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[[carcinoma of the uterine corpus 子宮体癌]]

*Lynch 症候群 [#cb57391b]
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別名, ''遺伝性非ポリポーシス大腸癌(hereditary non-polyposis colorectal cancer; HNPCC)''. 
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#ref(DrHenryLynch01.jpg,around,100%);
''DNAミスマッチ修復(MMR)遺伝子群['''MLH1, MSH2, MSH6, PMS2''', etc]の生殖細胞系列変異を原因とする常染色体優性遺伝性疾患''. 

大腸癌の若年性発症, 同時性あるいは異時性の大腸癌発症および, 多臓器癌(子宮体癌, 胃癌, 腎盂尿管癌, 胆道癌, 脳腫瘍, 皮脂腺腫など)の発生を特徴とする遺伝性のがん易罹患性症候群である。

Lynch症候群は&color(crimson){''全大腸癌の約2〜5%''を占め, 最も頻度の高い遺伝性腫瘍の1つ};と考えられている。
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リンチ症候群の名前は米国ネブラスカ州の医師である''Dr.Henry T. Lynch(1928〜)''が集積し報告した膨大な家系資料がMSH2, MLH1などの発見につながったことから,MMR異常を伴う遺伝性腫瘍症候群をリンチ症候群とよぶようになった&note{:Cantor D:The Frustrations of Families:Henry Lynch,heredity, and cancer control, 1962−1975. Med Hist 50:279−302,2006};

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**Lynch症候群の診断 [#qb7f4acf]


Lynch症候群の&color(red){''一次スクリーニング''};にはアムステルダム基準IIと改訂ベセスダ基準が用いられる。
#ref(LynchDx01_s.jpg,around,right)

''アムステルダム基準II''&note{:Vasen HF, et al. New clinical criteria for hereditary nonpolyposis colorectal cancer (HNPCC, Lynch syndrome) proposed by the International Collaborative group on HNPCC.Gastroenterology. 1999 Jun;116(6):1453-6.};

少なくとも''3人の血縁者''がHNPCC関連腫瘍に罹患しており以下のすべての基準を満たす。

-1. 患者の一人が他の2人の患者の第1度近親者である.

-2. 少なくとも2世代にわたって罹患している.

-3. 少なくとも1人の患者が50歳未満で診断されている.

-4. 大腸癌の場合は家族性大腸ポリポーシスが否定されている. 

-5. 腫瘍が組織学的に確認されている。

>HNPCC関連腫瘍: 大腸癌, 子宮内膜癌, 小腸癌, 腎盂・尿管癌

''改訂ベセスダ基準(2004年)''&note{:Umar A, et al. Revised Bethesda Guidelines for hereditary nonpolyposis colorectal cancer (Lynch syndrome) and microsatellite instability. J Natl Cancer Inst. 2004 Feb 18;96(4):261-8.};

以下の患者さんにはMSI検査を推奨する(二次スクリーニングのMSI検査適応を決める基準として設けられた)

-1. 50歳未満で診断された大腸癌患者

-2. 年齢を問わず, 大腸癌またはLynch症候群関連腫瘍を同時性あるいは異時性に罹患している患者

-3. 60歳未満で, MSI-H(microsatellite instability-high)に特徴的な組織学的所見を示す大腸癌患者

-4. 50歳未満でLynch症候群関連腫瘍と診断された第1度近親者(親, 子, 兄弟)を有する大腸癌患者

-5. 年齢にかかわらず, Lynch症候群関連腫瘍と診断された第1度または第2度近親者が2名以上いる大腸癌患者

>&color(crimson){★ Lynch症候群関連腫瘍: 大腸癌, 子宮内膜癌, 胃癌, 卵巣癌, 膵癌, 腎盂・尿管癌, 胆道癌, 脳腫瘍, 脂腺腺腫, keratoachantoma, 小腸癌};

>★ MSI-Hに特徴的な大腸癌組織学的所見: ''腫瘍内リンパ球浸潤, Crohn病様リンパ球反応, 粘液癌・印環細胞分化, 髄様増殖の存在''. 



>感度/特異度は アムステルダム基準IIで, 28-45%/ 99%. 改訂ベセスダ基準で 73-91%/ 77-82%で全例が拾い上げられるわけではない。

>今後は少子化, 核家族化が進み家族歴からのスクリーニングはこれまで以上に不明確になることが予想される&note{:Pino MS, et al.Application of molecular diagnostics for the detection of Lynch syndrome. Expert Rev Mol Diagn. 2010 Jul;10(5):651-65.};このため &color(red){若年者(50歳未満)に大腸癌やLynch Sx関連癌が多発あるいは重複して発症していればLynch Sxを考慮して対処することが求められる.};
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**''MSI(microsatellite instability)と検査'' [#z7f31f3c]

-Lynch症候群ではDNA複製の際に塩基配列ミスの修復機能が低下しているため, マイクロサテライト(ヒトゲノム配列中に高頻度に存在する1−数塩基からなる反復配列の場所)に正常細胞と異なる反復回数を示すMSIが発生しやすい.

-腫瘍ではこの以上が増幅され検出が容易になりLynch Sxの90%以上にMSIが認められる. 

-Lynch Sxで特に, '''MSH6'''遺伝子変異ではMSI-H(2つ以上のマーカに異常+)を示さない場合がある。

-大腸癌, 子宮体癌の散発癌においても10-30%にこの現象が認められLynch Sxに特異的ではないことに注意が必要.

-microsatellite instabilityを調べるPCRマーカとして, BAT25, BAT26, D2S123, D5S346, D17S250の,いわゆるBethesda markersが推奨されている&note{:Loukola A, et al. Microsatellite marker analysis in screening for hereditary nonpolyposis colorectal cancer (HNPCC) Cancer Res. 2001;61:4545-9.};&note{:Boland CR, et al. A National Cancer Institute Workshop on Microsatellite Instability for cancer detection and familial predisposition: development of international criteria for the determination of microsatellite instability in colorectal cancer. Cancer Res. 1998 Nov 15;58(22):5248-57.};

>2/5以上のmarkerで長さが変化していた場合---MSI-high (陽性)

>1/5のmarkerで長さが変化していた場合---MSI-low

>どのmarkerも変化がなかった場合---MSS(microsatellite stable)

>&color(blue){MSI-lowの場合は, MSSと共に陰性として扱われることが多い。};

-近年, 感度特異度の観点から&color(red){Mononucleotide panelの有効性};が示唆されている。&note{:Pagin A, et al. Evaluation of a new panel of six mononucleotide repeat markers for the detection of DNA mismatch repair-deficient tumours.Br J Cancer. 2013 May 28;108(10):2079-87.};

''ミスマッチ修復タンパクの免疫染色''


-Lynch Sx関連腫瘍, MSIの原因の多くはミスマッチ修復遺伝子, '''''MLH1, MSH2, PMS2, MSH6'''''のいずれかの異常(変異など)によるもので, %%%''異常の大半はタンパク発現の欠失を免疫染色により検出が可能''%%%である。&note{Shia:Shia J. et al. Immunohistochemistry versus microsatellite instability testing for screening colorectal cancer patients at risk for hereditary nonpolyposis colorectal cancer syndrome. Part I. The utility of immunohistochemistry. J Mol Diagn. 2008 Jul;10(4):293-300.};

-免疫染色によるスクリーニングでMSIを示す腫瘍の同定の感度, 特異度はPCR markerを用いたMSI検査と差がないことが示されている&note{:Hampel H, Screening for the Lynch syndrome (hereditary nonpolyposis colorectal cancer). N Engl J Med. 2005 May 5;352(18):1851-60.};。しかしいずれの検査も感度が100%ではなく, 2つの検査の間に10%ほどの不一致例がでる。。&note{Shia:Shia J. et al. Immunohistochemistry versus microsatellite instability testing for screening colorectal cancer patients at risk for hereditary nonpolyposis colorectal cancer syndrome. Part I. The utility of immunohistochemistry. J Mol Diagn. 2008 Jul;10(4):293-300.};

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#ref(MMRAb-clone01_s.jpg,around,right,60%)
-免疫染色によるミスマッチタンパク質染色には, &color(red){抗体のクローンを選ぶことが大切};。論文によく使われているクローンがよい抗体とは限らない。クローンによっては, 感度が低くスクリーニングに適さないものがある(eg. MSH6のクローン44などは論文によくでているが使えない )。~
右表にあるクローンは使ったことのないG219-1129以外は良いクローンでよく染まります&note{:関根茂樹 消化管腫瘍における遺伝子変化と診断への応用-大腸癌におけるミスマッチ修復異常静岡がんセンター講演会2015より};

-MMR修復タンパクは, 教科書的にはすべての細胞に発現しているといわれるが, 実際の染色ではそんなことはなく, 増殖の盛んな細胞に強く発現する傾向があるようです.(関根先生の講演から). internal controlに困ることはない。

-免疫染色の実際: MMR異常細胞は陰性になる--->免疫染色画像をみる. (Sorry, you need ID and Psswrd to see the figures)
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#ref(MMRprotein-IHC_s.jpg,around,right,80%)
免疫染色の結果(internal control陽性に対してMMR修復タンパク異常があると陰性になる)により変異のある(壊れている)遺伝子が推定可能。しかし1対1ではなく, MLH1, MSH2に異常があるときは各々, PMS2, MSH6も陰性になる。対照的にPMS2, MSH6遺伝子変異の場合は1つのみのタンパク消失の結果となる。

#clear

&photo(Mut-complex.jpg); &photo(MMRprotein-pair.jpg);

>MLH1とMSH2はMMRたんぱく質の構成に必須。PMS2とMSH6はこれらのたんぱく質と相互に結合していないと安定が保てず、発現がなくなってしまうと考えられる。

>MSH3はminorなタンパクであるが, MSH2と複合体を形成し,ループアウト構造をとるミスマッチ修復に働く.

>免疫染色はマイクロサテライト不安定性の原因となるミスマッチ修復タンパク質の発現をみる検査である。
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**''非典型的な免疫染色結果を示す場合'' [#q1fbec64]
>
&color(red){以下の3つは覚えておくとよいですよ。(Dr関根)};
-''ミスセンス変異などによる変異たんぱく質の発現'': &color(red){変異MLH1由来の異常MLH1タンパク質ができても免疫染色では, 陰性とならず陽性になる};。MHL1変異例の8/32例はMHL1(+)/PMS2(-)の染色パターンを示した.~
この場合, ''異常なMHL1と結合するPMS2は安定できずに消失してしまう''。&note{:de Jong AE, et al. Microsatellite instability, immunohistochemistry, and additional PMS2 staining in suspected hereditary nonpolyposis colorectal cancer. Clin Cancer Res. 2004 Feb 1;10(3):972-80.};PMS2遺伝子には異常が見られない。
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-''マイクロサテライト不安定性によるミスマッチ修復タンパク質の2次的変異''--> MLH1変異により, 他のMMR修復タンパク連続塩基(mononucleotide repeat); MSH2(A7), PMS2(A8), MSH6(A7, C8, T7), MLH3(A9, A8), MSH3(A8, A7)のシークエンスが二次的にこわれてしまう。~
MSH6に最も高頻度にでる。組織上で, 部分的にMSH6発現が消えてしまう。領域的に組織型が異なるがんでの発現が違ってくることがある。
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-''術前化学療法によるMSH6の発現消失。'': 10/51例で化学療法後にMSH6の発現消失・減弱が認められた&note{:Bao F, et al. Neoadjuvant therapy induces loss of MSH6 expression in colorectal carcinoma. Am J Surg Pathol. 2010 Dec;34(12):1798-804. };。~
この場合治療前の生検組織ではMSH6の発現は保たれており, 発現消失は, 化学療法の影響であると推察される。

>''さらに, とてもまれな免疫染色の非典型例: MSH2の変異に伴った大腸癌(MSH-H)''
-腫瘍全体で不均一な(まだら状, 地図状)染色や, 単一腺管ないでも不均一にそまることがある。
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-MSH2変異例において, MSH2が細胞質にそまってしまう。癌の部分では, 核は白く抜けて不染, 細胞質のみ染まる例があった。


***大腸癌におけるミスマッチ修復異常の臨床的意義 [#yd189411]

ミスマッチ修復異常の有無は治療選択とリンチ症候群の診断に重要な意義をもつ。

-ミスマッチ修復異常をもつ大腸癌は予後良好である。

-術後化学療法の利益がないとする報告がある。

-Lynch症候群に伴う大腸癌を含む。

-&color(red){''免疫療法の効果予測因子として期待されている: ミスマッチ修復欠損による体細胞変異が多くみられる腫瘍は免疫チェックポイント阻害に対する感受性が高い''。};&note{:Le DT, et al. PD-1 Blockade in Tumors with Mismatch-Repair Deficiency. N Engl J Med. 2015 Jun 25;372(26):2509-20.};

***DNA障害のパターンと修復 [#r4e54a7a]

#ref(DNArepaires.jpg,around,70%)
DNA障害と修復機構のタイプ&note{:渋谷正史ほか編集 がん生物学イラストレイテッド2011;151-160, 羊土社 東京};

-酸化されたグアニンなど異常塩基は塩基除去修復により塩基部分がデオキシリボースから切断される. 

-隣接した塩基同士が結合する, DNAの嵩高い構造変化が起こる場合は, 損傷塩基を含む, オリゴヌクレオチドがヌクレオチド除去修復により除去される. このとき除去されずに残った損傷によるDNA複製停止と続いて起こる細胞死を防ぐためにバイパスDNA合成が機能する. 

-DNA二重鎖切断は, 原核生物から真核生物に共通してみられる相同組み換え修復とヒトを含む高等真核生物に顕著な非相同末端再結合の2つの機構により再結合される。

-DNA複製の際に, 間違った塩基取り込みによる誤塩基対は&color(red){''ミスマッチ修復''};により解消される。

-これらの修復機構の一部は細胞内においてそれぞれの損傷修復の補完的な役割をになっており相互に関連していると考えられる. その例として, 相同組み換え修復, バイパスDNA合成とヌクレオチド除去修復が複雑に組み合わさったDNAクロスリンク修復にみることができる。

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