WikiPathologica

complement and complement system; 補体と補体系

Bordet.jpg

補体 complementは, 抗体による細菌のオプソニン化と殺菌を促進する働きをもつ正常血漿中の熱に弱い因子として, 100年以上前にベルギーの細菌学者 Jules Bordet(1919年ノーベル医学生理学賞)により発見された.

最初抗体応答のエフェクター相で機能する物質として発見されたが, 補体は感染初期に抗体が存在しなくても活性化される。すなわち自然免疫系の一部として進化してきたようで, 今も病原体を覆って破壊するという点で重要な役割をはたしている。

補体系 complement system

補体系は多数の異なる血漿蛋白から成立し, 細菌のオプソニン化と感染に対抗する助けとなる一連の炎症反応誘導に働く.

複数の補体蛋白は, それ自体が特定のプロテアーゼに分解されて活性化されるプロテアーゼ(酵素)である. 酵素活性のない酵素前駆体はzymogenザイモーゲンとよばれる.

zymogenは体液, 組織全体に広く分布し, zymogenの切断により生じる活性型補体酵素は続いてもう一つの基質である補体zymogenを切断し活性型酵素に変える.これがさらに補体経路下流のzymogenを活性化する。このように経路の最初では少数の補体蛋白活性化が次に続く酵素反応により増幅され非常に大きな補体反応を急速に惹起する。

補体系の命名法

  • 古典経路および膜侵襲複合体にかかわる全ての蛋白は大文字のCとそれに続く数字により表記される.
  • 切断(活性化)される前の個々の補体分子は, 単純にC1, C2というぐあいに表現される.
  • 番号は発見順であり, 連鎖反応の順番ではない. 反応順にはC 1->4->2->3->5->6->7->8->9となる.(ややこしいが4の順だけに注意すればよい)
  • 上記補体成分から切断反応により生成される産物は, 数字の次に小文字のaまたはbを付記する. この際大きいフラグメントをb, 小さいフラグメントをaとする.例外としてC2に関しては, 大きいほうのフラグメントがC2aと命名され, このフラグメントが酵素活性をもっている.
  • 第二経路に関する補体蛋白は数字ではなく, 大文字のアルファベット1文字で表記する(例; BあるいはD).フラグメントは古典回路と同様に大きいほうをb, 小さい方をaで表す.
  • レクチン経路では最初に活性化される酵素はマンノース結合レクチン関連セリンプロテアーゼ(mannose-binding-lectin-associated serine protease; MASP-1, MASP-2)であり, その後の経路は本質的に古典経路と同じである。

補体活性化経路

補体活性化には古典経路classical pathway, レクチン経路 lectin pathway, 第二経路の3つの経路が存在する.

complement-system.jpg

感染初期に補体系はこの3経路のうち一つあるいはそれ以上の経路を介して病原体表面で活性化される.

補体は病原体表面に結合するタンパク質により開始され, 誘導される酵素カスケードで活性化の課程は, この病原体表面のおなじ場所で起こり, 血漿中や宿主細胞表面ではおこらない.

補体活性化段階の最初のタンパクであるC1qが直接病原体表面に結合することにより古典経路の活性化がおこる.

レクチン経路は病原体表面の糖鎖に糖鎖結合性タンパクが結合することで開始される. これらの糖鎖結合性タンパクにはレクチンであるmannose-binding lectin (MBL;病原体上のマンノースを含む糖鎖に結合), やフィコリン(ある種の病原体表面に存在するN-アセチルグルコサミンに結合する)が含まれる.

第二経路(Alternative pathway)では, 自然に活性化されている血漿中補体系因子のC3が病原体表面に結合することで始まる.

3つの経路は開始時は異なる分子に依存するが, 一連の反応後にeffector分子であるC3転換酵素 C3 convertaseとよばれるプロテアーゼを生成する。これらの反応を補体活性化の「初期反応」という.

活性化後期過程

C3転換酵素活性の生成は補体系活性化の要である. これが主要なeffector分子を産生し後期過程の開始を誘導する.

古典経路, レクチン経路ではC3転換酵素は膜結合型C4bとC2aの結合したC4bC2であり, 第二経路では膜結合型C3bとBbが結合したC3bBbがC3転換酵素と同様の役割をはたす。第二経路はC3bの結合により開始されるため, 3経路全ての増幅経路としても作用する

C3はC3転換酵素によりC3bとC3aに分解される. C3bは補体系の主要なeffector分子であり, C3aは炎症を媒介するペプチドである.

C3bは病原体に共有結合しC3bレセプターを持つmacrophageが病原体を貪食するオプソニンの役割をもつ.

C3bは、C3転換酵素と結合し, C5転換酵素C5 convertaseを生成, このconvertaseが最も強力な炎症性ペプチドのC5aと補体系遅延型反応を誘導する大きな活性化フラグメントであるC5bを生成する。

MACcomplex.jpg
 
 

補体系による標的細胞障害

補体系遅延型反応は一連の補体分子重合反応からなり, 最終産物として膜侵襲複合体 membrane-attack complex (MAC)が形成され病原体の膜に孔をあけて殺菌や細胞を死にいたらしめる。

CD59(HRF20:20KDa-Homologous restriction factor)は,MAC(membrane-attack complex)形成時のC8, C9に結合し,C9 の重合を阻害することによって,MAC の形成を阻害する補体調節蛋白.この蛋白は血液細胞のGPI-anchor(glycosyl-phosphatidylinositol anchor)の部分で膜に結合しているGPI 膜結合蛋白.

DAF(decay accelerating factor)として知られるCD55は,それが存在している細胞上のC3/C5転換酵素のみに作用し,C3/C5転換酵素の形式を阻害することにより,補体の活性化を抑制する補体調節蛋白である.この蛋白は血液細胞のGPI-anchor(glycosyl-phosphatidylinositol anchor)の部分で膜に結合しているGPI膜結合蛋白で,補体の血管内活性から自己細胞を守る重要な役割を果たしている.
赤血球上でCD55が欠損していると,活性化された補体によって,血管内溶血を生じる.
(decay; 崩壊させる, 腐らせる)

遺伝的CD55欠損症例では重篤な症状は報告されていないが, CD59の遺伝的欠損例では溶血発作が報告されており, CD59が補体溶血阻止により重要と考えられる*1

CD46(complement membrane cofactor protein; MCP)は構造, 機能ともにCD55に類似しており血清第I因子(serine protease)とともにC3b, C4b分解を促進して, C3/C5転換酵素の形式を阻害する. CD55とは, 膜貫通および細胞内部分で相違しておりCD46は膜貫通部および細胞内部分をもつ一回膜貫通タンパクである。赤血球以外の血液細胞, 線維芽細胞, 上皮, 内皮, 胎盤, 精子など広範に分布する. CD46は麻疹レセプターとしても知られている.


*1  植田康敬ほか 発作性夜間ヘモグロビン尿症と補体 血液フロンティア 2015; 25(9): 1295-1305

添付ファイル: fileMACcomplex.jpg 474件 [詳細] filecomplement-system.jpg 544件 [詳細] fileBordet.jpg 458件 [詳細]

トップ   差分 バックアップ リロード   一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2016-09-20 (火) 14:13:23 (732d)