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WHO第4版, 新腎細胞性腫瘍分類 2016

WHO新分類の教科書的内容に, 2019 IAPセミナ- 高知赤十字病院黒田先生のご講演から実践的病理診断のヒント, Tipsを加味してページを作成中. (2019/11)

 

WHO新腎細胞性腫瘍分類 2016

blueの太字は, 新分類で新しく追加された組織型または, 名称が変更された腫瘍*1

淡明細胞型腎細胞癌 clear cell renal cell carcinoma

低悪性度多房嚢胞性腎腫瘍 multilocular cystic renal neoplasm of low malignant potential (<--多房嚢胞性腎細胞癌 WHO2011)

乳頭状腎細胞癌 papillary renal cell carcinoma

嫌色素性腎細胞癌 chromophobe RCC

集合管癌 collecting duct carcinoma(Bellini管癌)

腎髄質癌 renal medullary carcinoma

MiTファミリ−転座型腎細胞癌 MiT family translocation RCC (Xp11転座型腎細胞癌, t(6;11)転座型腎細胞癌) (<---Xp11.2転座型腎細胞癌 WHO2011)

粘液管状紡錘細胞癌 mucinous tubular and spindle cell carcinoma

腎細胞癌, 分類不能 RCC unclassified

遺伝性平滑筋腫症腎細胞癌関連腎細胞癌 hereditary leiomyomatosis and RCC-associated RCC (新規に追加)

コハク酸脱水素酵素欠損性腎細胞癌 succinate dehydorogenase-deficient RCC (新規に追加)

管状嚢胞腎細胞癌 tubulocystic RCC (新規に追加)

乳頭状腺腫 papillary adenoma

オンコサイトーマ oncocytoma

後天性嚢胞腎随伴腎細胞癌 Acquired cystic disease-associated RCC (<---透析関連腎腫瘍 WHO2011)

淡明細胞乳頭状腎細胞癌 clear cell papillary RCC (新規に追加)

  • 名称の変更がない組織型でもWHO2016では, 定義が大きく変更されているものがあるので要注意.
     
     

Current major subtypes of renal cell tumors, WHO2016

文献*2

mark-g.gif Clear cell renal cell carcinoma(ccRCC) 淡明細胞型腎細胞癌

腎細胞癌の約70%を占める(65-70% in adult RCC)淡明または好酸性の細胞質を有する細胞と壁の薄い,繊細で鹿角状(staghorn-shaped)の豊富な血管網から構成される悪性腫瘍. 形態は多彩.

carbonic anhydrase IX(CA9)および CD10が陽性. CK7, AMACR(P504)は陰性.

 

典型例では,VHL遺伝子(3p25-26)の不活化, del(3p),, 低酸素誘導因子hypoxia induced factor(HIF)の発現上昇を伴う特徴的な分子背景を有する.;形態は多彩であるが, 特徴的な分子基盤をもつ腫瘍である.

VHLのone copyは散発性ccRCCの90%で変異あるいは沈黙(silenced)している.もう一方のcopyは典型的には 3p欠失により消失している.*3

VHL遺伝子異常をもつ腎細胞癌ではHIFが分解されず, HIFにより誘導される, VEGFやPDGF, carbonic anhydrase 9(CA9)が過剰発現する.

  • PI3K/AKTpathwayの遺伝子変異, SETD2, BAP1, MTORの変異が認められる.
     
  • 全ゲノムシークエンスによる解析で, VHL複合体の構成タンパクであるTCEB1などの変異を含めると, 散発性ccRCCの90%にVHL複合体の異常が起きていることが解明された.*4
     
  • これらの遺伝子異常は, sorafenib, sunitinib, axitinib, pazopanibなどVHL-HIF-VEGF/PDGF経路を標的とする, 血管新生阻害薬がccRCCに有効であることの理論的根拠のひとつになっている.
     
  • ただし, HIFはVEGF/PDGFだけではなく, cyclinD1, carbonic anhydraseIX(CA9), など多種にわたる遺伝子を制御しており, 上記薬剤はHIFの下流の一部の遺伝子のみを抑制しているにすぎない. このため効果は限定されている.
     
  • 最近はHIF2αの拮抗薬が開発されその効果が期待されている.

AggressiveなClear cell renal cell carcinomaでは, metabolic shiftを示す*5<---これはなに? Natureを読みましょう. 腎癌は代謝異常に関係する遺伝子の異常が多いちゃあねえ。

  • 侵襲性のccRCCでは, TCAサイクルに関与する遺伝子の下方制御, AMPKとPTENタンパク発現レベルの低下, pentose phosphage pathwayとglutamine transporter遺伝子の上方制御, acetyl-CoA carboxylaseタンパクの増加, miR-21とGRB10のプロモーター領域メチル化の変化などmetabolic shiftがおこっている証拠がある.
     
  • 細胞の代謝リモデリングはclear cell RCCにおいて反復性に認められる異常パターンを構成しており, 腫瘍の病期および重症度と相関し, 疾患治療についての新たな見解と標的を提供する
     

淡明細胞型腎細胞癌 clear cell renal cell carcinoma(CCRCC)の病理診断

「腎腫瘍の8割近くは淡明細胞型腎細胞癌(CCRCC)であるが, CCRCCといいきる, 確定診断することが最も難しい.」(Dr.黒田)
CCRCCかな?ひょっとしたらCCRCCではないのでは? CCRCCとするとおかしい点があるなあと気づくことが必要である.

  • 肉眼所見が黄色いことを確認. 黄色ではない--褐色など;
     
  • 類上皮型血管筋脂肪腫, 転座型腎細胞癌, 血管芽腫がDDx.
     
  • 異型度により細胞質の色調が異なる. 異型度が増してくると細胞質が好酸性顆粒状になる.(昔の顆粒細胞癌に相当.)
  • rhabdoidの細胞形態を示す脱分化の所見は壊死のまわりに認められることが多い.異型度が変わると細胞質の性状もかわる.
  • 免疫染色; CAIX, びまん性に85%以上染まればまずCCRCC. その他, RCC Marker, CD10

CCRCCのピットフォール

1. 血管芽細胞腫を安易にCCRCCと診断してしまうことに注意. 淡明細胞が増殖し空胞状の細胞質を呈することがある.~画像診断でも, hypervascular tumorでCCRCCが疑われる.

  • 血管芽細胞腫は, 上皮マーカ(CAM5.2,etc)はそまらない. しかし,CAIXが染まる.その他, S-100が染まる. Inhibin-αが染まる.
     
    肉眼的にCCRCCではない. 腫瘍色が黄色とはいえない色から別物を疑うことがある.
     
    VHL病では腎には血管芽腫は発生しない. 脊髄, >小脳, >脳幹, >脳テント上病変.

2. 淡明細胞が明瞭な乳頭状増殖を示すことがある.

  • 間質に硝子結節やpsamomaが見られる場合は, 転座型を疑う.
     
  • ルーチンの形態学的診断では, 分類不能型としておく--> 確定診断には, 遺伝子検査まで必要となる.
     
  • CAIXがびまん性に染まってくる, 乳頭淡明細胞増殖の場合 -->VHLの遺伝子異常がみつかることがある.

mark-g.gif Papillary renal cell carcinoma (pRCC) 乳頭状腎細胞癌*1*6*7

腎細胞癌の18.5%をしめ, RCCの組織型としてccRCCについで多い. 小児から高齢者まで発生するが, 平均は59-63歳. 男女比1.2:1.

pRCCは腎皮質に発生, 単発,片側性のことが多い. サイズは2-20cm(1型は平均76.8mm, 2型は平均90.1mm, 1,2型は下記参照)

境界明瞭な腫瘤で, ときに偽被膜を形成する.色調は灰色, 黄色, 黄褐色と多彩で壊死, 出血, 嚢胞を伴うことがある.

microscopicには線維血管性間質をもち乳頭状または管状乳頭状に細胞が増殖する. 間質にはpsamomaや泡沫細胞の集簇, 硝子化がしばしば認められる.

細胞異型度により1型; 小型立方状, 細胞質は乏しく淡明または好塩基性, 核偽重層はない.核異型はめだたない.(3分類法/FuhrmanでGrade1-2),
2型; 細胞は円柱状で, 不規則な偽重層を呈する. 細胞質は豊で好酸性, 核異型がめだつ(Grade3相当)に分類されている.

1, 2型が混在するときは, 優勢なほうを記載する, 両成分をパーセンテージで表記する考え方があり決まっていない.

IHC; CK(AE1/3), CAM5.2, EMA, AMACR, CD10, PAX8は陽性. Vimentinは陽性のことが多い. 34βE12(高分子ケラチン)はまれに限局性に陽性.

CK7の陽性率は1型で 約90%, 一方, 2型では20%程度と頻度が低い.*8

pRCCに特徴的な染色体異常として, 7, 17トリソミーとY染色体欠失が報告されている.1型で頻度が高く予後良好因子と考えられている.

2型にも1, 3, 9番染色体欠失などが検出され, 予後に関連するという報告があり2型がさらに再分類される可能性がある(やれやれ)

pRCCの予後はccRCCよりも良好であり, さらに1型は2型に比較して予後良好とされている.

 

mark-g.gif Chromophobe renal cell carcinoma(ChRCC) 嫌色素性腎細胞癌

腎細胞癌全体の5-7%をしめる. 50歳代にピークを示すが, 小児から高齢者まで年齢幅がある.やや男性優位.

FLCN変異をもつBirt-Hogg-Dube症候群 では高頻度にChRCCをきたす.

macroでは, ベージュ色から褐色調の割面を呈する膨張性発育する均質な結節. 典型例には偽被膜はない. 壊死はみられないか乏しい.

microscopicには, 多くは不完全な血管隔壁で分葉化された, シート状充実性腫瘍. 小型胞巣状, 管状, 微小嚢胞状, 索状構築をとることもある.

腫瘍構成細胞には, 古典的typical/classic亜型と好酸性eosinophilic亜型の主に2種類があり, さまざまな割合で混合している.

古典的亜型は, 網状細胞質と明瞭な細胞境界をもつ大型の嫌色素性細胞 pale cellで, 植物細胞細胞膜に似た強調された膜をもつ腫瘍細胞が敷石状配列をしている.

好酸性亜型は, 顆粒状好酸性細胞質をもつ小型な細胞. 核縁は不整で核周囲にはperinuclear haloが認められる.

これ以外にOncocytic亜型がある.

核異型によるグレード化は嫌色素性腎細胞癌には適応しない. WHO分類, 2013ISUPバンクーバー分類では核異型によるGrade化は嫌色素性腎細胞癌にはあてはまらないと明記されている.

WHO分類, 取り扱い規約ともに亜型までの記載は求めていない. 8割以上の優位で145例の腫瘍を線引きした論文では, 古典的12%, 好酸性41%, 混合型46%. 好酸性亜型が予後良好とする報告もあるが, 肉腫様変化の存在を除くと多変量解析では予後に有意さをもたらさない.

嫌色素性腎細胞癌には肉腫様変化が2-8%に認められることを留意するべきである. 肉腫様変化と顕微鏡的壊死, 脈管侵襲,の所見は予後不良因子とされており, これらの有無を慎重に確認することが病理診断上重要である.

DDxは, ccRCCの鑑別頻度が高い. ccRCC以外の腎細胞癌に嫌色素性腎細胞癌類似組織がみられることもまれではない.

  • 切り出し時の割面の確認は重要だが背景腎の色調により色合いの区別が難しい場合がある.
     
  • 組織学的淡明細胞が, グリコーゲンや脂質によるものか, perinuclear haloによるものか区別するのが難しいことがある.
     
  • ccRCCに好酸性細胞が混在していることがある.
     
  • ccRCCでは繊細で豊富な類洞状血管間質成分が特徴である. 嫌色素性腎細胞癌での血管隔壁は不完全である.
     
  • 嫌色素性腎細胞癌ではミトコンドリア生合成が亢進しており, とくに好酸性亜型で高い. ccRCCではミトコンドリア生合成は抑制されている.

IHC; C-KIT(CD117), Ksp-cadherin, E-cadherin, CD82(KAI1), CK7が陽性のことが多い. Vimentinは陰性

好酸性亜型ではCK7陽性像は局所的なことがある.

ccRCCとの鑑別には上記遠位尿細管マーカと近位尿細管マーカである, CA9, RCC, CD10などを組み合わせて鑑別のツールにする.

分子生物学的には, 66例の検討で, 86%に1, 2, 6, 10, 13, 17番染色体の欠失が検出され, 12-58%には, 3, 5, 8, 9, 11, 18, 21番染色体の欠失が報告されている. *9

古典的亜型と好酸性亜型には後者にcopy数変動がないなど, ゲノムレベルでの不均一性が指摘されている.*9

古典的亜型も好酸性亜型もmRNA発現やメチル化パターンは遠位ネフロン由来であり, 近位ネフロン由来のccRCCとは異なる.

 
 

腎細胞癌のMOLECULAR MARKERS

tissue microarrayにより 腎細胞癌の予後推定分子マーカが報告されている. これらの因子のどれも現在患者ケアのための臨床応用に至っていないが, いくつかのマーカーはccRCC患者の予後マーカーとしての見込みがあると考えられている. *10*11*12

以下の因子はccRCCの予後不良を推定するために有用と推察される.

  • Human B7 homolog 1 (B7H1) および 4 (B7H4) が発現する. *13
    • B7-H1 はB7ファミリ-に所属する細胞表面糖タンパクで共役刺激分子の一つ.
       
  • Carbonic anhydrase IX (CAIX)発現レベルが低い.*14
     
  • Ki-67(MIB-1)index 高値.*14
     
  • hypoxia-inducible factor (HIF)-1 alpha 発現が高い*15; これについてはHIF-2αのみが発現する腫瘍よりもHIF-1αも発現する腫瘍のほうが予後が良いとする報告が存在する.*16
     
  • U3 small nucleolar ribonucleoprotein (IMP3)が発現している*17*18*19;このマーカーはccRCCだけでなく, pRCCおよび chrRCCでも同じ結果とされている*19
     
  • 染色体9番短腕の欠失.*20*21*22*23
     
  • 染色体3番短腕(3p21)に存在するがん抑制遺伝子, breast cancer type 1 (BRCA1)-associated protein 1 (BAP1) および SET domain containing 2 (SETD2)の変異がある*24.
     
  • 1つの研究だけの結果であるが, 対照的に polybromo-1 (PBRM1) 変異は予後がよいとされる*25, 1つ研究だけであるがPBRM1とBAP1 変異の両方が存在すると最も予後は悪いとされる.mutation conferred the worst prognosis*25

New subtypes of renal cell tumors in the 2016 WHO classification

 

mark-B.jpg Multilocular cystic renal neoplasm of low malignant potential 低悪性度多房嚢胞性腎腫瘍 (<--多房嚢胞性腎細胞癌 WHO2011) WHO2016変更

  • 2004年WHO分類でMultilocular cystic RCCとされた腫瘍は過去に転移再発の報告がなく, 非常に良好な予後を示したため, 名称をcarcinomaからneoplasm of low malignant potentialへ変更されている.
    これにより余分な検査や過剰な治療を避ける意味がある.
     
  • ほぼ全体が嚢胞で構成され, 嚢胞はWHO/ISUP Grade1から2の類円形核, 淡明で豊富な細胞質をもつ単層の細胞で裏装されている.
    線維性隔壁内に孤在性あるいは集簇する淡明細胞が膨張性の発育を示さずに認められることが診断上重要な特徴である.
     
  • 腫瘍細胞が膨張性発育を示す場合は嚢胞性変化を示すccRCCと診断しこのカテゴリーには含めない.
     
  • 壊死, 肉腫様変化, 脈管侵襲は認められない.
     
  • 免疫染色では, 腫瘍細胞はCA9(細胞膜全周性)とCK7が陽性になり, clear cell RCC(ccRCC)と同じである.
     
  • 分子遺伝学的にはmultilocular cystic RCCは明らかにccRCCとリンクしており形態的だけではなく遺伝子上も同様の像を示す.
     
  • 3番染色体短腕欠失(del(3p))とVHL変異が各々, 74%と25%に検出されている.
 

mark-B.jpg MiT family translocation renal cell carcinoma MiTファミリー転座型腎細胞癌 (WHO2016で再編,分類変更)

  • 腎癌取り扱い規約でXp11.2に位置するTFE3(transcription factor enhancer3)遺伝子を巻き込む(involve)キメラ遺伝子形成を示す腎細胞癌をXp11.2転座型腎細胞癌と定義していた.
     
  • WHO2016分類では, TFE3遺伝子とおなじmicrophthalmia transcription(MiT)ファミリー転写因子に属するTFEB遺伝子転座を有する腎細胞癌である
    t(6;11)転座型腎細胞癌もあわせてMiT family translocation RCCと分類した.
     
  • 小児腎細胞癌の約40%はXp11転座型腎細胞癌であり, 成人の1.6〜4.0%に比較して高頻度である.
     
  • Xp11転座型腎細胞癌の組織所見は多彩. 典型例では淡明あるいは好酸性の細胞質をもつ腫瘍細胞が乳頭状, 胞巣状に増殖しpsamoma bodyを有する. 腫瘍細胞は大型で明瞭な核小体をもつ*26*27.
    ccRCCに類似する組織像や, pRCCと鑑別困難な症例がある.
     
  • 組織は典型例では大型上皮様細胞の胞巣と小型細胞の2種類の構成細胞からなり, 間質には基底膜様物質が沈着, 小型細胞が基底膜様物質を取り囲み偽ロゼット様構造をとるのが特徴.
     
  • 診断には転座により過剰に発現するTFE3, TFEBを免疫染色で核内に確認することが必要. 賦活による偽陽性や固定不良などによる偽陰性があり,
    これらの影響を受けにくい break apart FISHを確定診断として行う.*28*29*30*31*32
     
  • FFPEを使ったRT-PCRも感度, 特異度の高い診断法として報告されている.*33
     
  • 予後はリンパ節転移をともなうが比較的緩徐に発育して良好とされていたが, 現在はpRCCよりも予後不良でccRCCと同程度の悪性度を有するとされている.
     
  • TFEB転座の有無にかかわらず, TFEB-amplified RCCは臨床的にaggresiveな経過をとることが報告された.
    このRCCでは多彩な組織像に加えて, melanocytic markerの異常発現(8例中全例にmelanA+, 3/8例にHMB45陽性) や高頻度な核内TFEB発現が免疫染色で確認されている.*34
     
newWHOcriteria.jpg

mark-B.jpg 淡明細胞乳頭状腎細胞癌 clear cell papillary RCC (CCPRCC)

  • 腎細胞癌の3-4%のまれな腫瘍. von Hippel-Lindau症候群, end-stage renal disease(ESRD)患者さんに発症する場合と, 健常腎に発症する場合がある.
  • 緩慢な経過をとる, 非常に予後良好な腫瘍. 再発, 転移の報告はない.
  • micro; 淡明な細胞質, WHO/ISUP Grade1,2の類円形核をもつ立方状, 低円柱状 腫瘍細胞が 乳頭状, 腺房状, 充実性に増殖
    核が基底膜から離れて線状に配列する特徴がある.
  • IHC; CK7陽性, CD10とAMACRは陰性である.
  • CA9の染色は, カップ状(basolateralに線状に限局陽性)の陽性所見を示し, 全周性に陽性となるccRCCとの鑑別点になる.
     

mark-B.jpg 管状嚢胞腎細胞癌 Tubulocystic RCC

  • 腎細胞癌の1%未満のまれな腫瘍
  • micro; WHO/ISUP Grade3相当の明瞭な核小体をもつ腫瘍細胞が平坦, 立方状, 円柱状, hob nail状に配列する大小の腺管, 嚢胞を形成して増殖する.
  • 予後良好な症例が多いが, 再発/ 転移例も報告されている.
  • 特に低分化癌成分を有する腫瘍では遺伝性平滑筋腫症腎細胞癌との異同が問題になっている.
     

mark-B.jpg 後天性嚢胞腎随伴腎細胞癌 ACD-associated RCC

  • ESRD/ACDKに発生する腎腫瘍では, 最も頻度の高い組織型.
  • 長期血液透析をうけている患者さんに多く, ACDKに限って発生する. しばしば多発, 両側性
  • macro; 境界明瞭. 割面は褐色調, 黄色で出血壊死を伴うことがある.
  • micro; 好酸性の細胞質をもつ腫瘍細胞が管状, 篩状, 腺房状, 乳頭状, 充実性に増殖し, 微小嚢胞形成が多くみられる.
  • 腫瘍間質内にシュウ酸カルシウム結晶沈着が偏光顕微鏡で観察される. (多彩な偏光像) 有力な診断所見.
  • IHC; AMACR陽性, CK7陰性のことが多い.
  • 多くの症例は予後良好であるが, 肉腫様変化や, 横紋筋肉腫様変化を伴う症例では, 転移をきたすことがある.
     

mark-B.jpg コハク酸脱水素酵素欠損性腎細胞癌 Succinate dehydrogenase-deficient RCC (SDH-deficient RCC)

  • SDH-dificient RCCは全腎細胞癌の0.05-0.2%をしめる非常にまれな腫瘍. 患者発生中央値は35歳(17-76歳), 若年成人に発症する傾向があり26%が両側性である.*35
  • 多くは予後良好で, 転移はまれ.*35*36肉腫様変化や壊死を合併した症例では転移をすることが多い.
  • macro; 通常, 境界明瞭な褐色から赤褐色の割面を呈する.*35
  • micro; loupeでは境界明瞭あるいは粗く分葉し, 微小または大型嚢胞変性を伴っている. 嚢胞は淡い好酸性の液を含む.*35好酸性の細胞質はオンコサイトーマとの鑑別を要するが, オンコサイトーマほど顆粒状ではない.
  • 最も特異的な所見は, 細胞質の空胞とinclusion-like space, 綿毛のような(flocculent)封入体がみられること.*35
  • IHC; KIT, CK7は陰性; KIT, CK7はSDH-deficient RCCと鑑別が必要なChRCCでは陽性となる. SDHBタンパク質は陰性
  • SDH-deficient RCCを定義する遺伝子異常は胚細胞レベルでSDH遺伝子のうちの1つがdouble-hit不活化されていること.SDHB遺伝子が最も多い.*1*35
  • SDH遺伝子には,SDHA, SDHB, SDHC, SDHDがありSDHB遺伝子異常がもっとも多い.
  • 常染色体SDH遺伝子のコードするタンパク質はミトコンドリア内側膜でmitochondrial complex2複合体に集合している*37 .
  • NGSによる解析ではSDH-deficinetRCCに, RCCの原因として通常認められる, VHL, PIK3CA, AKT, mTOR, MET, TP53の異常は認められなかった.*38
  • 最近の研究では致死性の転移性SDH-difecient RCCは 高異型度/悪性度の形態像であり, 究極のWarburg効果を示すことが報告されている.*39
     

mark-B.jpg 遺伝性平滑筋腫症腎細胞癌関連腎細胞癌 hereditary leiomyomatosis RCC-associated RCC

  • フマル酸ヒドラターゼ fumarate hydratase(FH)の胚細胞変異により発症する腫瘍
  • 確定診断には遺伝子診断が必要. fumarate hydratase(FH) gene, 1q42.3-q43に局在
  • 皮膚平滑筋腫 cutaneous leiomyomatosis, 女性では子宮平滑筋腫が多発する.
  • micro; 好酸性の細胞質をもつ腫瘍細胞が乳頭状, 管状, 管状嚢胞状に増殖, またはこれらのパターンが混在する組織像を呈する
  • 腫瘍細胞の核は大型で, 大型好酸性でhalloを伴う特徴的な目立つ核小体をもつ.
  • IHCでは, 高分子CK(CK19, 34βE12)は典型例では陰性. CK7は陰性.(高分子CKsはHLRCCと鑑別が必要になるcollecting duct carcinomaでは陽性になる).
  • pRCCと異なりCK7は陰性. CD10は淡明細胞像を示す部分を除くと一般に陰性である.*40*41
  • IHCでフマル酸ヒドラターゼ fumarate hydratase(FH)が陰性.
  • 近年, FHと, FHが酵素活性を消失することで蓄積する, S-(2-succino)-cystein (2SC)の免疫染色が可能になっている. HLRCCでは FH陰性, 2SCが陽性を示す.
  • HLRCCでは, 酸化的リン酸化(oxidative phosphorylation)が異常をきたしており, 腫瘍細胞は, 好気性解糖(aerobic glycolysis)にシフトしている.
  • FHの欠損状態では, フマル酸が蓄積, 増加して, HIF prolyl hydroxylaseを阻害し, HIF1Aレベルの増加をきたしており, 腫瘍代謝物(oncometabolite)となっている.--->HIF prolyl hydroxylase
  • 予後は不良のことが多い.
     
     

家族性腫瘍症候群における腎細胞癌

familial RCC-genes.jpg

右図;腎癌の遺伝的背景. 赤字の遺伝子は遺伝性腎がん症候群に同定された遺伝子. これらの遺伝子はすべて共通した酵素, 鉄, 栄養素やエネルギー感知経路を通じて相互に作用しており, 腎がんが基本的には代謝性疾患であることを示している.*42

  • von Hippel-Lindau(VHL)病
     
  • Birt-Hogg-Dube(BHD)症候群
     
  • hereditary leiomyomatosis RCC(HLRCC) 遺伝性平滑筋腫腎細胞癌症候群
     
  • 遺伝性パラガングリオーマ, 褐色細胞腫症候群
     
  • 遺伝性乳頭状腎癌症候群 HPRCC
     
  • 結節性硬化症 tuberous sclerosis (TSC); メインは腎血管筋脂肪腫(AML). 3%以下に腎細胞癌が合併する.
     
  • Cowden症候群; 4-16%にpRCC, chRCCおよびccRCCを含む様々な腎細胞癌を合併する.
     
  • BRCA-associated protein1(BAP1)関連腎癌症候群
     
  • 遺伝性3番染色体転座型腎癌
     
  • 同一家系に複数の家族性腫瘍症候群が合併する
     
    • 神経線維腫症1型+BHD症候群
       
    • Li-Fraumeni症候群+BHD症候群
       
    • Lynch症候群+BHD症候群
       
  • その他の遺伝性腎癌症候群
     
    • 胚細胞性PBRM1変異腎癌を発症する家系
       
    • 胚細胞性CDKN2B変異腎癌を発症する家系

*1  Moch H, Humphrey PA, Ulbright TM, Reuter VE. WHO Classification of Tumors of the Urinary System and Male Genital Organs, 4th ed.; IARC Press: Lyon, France, 2016
*2  特集 腎臓の腫瘍 病理と臨床 2017;35(10)
*3  Cancer Genome Atlas Research Network.Comprehensive molecular characterization of clear cell renal cell carcinoma.Nature. 2013 Jul 4;499(7456):43-9.PMID:23792563
*4  Cancer Genome Atlas Research Network. Comprehensive molecular characterization of clear cell renal cell carcinoma. Nature. 2013 Jul 4;499(7456):43-9.PMID:23792563
*5  Cancer Genome Atlas Research Network. Comprehensive molecular characterization of clear cell renal cell carcinoma. Nature. 2013 Jul 4;499(7456):43-9.
*6  Delahunt B, et al: Tumors of the kidney; Papillary Renal Cell Carcinoma. Urological Pathology Amin MB, et al. eds., Lippincot Williams & Wilkins, Wolters Kluwer, Philadelphia 2014: pp91-96
*7  Delahunt B, et al. Morphologic typing of papillary renal cell carcinoma: comparison of growth kinetics and patient survival in 66 cases. Hum Pathol. 2001 Jun;32(6):590-5.PMID:11431713
*8  Delahunt B, Eble JN. Papillary renal cell carcinoma: a clinicopathologic and immunohistochemical study of 105 tumors. Mod Pathol. 1997 Jun;10(6):537-44.PMID:9195569
*9  Davis CF,et al. The somatic genomic landscape of chromophobe renal cell carcinoma. Cancer Cell. 2014 Sep 8;26(3):319-330.PMID:25155756
*10  Kosari F, et al. Clear cell renal cell carcinoma: gene expression analyses identify a potential signature for tumor aggressiveness. Clin Cancer Res. 2005;11(14):5128-39.PMID16033827
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Last-modified: 2019-11-12 (火) 15:17:02 (1d)