Epigenetics エピジェネティックス
non-coding RNA ( ncRNA ) †
non-coding RNA (ncRNA): タンパク質をコードするmRNAに対しタンパク質をコードしないRNAの総称。
近年の大規模転写産物の網羅的解析により非コードDNA領域(タンパク質をコードしないゲノム領域)でも,そのほとんどが転写されており, さまざまなncRNAが産生されていることが明らかになった*1
「ENCODE」国際プロジェクトによると70%までのゲノムがRNAに転写されるが, ゲノムの1.5%のみがタンパク質をコードする遺伝子であることが示唆されている.*2
現在まで多種なncRNAが発見され, その長さも20塩基ほどから数10キロ塩基におよぶものまで多様である
短鎖ncRNA (small non-coding RNA ) †
20〜30塩基の機能的低分子ncRNAを短鎖ncRNAと呼ぶ。この十数年でこれらの短鎖ncRNAが重要な役割を果たすRNAサイレンシングと呼ばれる遺伝子発現制御機構がさまざまな動植物で明らかとなった。
RNAサイレンシングでは短鎖ncRNAがRNA結合タンパクのArgonaute(アルゴノート)と結合して作動RNP複合体(RNA induced silencing complex: RISC)を形成, RISCを標的RNAへとガイドするための配列特異性決定因子として働いている。
RNAサイレンシングで機能する短鎖ncRNAは以下の3つに大別される
siRNA (small interfering RNA )
miRNA (micro RNA )
piRNA (PIWI-interacting RNA )
Argonauteは恒常的に発現するAGOサブファミリーと, 生殖組織でのみ発現するPIWIサブファミリーとに大きく分類されており, siRNAやmiRNAはAGOに, piRNAはPIWIに選択的に取り込まれる。
長鎖ncRNA (long non-coding RNA: lncRNA ) †
近年の大規模転写産物解析により数百塩基長以上の長鎖ncRNAが存在することが明らかとなった.
これらの多くは複数のエキソンからなり5'末端にはキャップ構造, 3'末端にはpoly(A)鎖をもち, mRNAと同様の構造を備えているためmRNA型ncRNAとも呼ばれ以下の共通の特徴をもつ.
- RNAポリメラーゼIIによる転写, ポリアデニル化をうける.
- 複数のエクソンが存在する
- 似かよったスプライシングパターン, エピジェネティックシグネチャーをもつ
lncRNAには, エピゲノム制御や核内構造体の形成, 短鎖ncRNAであるmiRNAを競合的に阻害する囮(miRNAデコイまたはmiRNAスポンジ)として機能するものが知られている。
lncRNAのなかにはpoly(A)鎖付加などのmRNAと同様の修飾を受けながら核外に輸送されず核内にとどまるものが多数存在して, そのいくつかはDNAメチル基転移酵素や, クロマチンリモデリング複合体と相互作用することでエピゲノム制御をおこなっている。
lncRNAの多くは, RNAポリメラーゼIIによって転写され, 遺伝子間領域をはじめ, プロモータ領域, イントロン領域など様々なゲノム領域のセンス鎖, アンチセンス鎖から産生される。
lncRNAにはXistのように生物種間でよく保存されているものがあるが保存性の高いものは少なく, 種特異的なものが多い。
現在までおよそ200数種のlncRNAが機能性lncRNAとしてデータベースに登録されている*3