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皮膚メラノーマの病理組織学的クライテリア

Ackermanによる皮膚メラノーマ病理組織学的クライテリア*1

A. 組織構築上のパターン(architechtural pattern): 診断に重要視される

1.非対称性病変である

組織診断において最も重視すべき所見。病変中心部に対し左右の組織構築が対称性かどうかを低倍率(x2)のシルエット像として評価、判定する。メラノサイトの増殖様式と程度が病変の左右でほぼ同等であるかどうかを検討すると同時に, 表皮の変化についても左右対称性を評価する。
非対称で不整な構築の場合メラノーマの可能性大と判定する。
左右ほぼ対称で整った形状の病変であれば良性色素細胞母斑の可能性が高いと考える。

2.境界が不明瞭な病変である

病巣辺縁部に向かうにつれてメラノサイトの増殖程度が次第に弱まり、健常部との境界が不明瞭。辺縁部表皮ではメラノサイトの胞巣がめだたず, 個別性増殖が主体となり、その程度も徐々に減弱する。
メラノーマでは病変の一端が境界不明瞭で他端は境界明瞭ということが少なくない。病変両側の境界が不明瞭なこともある。(左右非対称性を反映する症例があるとみなされる)

  • 良性母斑類では胞巣が主体で, 病巣辺縁が両側とも胞巣で終わり境界明瞭なことが多い。
  • Clark母斑(dysplastic nevus)は良性の母斑であるにもかかわらず, 左右境界がともに不明瞭なことが多い(shoulder effect)ので注意が必要。

3.腫瘍細胞が病巣下部で小型化する「maturation」の所見が見られない

母斑細胞(メラノサイト)の大きさが病巣浅層部のものに比べ深層部で小型化することをmaturationと呼ぶ。

  • 良性母斑では母斑細胞は浅層部で類上皮様形態でやや大型であるが, 中深層部では胞体も核も小型化しリンパ球様となることが多い。より深層では紡錘形状となり, schwann細胞様形態の細胞となることがあり, neurotizationと呼ぶ。
  • メラノーマでは深部でも腫瘍細胞が大型で異型性もめだつことが多くmaturationの所見がない。
  • メラノーマでも多少のmaturationを示すことはあるのでこの所見のみでは確診をしてはならない。

4.表皮内腫瘍細胞胞巣の位置関係が互いに等距離ではない。(胞巣の分布様式)

メラノーマでは胞巣がさまざまな間隔で無秩序, 乱雑に分布する傾向を示す。メラノーマ胞巣は表皮突起と真皮乳頭で構成される表皮の凹凸パターンと無関係に存在し, 表皮・真皮境界部のみでなく表皮上部にまで見出されることが多く全体として胞巣が無秩序, 乱雑に分布する。

  • Clark母斑では表皮突起の側面部に沿うような形状の胞巣が見出されたり, 隣接する表皮突起を連結するような横長の胞巣もみられたりするので注意を要する。
  • 良性の母斑では主として表皮突起先端部の表皮真皮境界部に規則的に胞巣が配置している。

5.胞巣サイズや形状に大きな差異が認められる。(胞巣のサイズと形状)

メラノーマでは大小種々の胞巣が見出され, その形状も不規則で多様なことが多い。一方良性母斑胞巣は大きさも中等度までで, 形状も類円形状であることがほとんど。

6.胞巣が互いに融合することがある

胞巣の融合によりきわめて大型の胞巣や不整な形状の胞巣が形成されることになる。

7.胞巣内メラノサイトが相互の接着性を失っていることがある

メラノーマの胞巣では細胞が相互の接着性を失い, ばらばらに分離して存在する。segregationと呼ばれる。(癌化による, 接着分子発現異常を反映か?)

8.表皮真皮境界部より上部にまでメラノサイトが散在性にみられる

メラノサイトの存在部位が表皮真皮境界のみでなく表皮上部にまで及ぶ正常メラノサイトは表皮真皮境界部に位置する細胞。(この部位への親和性にかかわる接着分子発現が考えられる)
メラノーマ腫瘍細胞では正常親和性が失われ, 細胞の運動性亢進も関与し基底部より離れ, 表皮上部にまで分布するようになる。

  • 単純黒子や境界部型色素細胞母斑などの良性病変のメラノサイトは表皮真皮境界部への親和性をたもち個々の細胞や胞巣は表皮真皮境界部から表皮基底部に限局されて存在していることが多い。

9.強拡大視野で表皮内のどこかに個別性に増殖するメラノサイトが胞巣を形成するものよりも目立つ箇所がある

個別性増殖が表皮全層にわたり顕著に認められると表皮が散弾銃で打ち抜かれたように見えるbuck-shot scatter像をしめす。

  • 良性の母斑類ではメラノサイトが胞巣を形成して増殖していることが多い。
  • 個別性増殖は単純黒子, Clark母斑でも認められるが, その存在部位はいずれも表皮基底層部にほぼ限局されており, 表皮のかなり上部にまで個別性増殖がおよぶことはほとんどない。

10. 表皮内に個別性に増殖するメラノサイトの位置関係が互いに等距離に配置しておらず乱雑に存在している

11. 表皮内で認められるメラノサイトと同じ細胞の増殖が付属器上皮の深部まで認められる。

メラノーマ腫瘍細胞は毛包や汗管の上皮内まで見出されることがある。

12. メラノーマの病巣ではメラニン色素が表皮内, 付属器上皮内, 真皮内で非対称性に分布する

癌化したメラノサイトが分裂増殖していく過程でメラニン産生能の異なるクローンを生じてくるために認められる所見。メラノーマでは病巣深部にもまれならずメラニンが見出される。メラニン色素はメラノサイト内のみでなく, macrophage内にも取り込まれて存在する(melanophage)。

  • 良性の母斑ではメラニン色素の存在は病巣上部(表皮と真皮上部)にほぼ限局されており, その分布様式もほぼ左右対称性である。

B.細胞学的所見(cytological features)

1. メラノサイトに異型が認められることが多い

メラノサイト系腫瘍に関しては良性Spitz母斑でも細胞異型が認められ要注意。核が大型でしばしば多型性を示し, 核クロマチン分布は粗く粗ぞう。大きな核小体が目立つこともある。メラノーマとSpitz母斑の核は強拡大で観察するといずれも異型性を示し鑑別は困難。両者の鑑別には組織構築像の評価がきわめて重要。

2. 核分裂像を示すメラノサイトがみられる

Spitz母斑ではやはり, 核分裂像がまれならず出現する。3極分裂などの異常分裂や真皮内病巣深部に核分裂像が見つかればメラノーマである可能性が高くなる。

3. 壊死に陥ったメラノサイトがみられることがある

腫瘍の急速な増殖に血行が追いつかないような場合に認められる。集塊状の壊死巣や個々の細胞のアポトーシスに陥って生じる個別性の壊死が見られる。

  • 良性病変でもhalo nevusなどでは母斑細胞が宿主リンパ球に攻撃され変性壊死を生じることがある。

一版病理医でも簡易にメラノーマの診断ができる6つの診断基準

第100回病理学会総会診断ワークショップ 名古屋第二赤十字病院病理診断科 都築先生の講演から

melanomaの診断を困難にする因子

1. 色素性病変では例外が多く以下の項目が必ずしも悪性を意味しない

  • 腫瘍の大きさが必ずしも悪性を意味しない
  • 構造異型が必ずしも悪性を意味しない
  • 細胞異型が必ずしも悪性を意味しない
  • 核分裂像が必ずしも悪性を意味しない
  • 脈管侵襲が必ずしも悪性を意味しない
  • 娘結節の存在が必ずしも悪性を意味しない

2.教科書にのっている判定項目が多すぎる. c.f melanomaとSpitz nevusの鑑別

3.判定の基準が曖昧な記載が多く判定が困難である。

メラノーマ診断のための最重要な6つの判定基準

そこで検討項目を6つにしぼり一版病理医でも簡易に鑑別ができ悪性黒色腫の診断が可能になるようにした。 これら6つの診断基準を逸脱してしまいクリアできない症例は専門皮膚病理医でも意見がわれてしまう(都築先生)。

1.年齢 

新生児,乳児, 小児の皮膚色素病変 年齢を考えmelanomaの診断を避ける

  • 先天性母斑を後天性母斑と区別することが大切
     
  • 先天性は大型の症例が多く時に最大径が10cmをこえるときがある。
     
  • 先天性母斑には皮下結合組織に浸潤したり高度の細胞異型を示すことがある

高齢者にはSpitz母斑はまれ.

  • 40歳以上, とくに50歳を過ぎてSpitz母斑のように見えたらmelanomaを考えた方がよい。

2.発生部位 

発生部位により良性母斑に細胞異型が生じることが知られている

  • 手掌, 足底, 耳介, 結膜, milk-line(副乳のある部分), 爪下, 陰部では注意が必要。
  • 上記の部分では良性でも細胞異型が顕著でmelanomaにみえる場合があり, 悪く見えても良性の可能性はないかを考える。

3.病変の大きさ

多くの後天性良性母斑の最大径は5mm未満

  • 多くの5mm未満の病変では悪性から逸脱する所見を拾っていく。悪性の可能性を除外していく
     
  • 逆に10mm以上の病変では良性ではない所見を見つけ出し、悪性の可能性を追求する
     
  • Spitz母斑では5mmを超えるときがあるので注意が必要

4.病変の対称性

何を対称として評価するのかが重要

  • 病変のシルエットは一般的に教科書に書かれているが対称の判断項目はそれだけではない
     
  • 細胞密度が均一か。核と核の距離がばらばらではないか
     
  • 腫瘍結節の分布
     
  • 辺縁を含め本当に構成する細胞の性質が左右が均一か(上下ではない) 
     
  • メラニン色素沈着 
     
  • 炎症の分布 
     
  • 表皮の変化など対称性を検討する項目は多い。

5.病変の境界

境界不明瞭:ここまでが病変であると線引きができない。病変の終わりがよくわからない。離れたところにも病変があるなどの所見はmelanomaを考える

6.腫瘍細胞の成熟傾向をしる

表層部と深部で細胞がどうなっているか。深層の細胞が小さくおとなしくなる(maturationがあるという) 良性ではかならず見られる所見。核分裂像も減少というより消失してしまう。

以上の6つのポイント

6についてはKi-67免疫染色もその他の講演で話題になった。良性病変では深部melanocyteはKi-67はほとんど陰性となる。

 

足底のメラノーマ(末端黒子型ALM)診断 Dermosopyを使った皮丘皮溝平行パターンによるメラノーマ診断。

第100回病理学会総会診断ワークショップ 虎ノ門病院皮膚科 大原先生

Dermoscopyではゼリーを使い皮膚表面の光乱反射を防ぐ。真皮上層くらいまでの主に色素性の構造メラニン, 血管, 石灰化の色の構造, 場合によっては線維化もみえてくる。

Dermosopyによるメラニン色素の見え方について必須の基本知識

全身皮膚は顔 躯幹四肢 掌蹠この3つに大別され各々によってメラニン色素の見え方が違う

  • 顔: 白い水玉模様とその間を埋める色素構造 pseudonetworkとよばれる
  • 躯幹四肢(生毛部): 紋理 networkとよぶ。辺縁部に見える編み目様構造で漁網や虫取り網蜂の巣を連想させる この構造がregularかirregularかtypicalかatypicalかで判定するが生体のことであり相当のvariationをふくむ
  • 掌蹠:pallarel pattern(平行パターン), 黒い筋が平行に走る平行パターンが基本になる. 皮丘パターンか皮溝平行パターンかでmelanomaかほくろ母斑細胞かを鑑別する。
  • 皮丘皮溝の平行パターンによる診断は掌蹠部分の黒色腫のみに適応できる

末端黒子型ALM

圧倒的に足底に発生, いわゆる足の裏のmelanoma. 中高年に発症し,色素斑mm in sitの時期が非常に長い.melanomaは進行が速いといわれているが10-20年in situでいることはよくある。色素斑(mm in situの時期)ではガラススライド病理標本だけで診断することはむずかしい。時間がたつと進行して結節性病変をつくり浸潤する。(結節性黒色腫は 周辺に色素斑をともなわないもので別物)

Dermoscopyによる皮丘と皮溝の色素沈着パターンから足底メラノーマを診断する。  

  • 細い溝に一致して色素がみられる(中が真っ黒な場合, 辺縁部の筋で判定する)--皮溝平行パターン:母斑など良性病変のパターン
  • 太い部分に色がついて細い筋には色がつかない--->皮丘一致性の色素沈着 皮丘優位にメラノサイトが増えている。構造異型を意味しておりメラノーマの診断となる
  • 皮丘皮溝は表皮突起とは同じものではない。 汗管がある(皮丘)かどうか, 全体に見たふくらみかへこみかで皮丘皮溝を判定する。
  • Ackermanの提唱したメラニン柱:はっきりしたメラニンの柱があるのは境界型あるいは複合型のnevusである。皮溝平行パターンをメラニン柱として以前から認識していた。
  • 先天性母斑と後天性母斑は別物に扱う必要がある。先天性母斑では皮丘皮溝両方にmelanocyte、メラニン色素がある

melanomaの免疫染色

メラノーマ診断に頻用される抗体は:S-100, HMB-45(gp100), melanA/ MART-1の3種である。

  • S-100:S-100蛋白は単一の蛋白ではなく, 細胞内カルシウム代謝に重要なカルシウム結合蛋白の一群。
  • S-100抗体は悪性黒色腫だけではなく, 皮膚では母斑やランゲルハンス細胞, 皮膚神経性腫瘍にも陽性となる。
  • HMB45: 未熟なメラノゾームに存在する複合糖質のノイラミニダーゼ感受性オリゴ糖側鎖(gp-100)と反応する抗体。境界母斑や青色母斑と反応し, 胎児型メラノサイトとは種々な程度に反応する。
  • HMB45正常成人のメラノサイトと真皮内母斑は陰性である
  • melanA/ MART-1: 確診悪性黒色腫患者のT細胞が認識する主要関連抗原として同定された。メラノサイト系細胞に特異的であるが, HMB45とは対照的に良性母斑も陽性となる

*1 Ackerman AB.,et al: Pitfalls in Histopathologic Diagnosis of Malignant Melanoma. Lea&Febiger, Philadelpia.1994

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Last-modified: 2021-10-17 (日) 19:03:58 (3d)