Breast cancer--乳癌の分子分類とプロテオームの異常

 

Nuclear receptor 核内受容体, estrogen and estrogen receptor

エストロゲンとエストロゲン受容体(ER)

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エストロゲンはエストロン(E1)、エストラジオール(E2)およびエストリオール(E3)の3種類の分子を指し, ステロイドホルモンの一種であり、生殖機能の形成および細胞の増殖を促進する働きを持つ。

  • 一般にステロイドホルモンはコレステロールから各段階の酵素によって代謝され,エストロゲンであるエストロンとエストラジオール(E2)は,その最終段階において生合成酵素アロマターゼaromataseによって,アンドロゲン(男性ホルモン)である, 各々アンドロステンジオンとテストステロンから転換され生成される. すなわち,エストロゲンが産生される臓器ないし組織にはアロマターゼが局在している.

エストロゲンが生理作用を発現するためには標的組織に存在しているエストロゲン受容体(Estrogen Receptor、ER)への結合を介する必要がある. E1〜E3 いずれもERとの結合能を有するが、中でも生体における産生量はE2が多い
ERは核内受容体スーパーファミリーに属する分子の一つで, 卵胞ホルモン受容体とも呼ばれる。

  • エストロゲンはコレステロールから合成される, 小さくて炭素に富んだ分子(小型疎水性分子)で、
    この分子は、インシュリンや成長ホルモンのようにより分子量の大きなホルモンとは異なり, 細胞表面の受容体によって感知される. エストロゲンは身体中の細胞に直接入り込むため, 細胞は核の中にある受容体をDNAが活動する場のすぐそばで利用することができる。
     

核内受容体スーパーファミリーには, ER, その他のステロイド, 甲状腺ホルモン, レチノイドの受容体のほか, 代謝過程を仲介するperoxisome proliferator-activated receptor(PPAR), farnesoid X receptor(FXR), および liver X receptor(LXR) などが含まれる.*1

  • エストロゲンが核に入り, エストロゲン受容体(ER)に結合すると受容体は組になり2量体を形成する。この2量体はDNAにある何十個もの特定部位に結合する。
  • ERの結合部位は, 活性化する必要のある遺伝子と隣接した場所に戦略的に配置され, このDNAに結合した受容体はDNA読み取り機構を活性化し,メッセンジャー(伝令)RNAの生産(転写)を開始させる。つまり, 遺伝子の転写を制御する転写因子として機能する。また、植物中に含まれるイソフラボンなどの分子(植物性エストロゲン)内分泌撹乱物質もERに対して結合能を有し作用を発現することが知られている。

核内受容体 Nuclear receptor

核内受容体(nuclear receptor)は細胞内タンパク質の一種であり、ホルモンなどリガンドが結合することで核内に移行しDNAに直接結合して細胞核内での転写を調節する.
すなわち転写因子の一種でリガンドにより影響をうける. 発生、恒常性、代謝など、生命維持の根幹に係わる遺伝子転写に関与している。ヒトでは48種類存在(ヒトで48の遺伝子にコードされている)すると考えられている.*2

pg-R.jpg核内受容体の種類のページ

  • エストロゲンなどのステロイドホルモンや甲状腺ホルモン, レチノイド, ビタミンDなど小型疎水性シグナル分子は, 標的細胞の細胞膜を拡散により直接通過し, 転写調節因子である核内受容体に結合する.
    これらのシグナル分子は互いに化学構造も機能も大きく異なるが, 作用機序は類似している.それぞれが特異的な受容体タンパクに結合し, これらの受容体タンパクが特定の遺伝子の転写を調節する能力を変化させる.
  • 受容体タンパクは, 核内受容体としても, シグナルの細胞内エフェクターとしても働いている.受容体はすべて構造的に似ており, 大きな核内受容体スーパーファミリーnuclear receptor superfamilyを構成している.
  • 核内受容体の中には, 塩基配列より同定されただけで, リガンドがわからないものが多数ある(これらはorphan nuclear receptorとよばれヒト, ショウジョウバエ, 線虫のゲノム内の核内受容体遺伝子の多数を占めている), また, リガンド結合とは別のしくみで活性が調節される核内受容体もある*3

哺乳類の核内受容体には, 分泌型シグナル分子ではなく, 細胞内の代謝産物により調節されるものがある. 核内のホルモン受容体はこのように細胞内代謝産物の受容体から進化したのではないかと考えると, これらが細胞内にある理由がわかる.

ESR1とESR2遺伝子

  • 放射性同位体を用いた実験により、未成熟ラットの子宮や膣にエストロゲンが集積し保持されることから受容体分子の存在が示唆され、1960年代に17β-estradiolに結合する分子としてER(ESR1)が同定された*4
  • 1985〜6年に遺伝子がクローニングされ、配列が決定された.ESR1遺伝子はヒト6番染色体q腕(6q25.1)上にコードされる。全長は約300 kbで、8個のタンパク質コード領域が、5'-UTRにある少なくとも7つのプロモーター領域から転写される.*5 *6*7
  • 1996年, ラット前立腺のcDNA libraryから第2のER(ESR2)が発見*8されたことからそれと区別して先に同定されたERをESR1,あるいはESR-αと呼ぶ.(Ref 1)、第2のERはER-βとして、従来のER、ER-αと区別されている。ESR2遺伝子は14番染色体長腕上(14q21-22)に位置している。多様なsplice variantを有している. (Ref 2, 3)。
     
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ER分子構造

  • ESR1は595アミノ酸残基からなり, 分子量は66 kDaである。ホルモン結合ドメイン、DNA結合ドメイン、転写活性化ドメイン(AF-1領域、AF-2領域)を有する。
     
  • Wild typeのER-β1は530個のアミノ酸からなる。アミノ酸構造は一般的な核内受容体ファミリーと同様であり、リガンド非依存性の転写活性ドメインAF-1、ERがDNA上の特異的配列を認識して結合するDNA結合ドメイン(DBD), リガンド結合ドメイン(LBD)およびリガンド依存性のAF-2などからなる。遺伝子は8個のエクソンからなる。
 
  • ER-βには現在少なくとも5個のsplice variantが存在することが知られている。最も研究が進んでいるER-β2は別名ER-βcxと呼ばれ、exon 8がalternative exon, cxによって置き換えられている.*9*10
     
  • リガンドの結合により活性化されたERタンパク質はホモ(αα、ββ)あるいはヘテロ二量体(αβ)を形成する。ERαとERβはいずれも6つのドメイン(A-F領域)から構成されている。
     
  • ERαとERβ, 2種類の受容体タンパク質間ではアミノ酸配列の配列類似性が高く、DNA結合領域(C領域)で96%、リガンド結合領域(E/F領域)は若干低く58%となっているが、A/B領域やD領域では配列類似性が低い。
     
  • ERの転写活性化に関与する2つのドメイン構造はA/B領域およびE領域内に存在し、それぞれAF-1およびAF-2と呼ばれている。
    これらのリガンドに対する反応性はそれぞれ異なり、AF-1による転写活性化はリガンド非依存性であり恒常的に転写活性化能を示すが、AF-2による転写活性化はリガンドの結合に依存している。
     
  • DNA結合領域(C領域)には2つのZnフィンガーモチーフが含まれ、DNA上に存在する応答エレメント(ERE:AGGTCAnnnTGACCT、nはATGCいずれかの核酸)との結合に関与している。
  • D領域はヒンジ領域と呼ばれ、受容体タンパク質の柔軟性を形成している。
     
  • カルボキシル基末端側のEおよびF領域はリガンドとの結合に関与しているドメインであり、リガンド非結合状態においてはhsp90やhsp70等の分子シャペロンと結合している。また、この領域は受容体タンパク質の二量体形成においても重要な働きをしている。
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ESR1は, endometriumが最も発現が多く, fat, liver, ovary, prostate, thyroid, testisが続く.

ESR2は, testisに発現が多く, adrenal, fat, lymph node, ovary, spleenが続き, その他の組織にもESR1より広く発現している.

ESR1(ERα)とESR2(ERβ)の間にはドメインの相同性が低く, 組織分布も異なることが分かり, それぞれ異なった機能を有していることが示されている。

 

卵巣から分泌されるエストロゲンが低値である閉経後女性に, なぜエストロゲン依存性の乳癌が多く発生するのか?

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乳癌の多くはエストロゲンに依存する癌であり, 正常の乳腺細胞から癌化する過程で女性ホルモンが大きな役割を果たすばかりではなく、乳癌患者さんの7-8割では女性ホルモンにより癌細胞の増殖が亢進したり、浸潤/転移が生じやすくなったりする.

乳癌患者さんの多発する閉経期前後では卵巣から分泌されるエストロゲンは値はかなり低いにもかかわらず, 実際に乳癌患者さんの組織中エストロゲン濃度は血中の10倍〜100倍以上増加している.

乳癌患者さんで増加しているエストロゲンは,血中に多く存在している副腎皮質から合成、分泌されている弱い活性の男性ホルモン(テストステロン)をアロマターゼと言う酵素により癌組織局所でエストロゲンに転換して作用している事が分かってきた.更に多くの乳癌の患者さんではこのアロマターゼが癌組織で過剰に発現していて、活発に男性ホルモンから女性ホルモンを作り出して癌細胞の女性ホルモン受容体を介して作用してる事も明らかになってきた.

アロマターゼを抑制することでエストロゲン産生を低下させることにつながり乳癌治療に使われているアロマターゼ阻害薬は閉経後女性のみが適応となっている.

卵巣におけるアロマターゼ活性は下垂体からのLH/FSHにより制御されており, 脂肪織における発現量をはるかに超えるアロマターゼ活性をもっているため, アロマターゼ阻害薬のみでは, 閉経前女性の卵巣におけるアロマターゼ活性をフロックするには至らない.

 

アロマターゼ aromatase, CYP19A1

アロマターゼは卵巣や脂肪織だけではなく, 胎盤, 脳, 肝臓などにひろく発現し, アミノ酸配列は同じであるが, 各臓器ごとに活性や発現量が大きく異なっている. その発現制御は複雑であり未解明な点も多い.
古典的には卵巣や胎盤など女性生殖組織に局在し、女性ホルモンとしてのestrogen合成に関与する律速酵素と考えられてきた。しかし1970年代末、estrogen が発生・増殖に促進的に作用する乳癌についての研究から、腫瘍組織局所でのestrogen産生が明らかとなり、以来、末梢組織に局在するaromataseへの関心が高まった*11

アロマターゼ/ CYP19A1遺伝子は染色体15q21に存在し*12, 10個のエクソンからなる. exon 2-10がタンパク質をコードしている. exon1は多重エクソン1を形成し, multiplex promoterとしてアロマターゼの組織特異的発現調節や、乳癌・子宮癌などのエストロゲン依存性癌でのアロマターゼ発現亢進に関わっている.
多重エクソン1には, 多数のプロモーターが縦列し, 臓器により活性化されているアロマターゼ遺伝子プロモーターが異なっている.*13

どの多重エクソン1が選択されるかにかかわらず, 503個のアミノ酸からなる分子量約57000, 共通で単一のaromatase蛋白質が産生される*14

aromatase 蛋白質はCytochrome P450 superfamilyに属しestrogen生合成の最終段階で、androgen(androstenedioneやtestosterone)を芳香化しestrogen(estroneやestradiol)に転換する酵素である(右図)。

現在までに、estrogenとの関連が容易に想像される女性生殖器のみならず、従来estrogenとは無縁と考えられてきた全身各臓器への局在が確認されている*15

近年, Estrogenは 単なる女性の生殖ホルモンとしてではなく、男女両性の生理機能の維持に不可欠な多機能性ホルモンであることが明らかとなりつつあり、末梢組織でのestrogen産生に中心的役割を果たすaromataseは、intracrinology(細胞組織内分泌学)の概念上、最も重要な酵素の一つである*16


*1  Huang P, et al. Structural overview of the nuclear receptor superfamily: insights into physiology and therapeutics. Annu Rev Physiol 2010; 72:247-72.
*2  Zhang Z, et al."Genomic analysis of the nuclear receptor family: new insights into structure, regulation, and evolution from the rat genome". Genome Res 2004; 14 (4): 580-90.PMID 15059999
*3  Moore JT, et al. The nuclear receptor superfamily and drug discovery.ChemMedChem?. 2006 May;1(5):504-23. Review. PMID:16892386
*4  Jensen EV, Jordan VC. The estrogen receptor: a model for molecular medicine. Clin Cancer Res 2003; 9: 1980-1989.PMID: 12796359.
*5  Kos, M.,et al.Minireview: genomic organization of the human ERalpha gene promoter region. 2001 Mol Endocrinol 15, 2057-2063.PMID:11731608
*6  Walter, P. et al. Cloning of the human estrogen receptor cDNA. 1985 Proc Natl Acad Sci U S A 82, 7889-7893.PMID: 3865204
*7  Greene, G. L. et al. Sequence and expression of human estrogen receptor complementary DNA. 1986 Science 231, 1150-1154.PMID: 3753802
*8  Kuiper GG, et al. Cloning of a novel receptor expressed in rat prostate and ovary. Proc Natl Acad Sci U S A. 1996 Jun 11;93(12):5925-30.PMID: 8650195
*9  Moore JT, et al. Cloning and characterization of human estrogen receptor beta isoforms. Biochem Biophys Res Commun. 1998 Jun 9;247(1):75-8. PMID: 9636657
*10  Ogawa S,et al. Molecular cloning and characterization of human estrogen receptor betacx: a potential inhibitor ofestrogen action in human. Nucleic Acids Res. 1998 Aug 1;26(15):3505-12.PMID: 9671811
*11  Abul-Hajj YJ, et al. Steroids. Aromatization of androgens by human breast cancer. 1979 Feb;33(2):205-22. PMID: 156971
*12  Chen SA, et al. Human aromatase: cDNA cloning, Southern blot analysis, and assignment of the gene to chromosome 15. DNA. 1988 Jan-Feb;7(1):27-38.PMID: 3390233
*13  Harada N, et al. Tissue-specific expression of the human aromatase cytochrome P-450 gene by alternative use of multiple exons 1 and promoters, and switching of tissue-specific exons 1 in carcinogenesis. Proc Natl Acad Sci U S A. 1993 Dec 1;90(23):11312-6.PMID:8248245
*14  Harada N. Cloning of a complete cDNA encoding human aromatase: immunochemical identification and sequence analysis. Biochem Biophys Res Commun. 1988 Oct 31;156(2):725-32.PMID: 2973313
*15  Harada N, et al. Tissue-specific expression of the human aromatase cytochrome P-450 gene by alternative use of multiple exons 1 and promoters, and switching of tissue-specific exons 1 in carcinogenesis. Proc Natl Acad Sci U S A. 1993 Dec 1;90(23):11312-6.PMID: 8248245
*16  Simpson ER, Davis SR. Minireview: aromatase and the regulation of estrogen biosynthesis--some new perspectives. Endocrinology. 2001 Nov;142(11):4589-94.PMID:11606422

添付ファイル: fileovary steroidogenesis.jpg 7件 [詳細] fileESR1and2 .jpg 6件 [詳細] fileER-protein.jpg 5件 [詳細] fileEstrogens.jpg 2件 [詳細] filepg-R.jpg 4件 [詳細]

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Last-modified: 2019-04-28 (日) 10:23:40 (26d)