チロシンキナーゼ thyrosine kinase
JAK/STATシグナリング †
主としてサイトカインにより活性化されるシグナル伝達経路。JAK/STAT経路は1991年にインターフェロンのシグナル伝達経路として初めて報告された。以後多くのサイトカインがこのシステムを利用することがわかっている。
- サイトカイン受容体の細胞内ドメインには約130kDaのJAK(Janus kinase/ Just another kinase)型チロシンキナーゼ(JAK1, JAK2, JAK3, Tyk2)が会合して細胞内にシグナルを伝達する。
- JAKによりリン酸化され活性化される主要な基質の1つがSTAT(signal transducer and activator of transcription)である。
JAKキナーゼ †
約130kDaの非受容体型チロシンキナーゼで分子内に2つのキナーゼドメインをもつことから双頭神ヤヌス(右図)にちなみJanus kinaseとよばれる。(実際にはひとつのキナーゼドメインは酵素活性をもたない偽キナーゼドメインであった)
JAKは4種類知られており, JAK1, JAK2, Tyk2は広範な組織・細胞に発現しているがJAK3の発現はリンパ球などに限られる。
- JAK3はIL-2受容体γ鎖に会合し, その情報を伝える。このためJAK3阻害剤?が免疫抑制剤として使えないか期待されている。
- 常染色体遺伝性免疫不全の患者さんにJAK3の変異が見つかっている
- 高IgE症候群の一部でTyk2(Tyrosine kinase2)の変異がいわれている。
- JAK2阻害剤が販売され(2015年時点), myeloproliferative neoplasmの治療に使用されている。(Ruxolitinib,商品名ジャカビ. ATP結合部位に競合結合してJAK1,2を阻害する)
- JAK2遺伝子は9p24に局在. 25のexonをもつ。
- チロシンキナーゼ活性はC末端側(JH1)にあり, N末端側のキナーゼドメイン(JH2)には酵素活性はない.
- JH2は偽キナーゼドメインでJH1に直接作用しJAK信号伝達を抑制的に調節する機能をもつと考えられている*1。
- N末端はfour-point-one ezrin, radixin and moesin(FERM)ドメイン, SH-like2ドメインからなり受容体細胞内ドメインのBox1/2領域との会合に関与している。
骨髄増殖疾患に認められるJAK2変異 †
- 骨髄増殖性疾患で認められるJAK2 V617F mutationはJH2ドメインに相当する。
JAK2V617F allele-specific PCR(Baxterらの方法, Lancet 2005)*2
- Fsp(allele-specific forward primer):5'AGCATTTGGTTTTAAATTATGGAGTATATT 3'--203bp band
- Fic(internal control forward primer):5'ATCTATAGTCATGCTGAAAGTAGGAGAAAG 3'--364bp internal control band
- R(reverse primer): 5'CTGAATAGTCCTACAGTGTTTTCAGTTTCA 3'
95℃ Xmin(Hot start Taqの活性化で, Taqにより異なる)
94℃ 30sec
58℃ 30sec
72℃ 45sec 35cycles
72℃ 5min - 4℃ soak
STAT †
STAT( = Signal Transducers and Activators of Transcription ) はクラスI/IIサイトカインの信号伝達と転写を司る転写因子。JAKにより活性化される主要な基質。
通常, 細胞質に限局し, サイトカイン受容体の刺激により分単位で素早く活性化され核内に移行し遺伝子の転写制御をおこなう。
- 高度な相同性を示す機能領域としてSH2ドメイン, DNA結合ドメイン, 転写活性化ドメインをもつ.
- SH2ドメインはリン酸化された受容体への結合および活性化、リン酸化STATの二量体形成に関与している。
- ほ乳類においてSTATは7種類(STAT1-4, 5A, 5BおよびSTAT6)存在する。サイトカインの受容体によって会合しているJAKキナーゼと活性化されるSTATの組み合わせは異なっている。