なった定常部isotypeが発現されてくる.
  • B細胞に最初に発現される抗原レセプターはIgMとIgDであり, 免疫応答の最初では常にIgMクラスの抗体が産生される.
  • 免疫応答後期では, 再構成した同じ可変部遺伝子断片が, IgG, IgAあるいはIgEとして発現される.
  • 上記の抗体クラスの変化をisotype class switchという.クラススイッチ組み換えはIgD発現の場合とことなり, 不可逆的なDNA組み換え反応である.

免疫グロブリンタンパク質

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  • Ig分子のVドメインやCドメインは構造に類似性があり免疫グロブリン折りたたみ構造Ig foldと呼ばれる3次構造も共通である。この構造をもつタンパク質は免疫グロブリンスーパーファミリー Ig superfamilyを形成している。
  • エクソン間のイントロンは成熟mRNAでは発現されない(転写された一次(核)RNAには存在する)が異なる遺伝子の組み換えを規定する認識配列はそれら遺伝子間のイントロン内に存在する他, プロモーター, エンハンサー, サイレンサーなど転写と遺伝子発現を制御する塩基配列はイントロン中に存在するなど抗原レセプター生成において重要な働きをしている。

N末端にある可変領域(variable region)は抗原との結合に関係し, 配列が変動するのでB細胞受容体と抗体はきわめて幅広い特異性を獲得することができる。

変動は領域全体のどこでも同程度におきるわけではなく, 変異の多くは抗原と直接相互作用する超可変領域(hypervariable region/ complementarity-determining region; CDR)に集中している

C末端の定常領域(constant region)には同一の種類の抗体では変動はなく, クラスが異なる重鎖間では大きな差がみられる。異なるクラスの間の機能差は、この領域に起因すると考えられる。

軽鎖は2つ, 重鎖は4-5の免疫グロブリンドメイン(immunoglobulin domain)をもつ。このドメインは約100アミノ酸からなり、内部にはジスルフィド結合により「樽型」の構造をとっている。

IgDアイソタイプの機能(機能はよくわかってないけれど…)するときの形態はB細胞受容体のみで分泌型はない

 
 

Ig再構成のサザンブロット

 

生あるいは凍結組織のDNAを制限酵素で切断し適切なプローべ(B-cellの場合はJ鎖プローべが使われる)をハイブリダイズさせる。胚細胞, 非リンパ球系列以外のバンドが存在すればリンパ系細胞はクロナールであり腫瘍性増殖と考えられる。組織に十分量(10%以上)の腫瘍リンパ球が含まれないと偽陰性となる場合があり。腫瘍細胞の少ないリンパ腫には注意が必要である。

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Immunoglobulinの単一特異性(monospecificity)*2

B細胞がIg鎖を作る場合総計6つの遺伝子座位を使うことが可能であるが, B細胞はすべて, ある1つのタイプの重鎖とある1つのタイプの軽鎖から構成される単一タイプのIg分子をつくりだす。このように個々のB細胞は単一特異的である。

アレルの排除(allelic exclusion)
どのB細胞も母方染色体または父方染色体から軽鎖または重鎖が合成され両親の相同遺伝子両方から作られることはない。結果, B細胞の重鎖座位ではアレルの一方のみが発現される(=単一アレル発現 monoallelic expression).

軽鎖の排除(light chain exclusion)
B細胞で合成される軽鎖は, k鎖かλ鎖かのどちらかだけであり, 両方が合成されることはない.2つの機能的な軽鎖遺伝子クラスターのうちで発現されるのはアレルの一方のみであり, 他方はまったく発現されない。

2つの機能性重鎖アレルのうち1つだけ, 4つの機能しうる軽鎖遺伝子のなかで1つだけが活性化されるという決定は完全に無作為ではないすべてのB前駆細胞で有効なDNA組み換えはIGLよりもIGKで起こりやすく,そのため B細胞の多くはk軽鎖をもっている

リンパ球で抗原受容体がアレルの一方の遺伝子だけ発現される現象をおこす機構 1)〜3)

1) 受容体遺伝子の組み換えはしばしば失敗してもとの遺伝子座を破壊することがある。第二の座位をもちいた2番目の試みも失敗すると未熟なB細胞やT細胞は死滅してしまう。

2) 遺伝子組み換えがうまくいっても機能的なタンパク質ができるのは組み換えの3分の1にすぎない。

3) 細胞表面に重鎖や軽鎖が正常に発現されたとしても組み換え過程を不活性化するフィードバックシグナルが出されることである。


*1 分子細胞免疫学 原著第5版 エルゼビア・ジャパン東京, 2008
*2 ヒトの分子遺伝学 第3版 MDSI Tokyo

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Last-modified: 2017-11-20 (月) 14:59:49 (309d)