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血管新生のシグナル

 

angiogenesis 血管新生--既存の血管から新しく血管網が形成されること.

図; 血管新生のシグナル概略図.*1

angiogenesis-signal.jpg

胎生期における血管の発達は, 新血管が既存の血管から出芽する血管新生に加えて, 新しい内皮細胞の誕生と管への集合(脈管形成vasculogenesis)も伴っている.

この形態形成の後, 正常の血管はおおむね静止期にはいる.
成人では創傷治癒や女性の性周期などの生理的過程の一部として血管新生のスイッチがONになるが, これは一過性に過ぎない.

腫瘍の増殖中には, 血管新生スイッチ(angiogenic switch)は, ほとんど常に活性化されてONになった状態. 正常なら静止期にあるはずの血管から継続的に新生血管を出芽させ, 持続的な腫瘍増殖を助けている.*2

血管新生スイッチは血管新生を誘導する, あるいは阻害するような拮抗する因子群により支配されている.*3*4

血管新生調節因子の一部は血管内皮細胞に発現する促進性あるいは抑制性の細胞表面受容体に結合するシグナル伝達タンパク質である.

よく知られた血管新生誘導因子はVEGF-Aであり, 阻害因子のプロトタイプ(原型)はトロンボスポンジン1(thrombospondin-1 TSP1)である.

VEGF(vascular endothelial growth factor; VEGF-A)はin vitroでの血管内皮細胞の増殖因子および血管透過性亢進因子の2つの活性をもつ物質として1989年に同定された.
VEGF familyとして現在までに, VEGF-B, -C, -D, PIGF(placental growth factor)が単離されている.

VEGF-A遺伝子は胎生期と新生児期の新生血管の成長を組織化し既存血管の内皮細胞を生存させ, 成体における生理的あるいは病的な状態に関与するリガンドをコードしている.

3つの受容体型チロシンキナーゼ(VEGFR1-3)を介したVEGFシグナルはこの用途の複雑さを反映して重層的に調節されている.

VEGF遺伝子の発現は, 低酸素やがん遺伝子シグナルのどちらによっても亢進される.*5*6*7

内皮細胞 endothelium

動静脈には直径や機能によりさまざまな量の結合組織と多層の平滑筋細胞からなる暑い壁がある. しかし内皮細胞とそれを裏打ちする基底膜からなる内壁は常に存在している.

血管系の最も微細な枝である毛細血管や類洞血管の壁は内皮細胞と基底膜だけから形成され, 付随する周皮細胞(pericyte)が散在している. 周皮細胞は血管平滑筋細胞の近縁で, 細血管にからみつき補強をしている.

内皮細胞は心臓から毛細血管にいたる血管系とリンパ管系全体の内面を被覆しており, 物質や白血球の出入りを調節する.

動静脈, 毛細血管, リンパ系は主に内皮細胞と基底膜からなる細い血管から発生しており, 平滑筋細胞や結合織は内皮細胞由来のシグナルによりあとから必要な場所に付け加えられている.

内皮細胞は初期胚の特定部位から血球細胞にもなる前駆細胞から発生する. 早期胚性内皮細胞はここから, 移動, 増殖, 分化して脈管形成(vasculogenesis)という過程で最初の血管原基を形成する.

次に主に最初の血管内皮細胞の増殖と移動により, 血管新生(angiogenesis)と呼ばれる血管の成長と分枝が体全体でおこる.

血管新生は若い生物の成長期と, 成体で組織が修復, 再構築するときにも同じ方法で行われる.

新生血管の起源は, 既存の毛細血管あるいは細静脈の側面から芽をだした毛細血管である.

芽の先端で先導している特有の性質をもつ内皮細胞を先端細胞(チップ細胞, tip cell)と呼ぶ. tip cellの特徴はニューロンの成長円錐に似た多数の長い糸状仮足フィロポディアをだしていることである.

  • フィロポディア; 仮足(pseudopodまたはpseudopodium)は真核細胞にみられる細胞質の一時的な針状の突出をいう.
    これらは棒状のアクチン重合体であるF-アクチンが束となって細胞内部から細胞膜を押しのばすことで形成される.重合に必要なモノマーアクチンはプロフィリンにより細胞膜先端まで輸送されることで供給される.

tip cellは後続の内皮柄細胞(ストーク細胞)とは多少異なる遺伝子発現を示し, 柄細胞と違って分裂をしない.

柄細胞はチップ細胞の後ろ側でVEGFR-2のシグナルなどにより, 増殖し空洞化して毛細血管の内腔を形成する.

血流を必要とする組織はVEGFを分泌, 放出する

HIF-VEGF.jpg
 

脊椎動物のほぼすべての組織にある, ほぼすべての細胞は毛細血管から50-100μm以内の場所に存在する.

毛細血管形成のため侵入する内皮細胞は侵入先の組織が発するシグナルに応答している.複雑なシグナルが存在するが, 最も重要なのは血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor, VEGF)である.

VEGFは, そのmRNAの安定性と転写開始率の変化によって, 血管の伸長を組織の要求にあうよう調節している.

VEGFの転写速度による制御

細胞で酸素が不足すると, 転写因子である, 低酸素誘導因子1α( HIF1α; hypoxia-inducible factor 1α)の細胞内濃度が上昇する.

HIF1αがVEGF遺伝子や酸素供給不足時に必要になる他の産物の遺伝子の転写を促進するとVEGFタンパク質が分泌, 組織内に拡散し近傍の内皮細胞に作用する.

内皮細胞は増殖し, プロテアーゼにより既存の毛細血管や細静脈の基底膜を消化して道をつくり, 新しい芽を形成する.

芽の先端のtip cellはVEGFの濃度勾配を感知し分泌源へ移動する.

新生血管ができ組織に血流が供給されると酸素濃度が上昇しHIF1α活性が低下, VEGF産生が止まり血管新生は停止する.

HIF ( HIF1α; hypoxia-inducible factor 1α 低酸素誘導因子1α)

'90年代前半に低酸素がVEGFのmRNAを誘導し血管新生を促進すること, HIFが低酸素応答の中心的な役割をはたす転写因子であることが明らかになった.

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HIFは細胞内酵素によりHIFの安定性が直接制御されることで, 低酸素状態下に活性化される.(2001年)*8*9

HIF-1はHIF-1α, HIF-1β(ARNT)のヘテロ二量体で, いずれもbHLH(basic helix loop helix)領域と, PAS(Per-AchR/ARNT-Sim homology)領域, C末端側に転写活性化領域をもっている.

HIF-1βは常に核内に存在しているのに対し, HIF-1αは低酸素による制御を受けて核内に移行しHIF-1βと結合する.

HIF-1αとHIF-2α(HRF/MOP2/HLF/EPAS-1)はアイソフォームで, ほぼ同様の活性をもつと考えられる.
HIF-1αはすべての細胞で発現し, HIF-2α発現は内皮細胞に特異性が高いと報告されている.

 

HIF-1の低酸素応答による制御

HIF-1αは正常酸素分圧下では, タンパク質の不安定化がおこり, 活性が抑制されている.

  • 正常酸素分圧下では, PHD(prolyl hydroxylase domain)1-3というHIFプロリン水酸化酵素が酸素分子から水酸基を生成し, HIF-1αのPro402, Pro564残基に付加する.
  • プロリン残基が水酸化されたHIF-1αには, VHL(von Hippel-Lindeau)E3ユビキチンリガーゼが結合しやすくなり, その結果迅速に分解される. (図)*10
  • FIH(factor inhibiting HIF)というHIFアスパラギン水酸化酵素はHIF-1αの転写活性化領域上のAsn803を水酸化する.
  • Asn803が水酸化されたHIF-1αは転写コアクチベータのp300と結合できなくなり, 不活性化される.

多くのがん細胞で, HIF-1の発現誘導が認められる.

低酸素, 増殖因子やRasなどのがん遺伝子, PTEN, p53, などのがん抑制遺伝子欠損によりHIFの発現は抑制される.

腎癌で高頻度にみられるがん抑制遺伝子VHLの欠損は, 上記の機構によりHIF活性化の直接の原因となる.

内皮細胞シグナルにより周皮細胞と平滑筋細胞が動員され, 血管壁を形成する

血管網は成長と適応のため, ダイナミックに改造される. 血管拡大時には平滑筋細胞やその他の結合織細胞が内皮を取り囲み, 安定化を助けている.

血管壁形成過程は, 周皮細胞の動員から始まり, 少数の周皮細胞が内皮の芽の柄細胞とともに外側に移動する.

内皮細胞はPDGF-β(血小板由来増殖因子-B)を分泌しており, 周皮細胞, 平滑筋細胞のPDGFR(PDGF受容体)との結合により周皮細胞,平滑筋細胞の動員増殖がおこり血管壁形成がおこなわれる.

PDGF-β, PDGFRのシグナルタンパクが変異や欠損をきたすと血管壁が形成されず, 小動脈瘤やほかの異常をきたし, 胚の血管破裂の恐れがある.

血管壁形成には, この血管壁の外側細胞と内皮細胞間で双方向に交換されるシグナルが不可欠である.

 
 

VHL gene; VHL遺伝子と変異

VHL-mRNA-protein.jpg

3番染色体短腕 3p25.3に局在. NCBI Gene ID: 7428, 2019年3月19日updatedでは, 4 exonsとなった。(それまでは3 exons; 右図)--注; NCBIのページもEnsmbleのページも図をみるとexonは3つになっているんだが…. 2019/04/08

  • この遺伝子がコードするタンパク質は, elongin B, elongin C, cullin-2とともにユビキチンリガーゼE3活性をもつ, タンパク質複合体を構成する.
    このタンパク質は, HIFαをユビキチン化により, 分解する. HIFは酸素による遺伝子発現調節の中心的役割をはたす転写因子.(上記)
  • RNA polymerase II subunit POLR2G/RPB7もVHLのターゲットとされている.
  • スプライシングの違いから異なる転写バリアントによる独立したアイソフォームが確認されている.
     

VHL Clinical Diagnostic Criteria; 以下の病変 2つまたはそれ以上で変異診断が必要になる.

  • two or more hemanigioblastomas
  • A single hemangioblastoma with multiple kidney or pancreatic cysts
  • Renal cell carcinoma
  • Pheochromocytomas
  • Endolymphatic sac tumors, papillary cystoadenomas of the epididymis or broad ligament, or neuroendocrine tumors of the pancreas

*1  イラストで徹底理解するシグナル伝達キーワード事典
*2  Hanahan D, et al. Patterns and emerging mechanisms of the angiogenic switch during tumorigenesis. Cell. 1996 Aug 9;86(3):353-64.
*3  Baeriswyl V, et al.The angiogenic switch in carcinogenesis. Semin Cancer Biol. 2009 Oct;19(5):329-37.PMID:19482086
*4  Bergers G, et al. Tumorigenesis and the angiogenic switch. Nat Rev Cancer. 2003 Jun;3(6):401-10.PMID:12778130
*5  Ferrara N. Vascular endothelial growth factor. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2009 Jun;29(6):789-91. PMID:19164810
*6  Mac Gabhann F, Popel AS. Systems biology of vascular endothelial growth factors. Microcirculation. 2008 Nov;15(8):715-38.PMID:18608994
*7  Carmeliet P. VEGF as a key mediator of angiogenesis in cancer. Oncology. 2005;69 Suppl 3:4-10.PMID:16301830
*8  Bruick RK, et al. A conserved family of prolyl-4-hydroxylases that modify HIF. Science. 2001 Nov 9;294(5545):1337-40. PMID:11598268
*9  Pugh CW, Ratcliffe PJ. Regulation of angiogenesis by hypoxia: role of the HIF system.Nat Med. 2003 Jun;9(6):677-84.PMID:12778166
*10  血管新生のシグナル 山本 雅, 仙波 憲太郎, 山梨 裕司 (編集) イラストで徹底理解するシグナル伝達キーワード事典 羊土社 2012; p284-291

添付ファイル: fileVHL-mRNA-protein.jpg 27件 [詳細] fileHIF-activate.jpg 46件 [詳細] fileHIF-VEGF.jpg 51件 [詳細] fileangiogenesis-signal.jpg 42件 [詳細]

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Last-modified: 2019-04-08 (月) 09:46:28 (102d)