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MDSのエピジェネティック制御因子異常--全ゲノム解析で発見されたAML/ MDSの遺伝子異常

SNPアレイや次世代シークエンサーをもちいたAML, MDSの網羅的ゲノム解析はこれら疾患の発がんにかかわる新たな遺伝子変異の同定をはじめ, 白血病発症における遺伝子(ゲノム)異常とエピゲノム異常の綿密な関連を明らかにした。
具体的には, DNMT3AやTET2, IDH1/2などDNAのメチル化にかかわる因子やEZH2, ASXL1などのクロマチン制御因子の変異による異常がAML/ MDSを含む一群の骨髄系腫瘍で高頻度に発生していることを明らかにした。

このような変異はエピジェネシス制御異常(=遺伝子発現の異常)を引き起こしAML/ MDSの発症にかかわっている可能性が推察されている。

isocitrate dehydrogenase1/ 2 (IDH1/ IDH2)

この遺伝子のofficial name は“isocitrate dehydrogenase 1 (NADP+), soluble.” グリオーマの大規模コーディングシークエンス解析およびAMLの全ゲノムシーケンスにより同定された遺伝子変異。

citrateCycle03.JPG
  • 正常IDH1/ 2は, いずれもクエン酸回路でNADPH依存性にイソクエン酸からαケトグルタル酸α-ketoglutarate(αKG)への転換を触媒する酵素
  • IDH1は細胞質に, IDH2はミトコンドリアに局在する。
  • MDSの約5%に変異が認められる。de novo AMLではIDH1/2変異は各々7.6%, 8.7%
  • IDH1およびIDH2の変異は互いに排他的で、TET2変異に対しても排他的に生じる(TET2変異とIDH1/2変異は共存しない)。
  • IDH1の変異アミノ酸はR132に, IDH2の変異では, R140ないしR172にほぼ限局している。これらのアミノ酸は酵素活性の重要な部位に相当し変異により本来の基質特異性が大きく変化し(機能獲得型変異), 本来の機能であるイソクエン酸からαKGへの触媒活性はいちじるしく障害される。一方でαKGから2ヒドロキシグルタル酸(2HG)の反応が促進される。

異常IDH1/2により蓄積する2HGはαKGアナログとしてTET2活性を競合的に阻害することが生化学的に示されている。この過剰生産された2HGによるTET2機能障害が腫瘍化にかかわっていることが推察されている。

  • 免疫染色が可能で 変異IDH1R132H蛋白に対する抗体が利用可能. 90%の脳腫瘍IDH1変異を検出できる。

TET2- tet methylcytosine dioxygenase 2

MDSのSNPアレイ解析により, TET2 (Ten-eleven translocation oncogene family member2)が4q24の微小欠失領域に同定された。4qLOH(loss of heterozygocity)の標的遺伝子。

  • TET2の変異はMDSやAMLの他 MPN, CMML, 二次性白血病などCMLを除くほとんどの骨髄系腫瘍で広く検出されている。
  • TET2遺伝子変異はMDSの約20%に認められる*1*2
  • CMMLの一部では片親性二倍体(UPD)に伴いホモ接合性TET2変異を生じている。AMLを含むその他の骨髄系腫瘍ではTET2変異はしばしば, ヘテロ接合(正常アレル+異常アレル)でも観察される。
  • 片親性ダイソミー uniparental disomy (UPD)
    「二本の染色体を片親から受け継ぐ異常」のこと。一般的に二倍体生物の染色体は、それぞれ両親から1本ずつの染色体を引き継いで2本1対の状態(ダイソミー)である。しかし、片親性ダイソミーでは片親の染色体が無く、もう片親の染色体だけが2本ある状態になっている。正常個体と同じ数の染色体を持つことから、一見したところ別に問題は無いようだが, ゲノムインプリンティングが関与する場合、片親性ダイソミーは遺伝疾患を起こす。アンジェルマン症候群とプラダー・ウィリー症候群は、染色体のほぼ同じ箇所 (15q11.2) の欠失であるが、両親のどちら由来かによって症状が異なる。
  • 変異の多くは, ナンセンスあるいはフレームシフト変異による早期終止コドンを伴ったC末端欠落ないしC末端側の酵素活性を担うドメインのミスセンス変異によりTET2タンパクの機能喪失が生じる。

TET2, TET2に近いTET1他を含む, TETファミリー蛋白は二価鉄イオンとαKG(αケトグルタル酸)依存性にDNAの5メチルシトシン(5-methylcytosine; 5-mc)を5ヒドロキシメチルシトシン(5-hydroxymethylcytosine; 5-hmc)へ変換するmethylcytosine hydroxylaseとして作用することが見出された。*3
このように, TET2は脱メチル化に関与しており, 機能喪失型変異により脱メチル化が阻害されることになる。TET2遺伝子変異をもつ患者はDNA高メチル化を認めるとの報告がある*4

変異IDH1/2はαKGを2-hydroxyglutarate(2-HG)へと変換して, αKGによるTETファミリーの酵素活性触媒作用を妨害するためTET2機能が阻害され脱メチル化が抑制されるという機序が想定されている。(正常IDH1/2の機能の項参照) 実際TET2変異とIDH1/2変異は共存しないようである.*5

 
 

--->>''TET2 mutationのページを見る。

 

DNMT3A (DNA (cytosine-5-)-methyltransferase 3 alpha)

DNMT3A変異はAMLの網羅的シーケンス解析により見出された体細胞変異*6*7 2p23に位置。
DNMT1がDNA複製時において複製鎖をメチル化することにより維持メチル化を担うのに対し, DNMT3A, DNMT3Bは非メチル化シトシン新規メチル化を触媒する。

  • MDSおよびCMMLにおいて8-15%にDNMT3A変異が認められる。
  • AMLではDNMT3A変異は20%ほどに認められるがAML-M4, M5にほぼ限られておりmonocyticな形質を示すAMLに特徴的な変異である。
  • t(8;21), inv(16), t(15;17)などのいわゆるfavorable riskの腫瘍では認められない。
  • M4, M5の病型についてもMLL転座やMLL-ITDあるいは、これらと強い相関を認める11q23異常を示す症例との重複は原則として認められない。
  • DNMT3A変異陽性症例はFLT3, IDH1/2, NMP遺伝子変異との合併頻度が高い。
  • DNMT3A変異陽性AMLでは寛解率, 全生存率が有意に低くなっている

AMLでのDNMT変異のほとんどはメチル基転移酵素活性を担うC末端ドメインで生じ, 特に全変異の2/3が種を超えて保存されているR822で起こっている。

R822変異体のメチル基転移酵素活性の低下が最も顕著である。

ASXL1 (additional sex comb-like 1)

ASXL1 (additional sex comb-like 1)

ショウジョウバエのadditional sex combs(asx)遺伝子のヒトホモローグ。 局在は 20q11
遺伝的にtrithorax遺伝子およびpolycomb遺伝子のエンハンサーとしてHox遺伝子の発現調節にかかわる。

ASXL1変異はMDS, CMMLにおける変異遺伝子候補スクリ―ニングで同定された。*8

  • AML, MDSでは〜20%, CMMLでは〜45%, PMFで〜20-40%と報告で異なるが骨髄系腫瘍で高率に変異が認められている。 PVおよびETでは比較的少ない。
  • MDS, CMMLにおいてはASXL1変異陽性例はAMLへの進展率が有意に高く, また変異陽性AMLを含めて予後は不良とされている。
  • 変異のほとんどはexon12にコードされるC末端の2/3に集中しており, 2/3がナンセンス変異ないしフレームシフト変異であることから不活化変異であると考えられる。
  • ASXL1ノックアウトマウスではリンパ球および骨髄系前駆細胞の分化障害を認めるが, 多能性前駆細胞や造血幹細胞の異常は認められず, 造血におけるASXL1の機能は不明のまま残っている。特にMDSにおいては, 変異陽性例と陰性例における全メチルシトシン量には有意な差がみられず, 機能的に予測されるASXL1変異とエピジェネシス異常との関連は不明瞭のままである。

ポリコーム群(polycomb group: PcG)遺伝子

ポリコーム群(polycomb group: PcG)遺伝子は一度決定された細胞形質が長期にわたり維持される「細胞の記憶」システムの1つとして機能する。

一例として, ショウジョウバエのホメオボックス遺伝子は前後軸に沿った体節領域決定に重要な役割をはたしている。Gap遺伝子群やPair-rule遺伝子群がおもに体節固有の前方境界を決定するが、これらの転写因子群は一過性に発現するのみである。
しかしホメオボックス遺伝子の発現パターンはクロマチン構造に記憶され細胞分裂を経て娘細胞に伝達される。このエピジェネティックな発現維持に関わる主な遺伝子群がPcG遺伝子群とトライソラックス(trithorax)遺伝子群であり, PcG遺伝子は, 発現の抑制状態の維持に, trxは活性化状態の維持に関与する。これら遺伝子のホモローグはマウスやヒトからも単離されており、それらの異常は免疫不全や癌発症に至るため医学的に注目される。

ヒトPcG複合体

PcG複合体は生化学的にPRC(=Polycomb repressive complex)1とPRC2の2種類のタンパク質複合体に大別される。

PRC1は哺乳類にはこれらのホモログが複数種存在し, HPC1/2, HPH1/2/3, RING1A/B, BMI1などから構成されている。このうちRING1A, RING1BはRINGドメインを有しE3ユビキチンリガーゼとしてH2AK119をモノユビキチン化する。H2Aのモノユビキチン化がどのような機能をはたしているかいまだ不明であるがPcG依存的な転写抑制に重要な機能をはたすことが示されている。

ヒトPCR2はEZH2, EED, SUZ12のコアタンパク質から構成されている。EZH2はヌクレオソーム中のH3K27およびH1K26に対するhistone methyltransferase(HMT)活性を有しヒストン修飾によりいずれも転写抑制に働く

Polycomb:

ショウジョウバエHOX遺伝子群に関する先駆的な研究でノーベル賞を受賞したLewisは1947年に雄の前脚に存在するsex combと呼ばれる櫛状の突起の数が増加する変異を見つけPolycomb(Pc)と名付けた。この変異をホモにもつ個体は胚性致死となるが、その胚では体幹のすべての体節がより後方の体節の特徴を示した。この表現型は単一のHox遺伝子では説明できずLewisはPcが多数のHox遺伝子を抑制する機能を果たすと提唱した。その後同様な表現型を示す多数の変異が同定されそれらに対応する遺伝子群はPcグループと呼ばれるようになった。

Pcグループ遺伝子の中で状況に応じてHox遺伝子の活性化もしくは抑制状態の維持に働きうる遺伝子群がありGildeaらはETP(enhancer of trx and Pc mutations)とよびPcやtrxグループとは区別している。ショウジョウバエのAsx(additional sex comb)はETPの一つであり, そのヒトホモログがASXL1, ASXL2である。

  • ショウジョウバエのasxはpolycomb遺伝子産物であるcalypso( ubiquitin carboxyterminal hydrolase--ヒトBAP1相同遺伝子)とともにpolycomb repressive deubiquitinase(PR-DUB)複合体を形成しpolycomb標的遺伝子に結合し、ヒストンH2Aの脱ユビキチン化を介してHOX遺伝子群の転写抑制に関与することが示されている。
  • ヒト野生型のASXL1はcalypso(ヒトBAP1相同遺伝子)と関連している。calypso/BAP1 DUB はヒストンH2A上で遺伝子抑制に働くK119ubを脱ユビキチン化する。しかし白血病発症機序におけるASXL1の役割はDUB複合体を介するものではないと推察される。
     
  • 近年, ASXL1発現は, 転写抑制に働くヒストンのH3K27me3の発現量とつよく相関することが明らかになった。ASXL1の欠失は、H3K27のメチル化に必要な酵素複合体である, PCR2のコア蛋白がそろっていても, このヒストン修飾を完全に喪失させてしまう。
    ASXL1は種々の遺伝子部位においてPRC2複合体のリクルートおよび安定化に必要と考えられる。
 
  • PRC2の因子,EZH2,SUZ12はいずれも骨髄性腫瘍で変異していることが報告されている。ASXL1機能を阻害するとヒストンテールの目印であるH3_K27_me3が喪失してしまう。
 
  • ヒトにおいてはASXL1はBAP1とRP-DUBを形成しH2Aの脱ユビキチン活性を通じてHOX遺伝子群の抑制にかかわることが示されている。しかしヒトにおける正確な機能は不明。

MDSmuta01.jpg  ASXL_PRC2.jpg


*1  Delhommeau F et al., Mutation in TET2 in myeloid cancers N Engl J Med. 2009; 360: 2289-2301
*2  Langemeijer SMC et al., Acquired mutations in TET2 are common in myelodysplastic syndromes. Nat Genet. 2009; 41: 838-842
*3  Tahiliani M, et al. Conversion of 5-methylcytosine to 5-hydroxymethylcytosine in mammalian DNA by MLL partner TET1. Sience 324(5929): 930-935, 2009
*4  Figueroa ME et al., Leukemic IDH1 and IDH2 mutations result in a hypermethylation phenotype, disrupt TET2 function, and impair hematopietic differentiation. Cancer Cell 2010; 468: 839-843
*5  Abdel-Wahab O. Genetics of the myeloproliferative neoplasm. Curr Opin Hematol. 2011; 18: 117-123
*6  Ley TJ, et al., DNMT3A mutations in acute myeloid leukemia. N Engl J Med. 2010 Dec 16;363(25):2424-33
*7  Yan XJ, et al., Exome sequencing identifies somatic mutations of DNA methyltransferase gene DNMT3A in acute monocytic leukemia. Nat Genet.2011 Mar 13;43(4):309-15.
*8  Gelsi-Boyer V, et al., Mutations of polycomb-associated gene ASXL1 in myelodysplastic syndromes and chronic myelomonocytic leukaemia.Br J Haematol. 2009 Jun;145(6):788-800.

添付ファイル: filecitrateCycle03.JPG 1988件 [詳細] filePCR2andASXL1.JPG 735件 [詳細] fileMDSmuta01.jpg 1463件 [詳細] fileASXL_PRC2.jpg 1293件 [詳細]

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Last-modified: 2017-02-23 (木) 16:30:39 (600d)