PathologyAtlas
結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫 (Nodular lymphocyte predominant HL: NLPHL) †
Hodgkinlymphomaの2つの亜型のうちの1つ。(もう1つの亜型は古典的Hodgkin lymphoma. NLPHLが5%, 残り95%はclassical HL).
2001年WHO分類から古典的ホジキンリンパ腫のlymphocyte-rich variant(cHL)から免疫学的特徴により独立分類された。
- 大変まれで, かつ 診断の難しいリンパ腫. Hodgkin lymphomaは全リンパ腫の5%, そのうちの4%がNLPHL. 1000例のリンパ腫をみて2例あたるかどうかの頻度. (吉野正先生. @B-cell lymphoma 検鏡in関東2018症例解説において)
- NLPHLの診断が妥当かどうかの論文. (Stein H et al. 2000)*1 400例近い診断例のうち, 最後までNLPHLの診断であったのは半分強くらいであった.
- 日本のNLPHLについて中村,佐藤ら(名古屋大)による臨床病理学的レビューが2015年に報告されたが, 25症例にとどまっている.*2
病理組織、immunophenotype, genotype †
NLPHLではB細胞主体の非腫瘍性小型リンパ球により満たされたfollicular dendritic cells(FDS: CD21陽性)から作られた大型球状の網目構造(meshworks)内に少数の大型腫瘍細胞が孤在性, 散在性に増殖している。(このパターンがキモですな)
光顕では, 既存のリンパ節構造は腫瘍に置き換わり, ぼんやりした結節病変が形成される。(vague nodular lesionといわれる)
WHO2016にはNLPHLの免疫組織学的構築としてAからFまでの6つのパターンが提示されている. 上記キモのパターンは, Aパターンのclassical B-cell-rich nodularに相当し, このほか以下のパターンが揚げられAパターンだけとは限らない.*3
- A: "classical" B-cell-rich nodular パターン(このページ上記のキモパターン)上記日本の25症例の報告のうち, 10例(40%)はこのパターンであった.*2
- B: Serpiginous/ interconected pattern
- C: Prominent extra-Nodular L&H cells パターン.
- D: T-cell rich nodular パターン-->@B-cell lymphoma 検鏡in関東2018症例にある.
- E: Diffuse (TCRBCL or DLBCL-like)パターン
- F: Diffuse moth-eaten , B-cell rich パターン
びまん性の病変であっても, 診断には少なくとも1個の結節性病変が認められることが必要*4で、純粋なびまん型の存在は現在では疑わしいとされている。結節性病変には胚中心はない。
結節を形成する腫瘍細胞はB-cell(CD21の結節と同様にCD20が染まる). 背景の小型リンパ球はCD3+ T-cell.
大型腫瘍細胞はlymphocyte predominant cell(LP cell)または「popcorn cell」と呼ばれる。分葉状核に好塩基性の明瞭な核小体を有する。Hodgkin/RS細胞にくらべ小型であるが、大きく区別できない場合もある。
LP細胞の周りにはCD3+ T-cellのロゼットが認められ, 背景にCD57+細胞も多い。
Classical HLでは背景のT-Cellに follicular helper T cellが多いことはまずない. それゆえ 背景T-cellに CD57とかPD-1が出てきたときにはcHLではなく, 必然的に NLPHLを考える.(田丸淳一先生. @B-cell lymphoma 検鏡in関東2018)
NLPHLの免疫染色*5*6
LP cellはgerminal center cell由来で, CD20(100%), CD79a, PAX5陽性. Bob.1, Oct2陽性. BCL6が陽性(83.3%). なぜCD10は陽性ではないのか?
cHLと異なり大型腫瘍細胞(LP cell)はCD30, CD15は陰性。 NLPHL症例で, まれにCD30陽性の大型細胞があるとされているが, これらのほとんどがLP cellとは無関係の濾胞外の免疫芽球immunoblast.*7*8(要注意事項--> 下記, NLPHLとCD30免疫染色を参照.)
NLPHLとCD30免疫染色.(近年ではNLPHとCD30についての知見は変化してきている)
2000年頃の文献では陰性だけれど, 最近アメリカの文献ではNLPHLにEBVが陽性になる症例やCD30陽性の症例がポツポツと報告されてきている. 日本でNLPHLにCD30が薄く陽性になることはいくらでもある. 最近気になるのは, 免疫染色の技法が進歩(リンカー法など)しておりその技術で染めると陽性頻度が全く異なってきていることです. NLPHLでCD30陽性になる症例は, まず引っかかってきている. (田丸淳一先生. @B-cell lymphoma 検鏡in関東2018)

- LCA, B細胞マーカのCD20, CD79a, PAX5/BSAP, BCL6, が陽性となる。半数例以上にepithelial membrane antigen(EMA)が陽性。
- 免疫グロブリン転写因子のOCT-2, BOB.1はいずれも陽性(cHLではIg遺伝子のtranscription factorの欠如がいわれており, BOB.1, OCT-2の両方またはどちらか一方の欠如が免疫染色で証明でき、鑑別診断に使うことができる)
- 免疫グロブリンは通常陽性, J鎖陽性例やsIgD陽性例も知られている。
- LP細胞にはEB virusは通常証明されない。(LMP-1、EBER−ISHは陰性) ただし, 背景リンパ球には陽性のことがある。
- 大型細胞にEBV陽性の場合, 中高年齢者では, EBV-associated lymphoproliferative disease of the elderly, pleomorphic variantが鑑別になる。
NLPHLのLP cellsには結構EBVが陽性になるという論文*9が出ました。EBV陽性だからといってNLPHLを否定するのは早計かもしれません。
- 背景非腫瘍性小リンパ球はB細胞優位。T細胞はCD57陽性細胞が優位で大型腫瘍細胞の周囲にrosettを形成する性質がある。
- on going mutaionを伴ったimmunoglobulin geneの再構成がNLPHLには認められB細胞非ホジキンリンパ腫に近い遺伝子学的特徴を呈する。
- 濾胞過形成や胚中心進展性異形成(PTGC)が共存または異時性に出現することがありNLPHLの前駆病変かどうかの論争がある。
T-cell/ Histiocyte-rich B-cell lymphoma(T/HRBL) †
NLPHL vs T-cell/ Histiocyte-rich B-cell lymphoma(T/HRBL)
両者の腫瘍細胞は免疫形質においてほぼ同じであるが背景成分に違いが認められる*10
- NLPHLの背景にはFDCの大きなmeshworkが形成されB細胞, 組織球および多数の胚中心CD4+T細胞でみたされている. ''T細胞はCD3, CD4, PD1, CD57, MUM1/IRF4が陽性.
- NLPHLの背景T細胞にはTIA1+, CD40L+のT細胞は認められない.
- THRLBCLの背景には通常, 小型B細胞はごく少ない.
- THRLBCLの背景T細胞はCD8+ 細胞障害性T細胞および組織球が優位で, follicular helper T cell(PD1+, CD57+)は少なく, 腫瘍性B細胞周囲にrossettを形成することもない.
granzymeB陽性, TIA1陽性のT細胞が出現するのはprimary THRBCLに限られる.
- CD57陽性T細胞rossettはT/HRBL-, NLPHLでは-or+, MUM1+ T細胞rossettはT/HRBL-, NLPHL+
T/H rich は明瞭なnodularな病変を作ることはない.(田丸淳一先生. @B-cell lymphoma 検鏡in関東2018)
- Follicular dendritic cells(FDCs)のmeshworkがNLPHLには認められるがT/HRBCLには見られない。
- FDCsの網目構造を検出するにはCD21, CD23の免疫染色。CD21のほうがおすすめ.
- 以上の鑑別をおこなってもどちらかに分類できない中間型(gray zone)症例が存在する*11*12*13。
- gray zone caseではFDCs meshworkがあり腫瘍B細胞は辺縁に偏在する。背景細胞はT細胞, 組織球が多く, 小型B細胞は少ない。
- NLPHLとTHRTCLは連続する病変(NLPHLが進展してTHRTCLとなる)とする考え方もある。
WHO2008では, "NLPHL, THRLBCL-like"と記載され, びまん性のT-cell-rich patternへ進行したNLPHL症例を示唆していた.*14しかし, revised WHO2016では, これらは"THRLBCL-like transformation of NLPHL"のほうが望ましいとされている.*15
- T/HRLBCLの腫瘍細胞はcentroblasts, immunoblasts, lymphocyte-predominant(LP) Hodgkin cells, あるいは classic Hodgkin Reed-Sternberg (HRS) cellsに似た形態を示す. びまん性またはvague nodularパターンの病変で, FDCsのmeshworkは認められない.
免疫染色ではT/HRLBCLの腫瘍細胞はCD45+, B-cell antigens陽性, BCL6は強陽性.
CD30とCD15は陰性.EBV感染は認められない.*16*17
T/HRBCLはaggressiveリンパ腫であり, その予後や治療成績はNLPHLよりもDLBCLに近似している. rituximabを加えたCHOP療法(R-CHOP)がDLBCLにおけると同様有効である.*18*19