Chronic myelomonocytic leukaemia (CMML)

Ras (GTP結合蛋白)

Ras--がん化に関わる重要なシグナル分子*1*2

rasタンパク質群はラットに肉腫を発生させるHarvey肉腫ウイルス(H-Ras)やKirsten肉腫ウイルス(K-Ras)など, よく似た一群のレトロウイルスのがん遺伝子産物として発見された.

N-Rasは, その他のRasタンパク質と配列相同性をもつトランスフォーミング遺伝子産物として神経芽細胞腫(neuroblastoma)細胞株から発見された.

ヒト膀胱がんより、トランスフェクション法により最初に単離されたヒトのがん遺伝子であり、さまざまながん腫で高頻度に変異が認められ, がん化にかかわる重要なシグナル分子(がん遺伝子)である。

 Rasには, H-Ras, K-Ras1/2, N-Rasの3種類の蛋白があり, いずれも約21kDaのモノマータンパク質である。

  • C末端のCAAXモチーフに翻訳後修飾されたファルネシル基およびパルミチル基を介して細胞膜に局在する。膜結合型small G proteinの一つ
     
  • ファルネシル基はすべてのRasに, パルミチル基はK-Ras2以外のRasに存在する。
     
  • GDP結合型が不活性型であり, SOS(son of sevenless)などのguanine nucleotide exchange factor(GEF)の作用により活性型のGTP結合型に変換する
     
  • GTPase-activating protein(GAP)の作用により弱い内在性GTPase活性が著しく活性化されGTPが加水分解され再びGDP結合型にもどるサイクルによって活性が制御される
EGFR-RAS.jpg
 

Ras(H-, K-, N-Ras)はさまざまな標的因子との結合により下流シグナルを活性化し細胞増殖のみならず細胞分化や形態形成においても重要な役割をはたすことが明らかになっている。

  • GTP結合はRasの構造変化を来し, effector loopと呼ばれる領域で, Raf, phosphatidylinositol3-kinase(PI3K), RalGEFなどのエフェクターと結合し、それらを膜にリクルートおよび活性化して増殖シグナルを伝達する。
 
  • セリン・スレオニンキナーゼであるc-Rafは最初に発見された, Rasの標的遺伝子である。相同遺伝子であるA-Raf, B-RafとともにRasの主要な標的因子となっている。
 
  • 増殖因子, EGFなどの細胞外シグナルにより受容体型チロシンキナーゼが活性化されると自己リン酸化をおこし, これを認識するアダプタータンパク質のGrb-2を介し, RasのGEFであるSos1が細胞膜にリクルートされる。これにより細胞膜に局在しているRasが活性化され, Rafの"Raf-like Ras-binding domain"に結合することでキナーゼ活性を促進する。
 
  • Rafは下流のMEK-ERKを介したMAPキナーゼ経路を活性化し, 細胞増殖, 細胞分化を促進する遺伝子発現を誘導する。このようにRas-Rafの相互作用は細胞外増殖因子のシグナルを核における転写制御へと伝達するシグナル経路の中核となっている。
     
     

Rasの脂質シグナル活性化

  • PI3K(PI3キナーゼ)の触媒サブユニットp110もRasの標的因子である。"PI3K Ras-binding domain"への活性化型Rasの結合によりPI3Kの酵素活性が増加, ホスファチジールイノシトール-3,4,5-トリスリン酸(PIP3)の産生亢進を促す。この結果, PIP3結合モチーフのPHドメインを有するAkt1やPKD1など下流タンパク質の活性化がおこる。
    RasによるPI3Kを介した脂質シグナル活性化も細胞がん化における重要な経路のひとつとなっている。
  • 活性化Rasの相互作用ドメインとしてRAドメインがあり, RAドメインをもつRas標的因子に, Rasサブファミリーに属するRalの活性化因子であるRalGDS(Ral GDP dissociation stimulator), 小胞輸送に関与する低分子量Gタンパク質Rab5のGEFであるRINファミリーなどが知られている。Rasが他の低分子量Gタンパク質の上流で機能するGタンパク質カスケードも存在していることが明らかになっている。
  • PLCε(phospolipase C epsilon)もRAドメインを有するRas標的因子として知られている*1。RAドメインをもつタンパク質はヒトで数十種類以上存在しRassfファミリーのようにRasとの結合能を有するもののその機能がまだ不明なものも複数ある。
  • RAドメインはRap他、他のRasサブファミリーに対しても結合能をもつ。RasサブファミリーによるRAドメインタンパクの機能的使い分けについて研究がおこなわれている。

Rascycle.jpg  RAS-membrane02.jpg

RASの翻訳後修飾

  • RASの翻訳後修飾は生物学的機能発現に重要な機序であり, RASはプレニル化, タンパク質分解, カルボキシルメチル化, パルミチル化などの翻訳後修飾を必要とする.
  • プレニル化は, protein farnesyltransferase(; FTase), protein geranylgeranyltransferase type I; (GGTase I), GGTase IIの3つの異なる酵素により触媒される.
  • ファルネシル化はFTaseにより触媒されるRAS最初の翻訳後修飾であり, CAAX motif C末端システイン残基にファルネシル基を付加する.
  • RASタンパク質ファルネシル化後, RAS-converting enzyme-1(RCE1)により, CAAX motifのC末端アミノ酸, AAXが除去される. 最終的には, isoprenylcysteine carboxymethyltransferase-1(ICMT1)によりプレニル化のシステイン残基がメチル化される。
  • H-RAS, N-RAS, K-RAS4BはさらにC末端システイン残基にパルミチル基が付加され細胞膜に固定される.
  • これらのCAAXシグナル修飾はRASと細胞膜の結合に必須であり, この種々の段階を触媒する酵素は薬剤標的として研究されている.
     

Rasタンパク質の構造

文献*3

哺乳類のRasタンパク質(H-, K-, N-Ras)の最初の164アミノ酸配列は非常によく類似している. C末端部は186番目のシステイン残基を除き, 多様性に富む.(hypervariable region). C末端部のCaax boxはイソプレニル化による翻訳後修飾の基質となる.

Rasタンパク質の保存性の高さは, activator, inhibitor, effectorなど, シグナル伝達経路のその他の多数の構成要素と相互作用する必要性のためと考えられる.

KRASstructure.jpg

  • 26-45番の残基は下流タンパク質と相互作用するエフェクター領域を形成している. この領域内の30〜40番残基は酵母から哺乳類まで保存されている. ここに変異を生じると遺伝子産物の活性は一般的に失われる.
     
  • エフェクタードメイン(スイッチ領域)に変異のあるRasタンパク質でもGTPに結合して, その加水分解を触媒する活性は保たれている. この変異の上にGTP加水分解を抑制して, GTPが結合した活性化状態を長引かせる第二の(トランスフォーミング)変異が重なった場合, エフェクタードメインに変異のあるRasタンパク質は生物学的に不活性のままである.
     
  • 97〜108番目のアミノ酸配列はグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)と相互作用する領域である。
     
  • スイッチ領域(switch region)と呼ばれるRasの2つの領域の構造はGDPがGTPに交換されるときに変化する. スイッチ1領域もスイッチ2領域もエフェクター(serin/threonin kinaseのRaf-1など)への結合とGTPase活性化タンパク質RasGAPへの結合に関与している.
    2つのスイッチ領域における構造変化は連動しており, GTPが結合するとスイッチ領域2のN末端はヘリックスからコイルへ整然と移行し続いて, α2ヘリックスにおこる変化が結合面の構成要素を効果的に再編成する. 結合していたGTPが加水分解されGDPになるときは逆の変化がおこる.

C末端最後にはCaax(-システイン, 脂肪族アミノ酸, 脂肪族アミノ酸, 任意のアミノ酸)という相同配列がある. ヒトH-Rasでは-CVLS, N-Rasでは-CVVM, K-Rasでは-CVIM. Caaxモチーフは翻訳後修飾を受けてそのシステイン残基には, 安定なチオエーテル結合を介してファルネシル基が付加される. 次いで, 末端の3アミノ酸の切断, 新規に露出したC末端システインのメチルエステル化が起こる. 第二の脂質修飾として, C末端の超可変領域内のもう一つのシステイン残基がパルミトイル化される. これらの修飾によりRasは細胞膜内側表面に強く結合できるようになる.

  • Caax配列の変異やファルネシルトランスフェラーゼ阻害薬により翻訳後のプレニル化反応が阻害されると正常なRasの機能は抑制され, ファルネシル化されていないRasは細胞質中に蓄積し, 関連キナーゼのRafを補足し, Rafが細胞膜接触するのを阻害する。
     
    • 高コレステロール治療薬, スタチンはファルネシルトランスフェラーゼ阻害薬で, HMG-CoAレダクターゼにより触媒される3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAのメバロン酸への変換を阻害する. この反応はイソプレン単位の生合成経路でも重要なステップであり, イソプレンは重合してゲラネル基(C10), ファルネシル基(C15), ゲラニルゲラニル基(C20), スクアレン(C30)を形成する. スクアレンは生合成経路におけるコレステロールの前駆体である.ファルネシルトランスフェラーゼ阻害薬は抗がん剤となる可能性もある.

がんを誘導するRas変異

発がん性のウイルス遺伝子産物(v-Ras)のいくつかは, GTPase活性を阻害するような単一点突然変異をもつ点で, 野生型の細胞性Rasと異なり持続的な活性化状態にある. transformationを誘導する変異としてはcodon 12, 13, 61番目の残基におこるものがよく見られる.

Rasの自然発生的, 活性化をおこす, その他の変異には, 結合したヌクレオチド(GDP)の解離速度を高めるものがある. 変異のないRasタンパク質では, GDPの解離は非常に遅いが, この速度を有意に上昇させる変異が多く知られている. その多くは, ヌクレオチドと相互作用する残基か, その近傍の残基に起こる。特にA146の置換はグアニンヌクレオチド交換速度を1000倍に上昇させる. これらの変異体はGTPase活性が阻害された変異体と同じく, 活性型GTP結合型として存在する割合が高くtransformationを誘導させることになる

Ras変異体では活性化型、不活化型のサイクルスイッチ機構が破綻している

  • ヒト膀胱がん由来細胞のH-RasではGly12Valの点突然変異がありRasGAPによるGTPase活性化を受けなくなり、その結果Rasを構成的に活性化状態のまま(GTP結合状態のまま)にしていることが示された。
     
  • Gly12と同様にGTP結合ドメインのGln61変異もスイッチ機構破綻によるがん化能を獲得することがヒト腫瘍で知られている。
     
  • src同様にRas自身に変異がなくとも上流のEGFRなどが活性化変異を起こした場合はその恒常的な活性を伝播することになりがん化に重要な役割を果たす
     
     

膵癌

膵癌の〜90%にはKRAS変異が生じている。大部分はKRAS codon12グリシンがアスパラギン酸(G12D, GGT→GAT)あるいはバリン(G12V, GGT→GTT)へアミノ酸置換を来す変異である。この変異によりKRASは恒常的に活性化型となり細胞増殖や生存シグナル経路の異常な亢進をもたらす。

慢性膵炎症例のKRAS遺伝子変異は悪性化の予測には不十分*4 *5であり遺伝子変異と臨床像, 組織のfollow upとの組み合わせは膵癌スクリーニングには現在推奨されていない. 細胞診の補助の使用はできると推察されている.

若年性骨髄単球性白血病 Juvenile myelomonocytic leukemia

約90%にRAS経路に関する遺伝子変異が相互排他的に検出されている。

遺伝子変異の頻度は, NF1遺伝子が15%, RAS遺伝子が約20%, PTPN11遺伝子が約35%, CBL遺伝子が約15%, いずれの遺伝子変異からもRAS-guanone triphosphate(GTP)の過剰を生じ, RAS経路の恒常的活性化がおこる。

JMMLの診断基準のひとつであるGM-CSFに対する高感受性の原因はRAS遺伝子異常によるもの。

 

各癌種におけるRAS遺伝子変異の出現率.*6

 

KRASmut-freq01.jpg NRASmut-freq01.jpg HRASmut-freq01.jpg

 

BRAF変異と腫瘍

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*1 Edamatsu H, et al. Ras and Rap1 activation of PLCepsilon lipase activity. Methods Enzymol. 2006;407:99-107.PMID:16757317
*1  山本雅ほか編 イラストで徹底理解するシグナル伝達キーワード事典 羊土社 東京 2012
*2  多田 稔ほか 低分子量Gタンパク質研究の進歩 日薬理誌 2007;130: 373-379
*3  Gomperts BD, et al. 上代淑人, 佐藤孝哉監訳 GTP結合タンパク質とシグナル伝達 シグナル伝達第2版−生命システムの情報ネットワーク 2011; pp84-95 MEDSi 東京
*4  Queneau PE., et al. Early detection of pancreatic cancer in patients with chronic pancreatitis: diagnostic utility of a K-ras point mutation in the pancreatic juice. Am J Gastroenterol. 2001 Mar;96(3):700-4.
*5  L&umlo;hr M, et al. p53 and K-ras mutations in pancreatic juice samples from patients with chronic pancreatitis. Gastrointest Endosc. 2001 Jun;53(7):734-43.
*6  Schubbert S. et al., Hyperactive RAS in developmental disorders and cancer. Nat Rev Cancer 2007; 7: 295 -308

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Last-modified: 2017-03-14 (火) 14:13:01 (638d)