Maf (v-maf musculoaponeurotic fibrosarcoma oncogene homolog (avian)) †Mafファミリ−の機能を大雑把にのべると組織特異的な遺伝子の発現を制御し, その組織・細胞の分化に密接にかかわる因子である。 現在まで膵β細胞, 水晶体, ヘルパーTh2細胞などきわめて多様な細胞で組織特異的遺伝子発現, 細胞分化にかかわる「分化因子」であるとともにヒト多発性骨髄腫の原因となる「発癌因子」であることが明らかになってきた。
コードするタンパクはホモ二量体あるいはヘテロ二量体で機能する, DNA結合性, ロイシンジッパ-含有転写因子(DNA-binding, leucine zipper-containing transcription factor)である。 結合部位あるいは結合パートナーにより転写活性因子または転写抑制因子として機能する。 いくつかの細胞分化制御として働いており, 胚レンズ線維細胞分化, T細胞のアポトーシス感受性増加, および軟骨細胞終末分化などがその例である。遺伝子欠損はjuvenile-onset pulverulent cataract および congenital cerulean cataract 4 (CCA4)を引き起こす。2つの転写バリアントが異なったアイソフォームを生じることが見出されている。
Mafと多発性骨髄腫発症 †ヒトの多発性骨髄腫で高頻度に認められる染色体転座 t(14;16)(q32;q23)では形質細胞で特異的に発現する免疫グロブリン重鎖遺伝子(IgH)とc-maf遺伝子座との転座を引き起こす。IgHエンハンサーの支配のもとでc-Mafが異所的に過剰発現すると考えられる。 免疫グロブリン軽鎖遺伝子座(IgL), mafBに転座のある症例も報告されている。転座をともなわずにc-MafやMafBが過剰発現する例もあるが原因は不明である。 c-MafやMafBの過剰発現がみられる多発性骨髄腫の例ではcyclinD2やintegrinβ7などが高発現しておりこれらの遺伝子がMafの標的遺伝子と考えられている。cyclinD2は細胞周期進行を促進し, インテグリンβ7は形質細胞の増殖を支持するストローマ細胞との接着性を促すと推察されている。 多発性骨髄腫の発症は複数の遺伝子変異蓄積による多段階プロセスでありMafの過剰発現はその一部を担っているようである。 転写因子が癌化能を獲得するにはアミノ酸変異や遺伝子融合など, 何らかの構造的な変化を伴うのが普通であるが, Mafによる発癌プロセスにはアミノ酸変異は必要ではない。 Mafは本来発現するべき細胞では活性が厳密に制御されているが、本来発現すべきではない細胞ではその制御を逸脱し本来の標的ではない遺伝子を活性化してしまい癌化をひきおこすと考えられる。 Maf転写因子はbasic region-leucine zipper(bZip)構造をもつファミリーを構成している。Mafは13から14bpの異常に長いDNAモチーフを認識する。このモチーフは Maf recognition element (MARE)と呼ばれる。MAREのシークエンスはAP1およびCREB/ATFファミリーにおのおの認識されるTREあるいはCRE(7 or 8bp)と同様のコアモチーフをもち, 両サイドにGC シークエンスが進展したもの。 Mafと同じbZip型転写因子に属する癌遺伝子産物でもあるJunやFosは受容体型チロシンキナーゼやRasなどの細胞増殖シグナルの下流で活性化し細胞周期進行に重要な役割を果たす転写因子である。 Mafの認識DNA配列MAREはJunやFosの認識配列TREを含んでおりMaf, Jun, Fos は細胞の増殖を促すような共通の標的遺伝子(群)の発現を上昇させることにより細胞を癌化させると推察できる。 (Kurokawa H, et al., Structural basis of alternative DNA recognition by Maf transcription factors.Mol Cell Biol. 2009 Dec;29(23):6232-44. より) JunとFos |