WikiPathologica
MDSの遺伝子異常-pre-mRNAスプライシング機構に関わる遺伝子群の異常
RNAスプライシング †
文献*1
- 未熟なRNAからIntronを切り出し, Exonどうしをつなげて最終産物をつくる過程をRNAスプライシング(RNA splicing)とよぶ.
- 正常に機能するタンパク質を産生するための成熟mRNA合成には遺伝子内に散在するExonが正しく選択され, Exon間に介在する長いIntronを取り除くスプライシング機構が精密に機能しなければならない.
- さらに, mRNAの安定化, mRNAの核細胞質間輸送, タンパク質への翻訳が相互にネットワークを形成, 連動して機能的なRNAとタンパク合成を行っていることが明らかにされてきている.
- スプライシングを含む転写後調節に破綻をきたした場合は, 機能しないタンパク質や細胞障害を来すたんぱく質などが産生され, いろいろな疾患を発症することが理解されてきた。
スプライシングの巧妙さと破綻による異常 †
文献*2 *3
遺伝子から前駆体mRNA pre-mRNA, が転写された後, intronを削除し, 前後のエクソンどうしを結合する反応をmRNAスプライシングと呼ぶ。
- 恒常的スプライシング
- 1つの遺伝子から, 一定のスプライシングにより1種類のmRNAが産生される場合を恒常的スプライシングという.
- 選択的スプライシング
- 取り上げるエクソンを選択して複数のタイプのmRNAが産生される場合を選択的スプライシングとよぶ。
ヒト遺伝子においてはエクソン平均長(163塩基)はイントロン平均長(5849塩基)にくらべはるかに短い.*4長いイントロン領域を認識して正確に切り取りエクソンだけを結びつける機構が細胞に存在している。
スプライシングシグナル †
スプライシングは前駆体RNA上に書き込まれている制御配列(cisエレメント)と, この配列を特異的に認識してそこに結合するRNA結合タンパク質の組み合わせにより行われる.
mRNA前駆体には正確なスプライシングを行うため, スプライシング装置が正しい場所で”cut and paste”されるように, その位置を示すシグナルが存在している.
多数の異なる遺伝子塩基配列を比較検討し, intron境界を検出してその共通配列を分析した.この共通配列がシグナルの一部である可能性が高いと考えられる.
1. GT-AG則
核内mRNA前駆体のイントロンの始まりと終わりはほとんど常に同じ配列であることがChambon*5*6により示された.
Exon/ GU - Intron - AG/ Exon
転写産物のイントロンの最初の2つの塩基はGUで最後の2つの塩基はAGと常に決まっている。
このシグナルは酵母, 植物から脊椎動物にいたるまで真核生物の細胞種をこえて保存されている.
2. 5', 3'スプライシング部位およびブランチ部位のシグナル
GU-AGモチーフはいたるところに存在し, イントロンには複数のGU, AGが含まれている.
これらの場所でスプライシングが起こらないようイントロン-エクソン境界に共通する塩基配列があり, 複雑なシグナルを構成している。さらにブランチ部位にもシグナルが存在する.
5'-AG/GUAAGU - Intron - YNCURAC-Yn-NAG/G-3' /はExon, Intronの境界部を表す.
Yはピリミジン(UまたはC) Ynはピリミジンが約9個ならんでいることを示している. Rはプリン(AまたはG)
Aは, 分岐型スプライシング中間体(なげなわ型の中間体)形成に重要な役割をはたす特別なアデニン.
Nは任意の塩基
エクソン境界のスプライシングシグナルは必要だが, エクソンを定義するには不十分. イントロン末端付近の配列(分岐点配列とよぶ)も隣のエクソンを認識するために必要である.
これらの場所に変異がおこると正常なスプライシングが行われなくなる.
3. Exon splicing enhancerとExon splicing silencer
高等真核生物のイントロンの多くは巨大で, この中に分岐点配列を含む, 正常にみえるスプライシングシグナルによって区切られる多くのエクソンのような配列を含むことがあり,
エクソン境界のスプライシングシグナルと分岐点配列の両方があっても必ずしも十分ではない
実際にはこれらの「偽エクソン」はスプライシングされずに成熟mRNAになることはほとんどない.
エクソンと偽エクソンをわける仕組みは本物のエクソンには, スプライシングを促進するエクソンスプライシングエンハンサー(ESE)配列が, 偽エクソンにはスプライシングを阻害するエクソンスプライシングサイレンサー(ESS)配列が高率にふくまれることで説明される.
ESEはエクソン内の3'スプライス部位近傍にみられることが多く, その上流側イントロンのスプライシングを促進する.
ESE近傍の3'スプライス部位は, 弱いスプライス部位になっていることが多く, ESEは弱いスプライス部位がスプライス因子に認識されるのを補助していると考えられている.
またESEのような配列がイントロン内にある場合イントロン内スプライシング促進配列(intronic splicing enhancer: ISE)と呼ばれる.
一方エクソン認識を弱める働きをする配列も存在し, エクソン内スプライシング抑制配列(exonic splicing silencer; ESS)とよばれる. ESS配列が存在するエクソンはその両側のスプライス部位認識が低下し, エクソンとして認識されにくくなる.
ESS様の配列がイントロンにある場合はイントロン内スプライシング抑制配列(intronic splicing silencer; ISS)となる.
ESE, ESS, ISE, ISSの存在およびその数は恒常的スプライシング, 選択的スプライシングとの両方に影響を与えると考えられている。
スプライス部位配列やESE, ESS, ISE, ISSなどのスプライシング調節配列をまとめて検索できるプログラムがWEBで利用できる.*7
スプライシング反応
1). イントロン内のアデノシン残基の2'ヒドロキシ基(OH)が5'側エクソンとイントロン結合部にあるリン酸ジエステル結合を攻撃し, 5'側エクソンとイントロンとの結合が切断される.
2). 5'スプライス部位で切断がおこると同時に, 切断されたイントロンの5'末端G残基がブランチ部位のアデノシン残基(A)の2'OH(ジヒドロ基)との間で2'-5'リン酸ジエステル結合を形成する。
3). この時, 遊離した5'側エクソンと イントロン-3'側エクソンで構成された投げ縄構造(rariat)をもった反応中間体ができる。
4). 第二段階では, 5'側エクソンの遊離3'ヒドロキシ基がイントロンと3'側エクソンの間のリン酸ジエステル結合を攻撃する.これにより投げ縄構造をとったイントロンが切り出され, 同時に5'側, 3'側のエクソンが再結合される.
3'側エクソンの5'末端リン酸(p)はスプライシングされた2つのエクソン間をつなぐリン酸となる.
スプライシングは核内において, スプライソソームとよばれる複合体の中で進行する.--->スプライソソームのページをみる。
スプライソソーム
mRNA前駆体が含まれる他, それ以外にも多くのRNAやタンパク質が含まれている. これらのRNAとタンパク質のいくつかは核内低分子リボ核酸タンパク質(small nuclear ribonucleoprotein: snRNP [スナープとよぶ].)を形成している.
snRNPは核内低分子RNA(small nuclear RNA: snRNA)がタンパク質と共有結合したものである. snRNAは電気泳動によりU1, U2, U4, U5, U6に分けられる. これらの5種類のRNAはすべてスプライソソームに含まれ, スプライシングに重要な役割をはたしている.
スプライソソームは, snRNPの他, RNAを含まない50種類以上のタンパク質因子群もその構成に関与している.
snRNAのU4-snRNAとU6-snRNAは塩基対合を形成しており, 単一のsnRNPに含まれている.
snRNPとタンパク質群はsnRNPどうしや, mRNA前駆体とのRNA-RNA結合(snRNAとmRNA前駆体のスプライス部位あるいはブランチ部位との結合), RNA-タンパク質結合, タンパク質間結合など複雑な相互作用により, mRNA前駆体の構造を変化させ, スプライス部位を適切に切断しエクソンの再結合を行っていく.
- U1 snRNP
- mRNA前駆体5'スプライス部位と塩基対を形成する。この塩基対はスプライシングの必須条件であるが十分条件ではない.
- U6 snRNP
- U6snRNAを介して塩基対を形成することでイントロンの5'末端と結合する. この結合は投げ縄型中間体が形成される前におきるがスプライシング第一段階(投げ縄型中間体形成)の後にその性質が変化するのかもしれない.
U6とスプライシング基質との結合はスプライシング過程に必須である. U6は, スプライシング進行中に U2とも結合する.
- U2 snRNP
- U2 snRNPはスプライシング分岐点の保存配列と塩基対を形成する. この塩基対形成はスプライシングに必須である.U2はまた, U6と重要な塩基対を形成し, helix Iという領域をつくり, これらのsnRNPがスプライシングに参加できるようにする
U2の5'末端はU6の3'末端と相互作用し, helix IIという領域を形成する. この過程は哺乳類のスプライシングに重要である.
- U5 snRNP
- あるエクソンの最後のヌクレオチド, その次のエクソンの最初のヌクレオチドと結合する. これにより2つのエクソンをスプライシング進行に適切な位置に配置すると考えられる.
- U4 snRNP
- U4はU6と塩基対を形成する. U4の役割は, スプライシング反応にU6が必要になるまで, U6を結合させておくことのようである.
ひとまずまとめ
高等真核生物では, pre-mRNAスプライシングは, あまり厳密には保存されていない配列モチーフをもつsplicing-cis 因子とそれを認識するsplicing-trans 因子により行われる。
分子生物学でのシス, トランスの意味;シス・・・同じ分子内で機能する.トランス・・・異なる分子の間で機能する.
同じDNAかRNA分子上にあって、遺伝子発現に影響を与える
影響は別の分子(他の染色体やプラスミドなど)に波及しない → シス
標的遺伝子の発現に影響を与える、別の遺伝子、RNA、タンパク
影響は別の分子(他の染色体やプラスミドなど)にも波及する → トランス
古典的スプライシングシス因子(classical splicing cis-element)
1. ブランチポイント配列 (branch point sequence; BPS)
2. ポリピリミジントラクト (polypyrimidine tract; PPT)
3. 5'および3'スプライシングサイト(splicing site; ss)
4. エクソン上あるいはイントロン上のスプライシングエンハンサー/サイレンサー(exonic/intronic splicing enhancer/ silencer; ESE, ESS, ISE, ISS)
- ESEやESSはエクソン上に存在し, アミノ酸をコードすると同時にスプライシングシス因子としても働く.
- ISE,ISSはイントロン上に存在する因子であるが, 配列モチーフからその存在を推察することは一般に困難.
- これらのシス因子を認識するスプライシングトランス因子の組織・発達段階特異的発現が時間・空間的に精巧に制御された遺伝子発現を可能にしている。
- ヒトBPS, コンセンサス配列は yUn Ay である*8. Aの位置がbranch point(position +0)で93.7%がA(アデニン)であった。position -2のUは74.6%にみられた。
- 現在まで15種類のBPS破断変異が報告されている*8. position +0のAの変異が9種類, position -2のTの変異が6種類といずれも高度に保存されたAとTを変異させるもののみ。
- ヒトハウスキーピング遺伝子のbranch pointの83%はイントロン3'末端から21−34塩基上流にある。またPPTはBPの下流4番目から24番目の塩基, Yn(n=平均21)から構成されている。Y= T, C
スプライシング機構破綻-3種類の病態 †
文献*9*10
1. mRNA前駆体上のスプライシング調節配列(スプライシングシス因子)の遺伝子変異による破綻
- RNA結合タンパク質(RNA binding protein: RBP)がシス因子に結合できなくなる.
- あらたなシス因子が作られRBP結合能を獲得する.
2. スプライシングトランス因子の発現異常・機能異常
3. RNA gain-of-function disorders/ RNA dominant disorders
筋強直性ジストロフィーに代表されるように, スプライシングトランス因子が変異RNAと凝集体をつくり, そのトランス因子が本来機能する標的遺伝子のスプライシングがうまくいかなくなる病態.
変異による異所性AG塩基はAGスキャン機構を破綻させる
- イントロン3'末端とエクソン5'末端には YAG|G のコンセンサス配列をもつ.
- AGスキャン機構*11:スプライシング反応初期において, YAG|GはU2AF35と結合するが, 後期においては, AG塩基配列がBPSから下流にスキャニングされ最初に出会うAGがイントロン3'末端と認識される.
- 先天性筋無力症候群の例; アセチルコリン受容体εサブユニット遺伝子(CHRNE)のintron10-exon11接合部において16塩基が重複する変異--イントロン10の3'末端のAGが重複し, AG scanning modelにより常に上流のAGが認識されていた。*12
- NKX2.1/TTF-1 遺伝子のsplicing site mutation c.464 -9C>Aにより異所性AGが発生, AGscaning modelにより7塩基の挿入がおこる-->NKX2.1/TTF-1exon3異常によりbening hereditary choreaを発症している.
エクソン 5'末端塩基の遺伝子変異
- イントロン3'末端とエクソン5'末端にはYAG|Gコンセンサス配列があり, AGを破断する変異は多く報告されている。
- エクソン第一塩基Gの変異によるスプライシング異常は3例ほどしか報告がなく, Gの変異によってもスプライシング異常がおこらない例が2例報告されている。
- ポリピリミジントラクト(PPT)のピリミジンストレッチが10-15塩基以上ある場合, U2AF65が強く結合し, U2AF35のYAG|Gへの結合は不要になる(AG-independent splice site).
- ピリミジンストレッチが短い場合はU2AF65に加えてU2AF35のYAG|G配列への結合が必要である(AG-dependent splice site).
エクソン第一塩基の変異はU2AF35の結合まで必要な場合(=ピリミジンストレッチが短い場合)にスプライシング異常を惹起する。
- U2AF35結合が不要であれば,Gの変異があっても正常なスプライシングがおこなわれる。*13
- AG-dependent splice siteにおいてはピリミジンストレッチが短く, かつエクソン第一塩基がGである確立が高い。(エクソン第一塩基がGの場合, A,C,Tに比べストレッチが短い) 5種類のエクソン第一塩基の変異がスプライシング変異であることを同定している。
ESE/ESSを破断する遺伝子変異
- ミスセンス変異の16-20%以上はESEを破断するスプライシング変異であるという予測もある*14
- ESE/ESS配列の保存度が低いため, 現在提供されている予測アルゴリズムは偽陽性が多く, 患者mRNAまたはミニジーンによる解析が必要になる。エクソン上のあらゆる変異に対してESE/ESSを破断している可能性を常に念頭におく必要があるがすべての変異に対しスプライシング解析を行うことは不可能である。*3
''ISE/ ISSを破断する遺伝子変異
- イントロンはエクソンよりも長いため、イントロン上のスプライシングシス因子を破断する変異同定はエクソン上のものよりも困難.
5'スプライスサイト(5'SS)の遺伝子変異
- スプライシングシス因子の遺伝子異常によるスプライシング異常は5'SSで多く報告されている.
- 5'SS変異予測アルゴリズム*3-->SD-core 97.1%の感度と94.7%の特異度で5'ssの変異によるスプライシング異常を検出する。
- SD-scoreによるシュミレーションでエクソン -3位から+6位までの一塩基置換の多くがスプライシング異常を起こす可能性が示唆された。*3
■離れたエクソンのスキッピング
- 単一の遺伝子変異が離れたエクソンのスキッピングを起すことがある(nonsense-associated skipping of a remote exon;NASRE)
- 先天性筋無力症候群のCHRNE遺伝子のexon7の7塩基欠失により上流101塩基のexon6がスキッピングする*15
■Duchenne型およびBecker型筋ジストロフィーとジストロフィン遺伝子-exon skippingによるジストロフィンタンパク発現療法
- Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)およびBecker型筋ジストロフィー(Becker muscular dystrophy:BMD)は,伴性劣性遺伝形式を示すもっとも高頻度の遺伝性進行性筋萎縮症.
- DMDは4〜5歳ごろから筋力低下に気づかれ,その後筋力低下が進行し12歳までに歩行不能となり,20歳代で心不全や呼吸不全により死に至る重篤な疾患である.一方,BMDはDMDに比べて筋力低下の程度は軽く進行も遅いため,壮年期になってはじめて症状を認める例もある.
- DMD/BMDの責任遺伝子であるジストロフィン遺伝子はX染色体短腕上に存在する3000kbに及ぶ巨大な遺伝子であり,79個のエクソンから構成される.
- DMD/BMDでみられるジストロフィン遺伝子の変異としては,エクソン単位の欠失や重複,ナンセンス変異,スプライシング変異などの微小変異があるが,エクソン単位の欠失がおよそ6割を占め,もっとも多い*16
- ジストロフィン遺伝子にコードされているジストロフィンは筋細胞膜を裏打ちする細長い棒状の蛋白である。骨格筋の免疫染色では,DMDではジストロフィンは筋細胞膜に染色されずジストロフィン欠損を示すが,症状の軽いBMDでは筋細胞膜にジストロフィンが斑点状に染色される.
同じジストロフィン遺伝子の異常であるにもかかわらず,DMDとBMDでは臨床像が大きく異なる.重症のDMDと軽症であるBMDの違いは,アミノ酸読み取り枠則で説明される.
- mRNAから蛋白が翻訳される際3塩基で1つのアミノ酸をコードしている.ジストロフィン遺伝子のエクソン単位の欠失によって失われる塩基数が3の倍数であれば,mRNAのアミノ酸読み取り枠は維持されるため(インフレーム),翻訳の際に遺伝子欠配部位に相当するアミノ酸は欠失するが,機能をもったジストロフィンが産生される.そのため症状の軽いBMDとなる.欠失の塩基数が3の倍数でない場合はmRNAの読み取り枠がずれるため(アウトオブフレーム),ストップコドンが出現し,機能的なジストロフィン蛋白は合成されず重症型のDMDとなる.
- Matsuo らは, ジストロフィンエクソン19内に部分欠失を有する症例(ジストロフィン神戸)*17の解析において,ゲノムDNAではエクソン19内に52塩基の欠失が認められるのに対し,mRNAではエクソン19全体が欠失している''エクソンスキッピング; exon skipping が生じていることを発見した.
- この例はスプライシングのコンセンサス配列は保たれており,エクソンスキッピングの生じた原因は,In vitroスプライシング系を用いた検討により,エクソン19内の欠失している配列内に含まれるスプライシングを促進する配列(splicing enhancersequence:SES )が欠失したためであることが明らかになった.*18
- 欠失したエクソンに含まれる塩基数が3の倍数でない場合はアウトオブフレームとなるためアミノ酸の読み取り枠にずれが生じ,ストップコドンが出現してジストロフィンは産生されない.
- DMDのアウトオブフレームをインフレームに変換させることができれば,機能を有するジストロフィン蛋白を産生し,重症のDMDを軽症型へ変換することが可能となる.DMDに対するエクソンスキッピング誘導治療はまさにこの着想に基づき,患者自身のもつ遺伝子を活用してジストロフィンを発現させるものである.
- アンチセンスオリゴヌクレオチド(AS−oligo)を用いて欠失したエクソンに隣接するエクソンのスキッピングを誘導し欠失する塩基数の合計を3の倍数とするとアミノ酸の読み取り枠をはずれないため(インフレーム),ジストロフィンが産生される.
すなわち, ジストロフィン遺伝子エクソン20欠失症例ではエクソン20の242塩基が欠失するためアウトオブフレームとなり,エクソン21内にストップコドンが出現しジストロフィンは産生されない.しかし隣接する88塩基からなるエクソン19のスキッピングを誘導すればエクソン19と20の合計330塩基が消失するためインフレームとなり,不完全ながらも機能を有するジストロフィンの産生が期待できる.エクソン20を欠失したDMD患者の培養筋細胞にAS−oligoを導入した結果,エクソン19のスキッピングが誘導されジストロフィンの発現がみられた.*19
- 神戸大学では, SESに対するAS−oligoによりエクソン19のスキッピングを人工的に誘導しうることを世界ではじめて示した*19