Ras--がん化に関わる重要なシグナル分子

BRAF変異と腫瘍

serine/threonine protein kinase, RAFにはヒトでA-RAF, B-RAFおよびC-RAF[Raf-1とも呼ぶ]の3種類のparalogが存在する。膜結合型小型GタンパクであるRASは活性化によりRAFを活性化する。RAFの作用により, 第二のprotein kinase MEK, 次いで第三のprotein kinase ERKが順次活性化される。

RTK-RAS-MAPK.jpg
 
  • BRAF (v-raf murine sarcoma viral oncogene homolog B1)タンパク質は 766個アミノ酸より成る約74kDaのserine/threonine kinase.
     
  • BRAFはEGFRなどの受容体型チロシンキナーゼにより活性化されたRASタンパク質と直接結合し, BRAFやCRAFと二量体を形成することで活性化され, 下流のMEK-ERK経路を活性化, 細胞増殖や生存に関与する.
     
  • ERKは遺伝子発現, 細胞骨格再構成(cytoskeletal rearrangement), 代謝を調節し, 細胞外シグナルへ協調して反応し細胞の増殖, 分化, 老化, アポトーシスを制御している。
     
  • このRTK-RAS-MAPKシグナル経路はがんの約30%で過剰に活性化されており、その内, RASの変異が, がんの15-30%に認められる。近年の報告ではB-RAFの変異はがん症例の約7%に見出され*1ており, この経路における, もう一つの重要ながん遺伝子と考えられる。
     
  • 活性RASが受け取ったシグナルは、RASに会合し細胞質内部へとシグナルを伝える最初の反応を行うRAFに伝えられ、最終受容体までの細胞内経路を形成する。転写まで届く場合は、細胞質内経路と核内経路にさらに分けることができる。
     
  • BRAF遺伝子は7番染色体(7q34)に位置し18 exonよりなる.(NG_007873.3 RefSeqGene Range5001..195753-GenBank)

RAFの構造

RAFの構造は、シグナル伝達をする分子の典型的な構造をもつ。すなわち、シグナル伝達経路の上流のシグナル分子と結合する部位と、それによって活性化される部位、および補助的因子の結合部位である

このRAFの上流のシグナル分子、すなわちRASと結合するRBD(RAS Binding Domain)補助因子結合部位(C1)、および下流のシグナル分子の活性化部位としてタンパク質中のセリンまたはトレオニン残基をリン酸化するプロテインキナーゼと呼ばれる酵素活性ドメイン(ST_K)を持つ。この一連の活性化や構造形成において、タンパク質にリン酸が結合するリン酸化が重要な役割を果たす。

 
BRAFprotein01.jpg

B-RAFmutation

BRAFmut-freq01.jpg
  • 悪性黒色腫: 27-70%
  • 甲状腺乳頭癌: 36-53%
  • 大腸直腸癌: 5-22%
  • 卵巣漿液性癌:〜30%
  • その他の低頻度に出現する癌 1-3%

24の異なったコドンを含む, 40種類を超えるB-RAFミスセンス変異が発見されている。

  • T1796がAに変異するV600ががんにおける変異の91%、*1 *2. これ以外のほとんどのBRAF変異はきわめてまれで全例中0.1-2%を占めるのみ。
     
  • V600E以外のBRAF変異は非常にまれと覚えておいて間違いではない
     
  • V600Eは, がんのBRAF変異の86%, その他の残基への変異(V600D, G, K, M, R)もあるがごく少ない。
     
  • V600 変異は悪性黒色腫および甲状腺癌 BRAF変異の90%以上と高頻度で、大腸癌においても高率に認められる
     
  • V600変異は非小細胞性肺癌においては頻度が低い。
     
  • 各がん腫におけるBRAF遺伝子変異の頻度(右図); Schubbert S et al. Nat Rev Cancer 2007; 7: 295-308.
     
*DaviesらのオリジナルBRAFシークエンスではaa31,32にあたるコドンが1つ欠けている。そのためV599と記載されているが訂正されたシークエンスではV600となる。

大腸癌 colorectal cancerのBRAF V600E遺伝子変異-頻度と臨床病理学的特徴

COSMICによると, 大腸癌のBRAF遺伝子変異の頻度は, 10.3%(結腸癌 13.4%, 直腸癌3.2%). exon15領域のc.1799T>A/ pV600E(codon600のバリンがグルタミン酸に変化する)が多い.

BRAF V600E変異は大腸癌の発生初期におこると報告されているが, StageI/IIと比較してStageIII/IVでやや頻度が高い傾向がある.

日本での大腸癌BRAF V600E変異の頻度は4.5-6.7%と報告されており, 欧米からの報告(5-12%)と比較してやや低い

大腸癌でのRAS変異とBRAF変異は相互排他的といわれている.

BRAF V600E変異大腸癌の特徴(25研究11955例のメタアナリシス)

  • 女性, 60歳以上, 右側結腸原発, 低分化腺癌, 粘液成分あり, ミスマッチ修復機能欠損症例BRAF V600E変異が多いことが報告されている.
     

予後と治療法選択に関する情報

切除不能進行再発大腸癌でBRAF V600E変異の有無を調べることは, 化学療法治療効果や予後についてより詳細で正確な情報を得ることができ, 治療選択の点からも有益である。

BRAF V600E変異大腸癌はBRAF野生型に比較して予後不良である. (901例の研究)*3

2009年. 切除不能進行再発大腸癌一次療法としてカペシタビン+オキサリプラチン(CapeOX)+ベバシズマブとCapeOX+ベバシズマブ+セツキシマブ療法を比較した第III相試験(CAIRO-2試験)でいずれの治療群でもBRAF V600E変異大腸癌の無増悪生存期間, 全生存期間が有意に不良であった.

2009年以降の複数研究もBRAF V600E変異大腸癌は野生型と比較して予後不良である報告が再現性をもって提示されている.

26研究メタアナリシスでは全生存期間のハザード比は2.25(CI95%: 1.82-2.83)と報告された.

切除不能進行再発大腸癌一次化学療法例を対象のランダム比較試験の統合解析でも, BRAF V600E変異大腸癌の生存期間は野生型に比べ大きく劣ると報告された.

欧州ガイドラインでは, BRAF V600E変異大腸癌の一次治療レジメンはFOLFOXIRI+ベバシズマブが第一選択に推奨されている

最近の研究で5-FU+ロイコボリン+オキサリプラチン+イリノテカン(FOLFOXIRI)+ベバシズマブ療法がBRAF V600E変異大腸癌例で特に生存延長効果が大きいことが報告された.(TRIBE試験)

BRAF V600E変異大腸癌のみを対象としたFOLFOXIRI+ベバシズマブ療法の第II相試験でも良好な治療成績が報告されている.


*1  Davies H, et al. Mutations of the BRAF gene in human cancer. Nature 2002; 417: 949-954
*2  Garnett MJ., et al., Guilty as charged: B-RAF is a human oncogene Cancer Cell 2004; 6: 313-319
*3  Samowitz WS,et al. Poor survival associated with the BRAF V600E mutation in microsatellite-stable colon cancers. Cancer Res. 2005 Jul 15;65(14):6063-9.

添付ファイル: fileBRAFmut-freq01.jpg 422件 [詳細] fileRTK-RAS-MAPK.jpg 680件 [詳細] fileBRAFprotein01.jpg 337件 [詳細]

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Last-modified: 2018-02-15 (木) 14:32:14 (94d)