WHO2016 脳腫瘍分類

テロメア telomere

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真核生物の線状染色体に存在する3つの機能的ドメイン---遺伝情報を安定に伝達するしくみ.*1

1. 複製開始点: 遺伝情報を過不足なく倍加させるため, 染色体各部位がDNA合成期中(S期)に一度だけ複製するための制御をおこなう.

2. セントロメア: 細胞分裂期(M期)において遺伝情報を2つの娘細胞に正確に分配する際, 中心的役割をはたす.

3. テロメア: 細胞周期にわたって線状染色体を安定にたもつ機能をになう構造体.

  • 染色体末端をヌクレアーゼによる分解から保護する
     
  • 染色体末端をDNA二重鎖切断部位と区別しDNAリガーゼによる末端同士の融合やDNA相同組み換えがおこることを防ぐ.
     
  • 末端保護機能に加えて, 線状染色体の末端まで完全に複製するための機能をもつ.

培養皿中で継代培養されたヒト正常細胞は, 有限の分裂回数の後, 細胞増殖を不可逆的に停止する(ヘイフリック限界).
ヘイフリック限界に達した細胞は, 増殖刺激に反応することなく, 生存を続ける(複製老化)

複製老化は, 細胞分裂に伴うテロメアDNAの短小化によりテロメアの高次構造を部分的に保てなくなって, DNA損傷部位と認識されるためと考えられている. *2

細胞老化の一種であり, 染色体末端の過度の短小化を防ぎ, 染色体不安定化が起こらないようにする, がん抑制機構の一つと考えられている.

 

テロメアの構造

テロメアは5'-TTAGGG-3'の6塩基繰り返しからなる二本鎖DNAと種々のタンパク質から構成される高次クロマチン構造. すべての染色体末端に存在し, 重要な染色体保護機構として機能している.*3 *4

  • ヒトDNAは直鎖状二本鎖DNAであり, これを合成するDNA polymelaseは5'から3'の一方向にしか合成できない性質のためテロメアを構成するテロメアDNAは複製のたびに欠失していくことが知られている.
    -->(末端複製問題)と呼ぶ
     
  • 複製の最終段階ではテロメアC鎖の5'側からエクソヌクレアーゼによる削りこみがおこるため, テロメア最末端部分は通常3'末端が突出した構造になっている.(G-tail形成)
     
  • 末端複製問題とG-tail形成のための削り込みにより, テロメアDNAは細胞分裂のたびに短小化することになる.
     
  • 脊椎動物のテロメアDNAグアニンに富む6塩基 (TTAGGG)を単位とする反復配列であるG鎖とその相補配列であるC鎖(AATCCC)から構成されている. 大部分は2〜30kbpの二本鎖領域からなり, 最末端には50〜300塩基の一本鎖G鎖突出構造(G tail)をもつ.
     
  • ヒトの G-tailは 5'-TTAGGG-3'繰り返し配列の一本鎖突出端末で複製時を除き解裂した二本鎖テロメアDNAに入り込んで小さなd-loopと大きなt-loopを形成している.

テロメアを構成するタンパク質としては, 6種類のテロメア特異的タンパク質からできたシェルタリン複合体(shelterin)が中心的な役割を果たしている.

  • d-loop, t-loop 形成にはG-tailの他, shelterinと呼ばれるタンパク質複合体が必須である. shelterinはt-loop形成の糊付けタンパク質として機能しDNAダメージやテロメア機能不全を防ぐために必要である.
     
  • TRF1, TRF2はテロメア二本鎖DNAに特異的に直接結合し, 一方POT1はテロメア一本鎖DNAに結合する.
     
  • TRF1, TRF2, POT1がTIN2, TPP1により架橋されさらにRAP1が結合してシェルタリン複合体が形成される.
     
  • 複合体は2種類のDNA結合タンパクを含むことで, セントロメア側にある二本鎖DNAと最末端の一本鎖DNAを物理的に架橋できる. これによってテロメアDNAの長さなど近位テロメア全体の情報をテロメラーゼが作用する最末端G-tailに伝えるなど, シグナル伝達経路を形成してテロメアのホメオスターシスに関わっている.
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テロメア最末端はDNA損傷として認識されないよう, そのテロメア一本鎖突出末端のG tailが二本鎖テロメアDNAが開裂した部分に入り込みd-loopを形成している.

t-loopの維持にはTRF2などから構成されるshelterin複合体が必須であり,この複合体は一種の糊付けタンパク質として機能している.

  • ACD(Adrenocortical dysplasia protein homolog), shelterin complex subunit and telomerase recruitment factorprovided by HGNC Also known as PIP1; PTOP; TPP1; TINT1, @ 16q22.1

t-loopの形成により, DNA損傷応答の惹起が抑制される. またshelterinはtelomeraseの働きを正・負いずれにも調節し, テロメア長を制御する.

  • t-loop形成によるテロメア高次構造は, 複製フォークの進行やテロメラーゼによるテロメアDNA伸長に対しては阻害的に働くと想像される. そのため, t-loop構造は必要に応じて開閉されなければならない.
  • テロメアは構造をスイッチすることでその機能を果たしていると推定される. これはt-loop構造に限ったことではなく, ある反応を受け入れる開いた構造(陽)と, 抵抗を示す閉じた構造(陰)を使い分ける制御機構としてテロメア陰陽モデルが提唱されている.
 

Telomerase テロメラーゼ

 
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テロメラーゼはテロメアを伸長する酵素で1本のRNAと複数のタンパク質から構成されるリボ核タンパク質.

 

テロメラーゼ活性に必要な最小成分はhTERT(human telomerase reverse transcriptase)とhTERC (human telomerase RNA component)であることが知られている.

hTERC/hTRはテロメアと相補的な配列を含む非コードRNA(non-coding RNA)である.

hTERTはhTERCを鋳型として, RNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)活性によってテロメアDNAを合成付加する.

hTERC/ hTRは普遍的に存在するが, TERTはテロメラーゼ活性陽性細胞のみで発現が認められる.

ヒトの細胞においてはテロメラーゼ活性の有無は主にhTERTの発現有無に依存しており, がん細胞は hTERTを発現させテロメラーゼ活性を獲得しreplicative senescence(分裂による老化)を回避している.

 

telomeraseは逆転写酵素であるTERTと, RNAサブユニットのtelomerase RNA component (TERC)を中心としたRNAタンパク複合体で 正常では, embryonic stem cellおよび一部の成人stem cellなど限られた細胞のみで活性化されている.(通常の体細胞ではTERT発現はなく, telomeraseは活性化されていない)

 

がん細胞では, さまざまながん種において, telomerase活性が亢進している. gliomaにおいても特にoligodendrogliomaとglioblastomaにおいて極めて高頻度にテロメラーゼ高活性が認められることが報告されている. *5

テロメラーゼ活性はPCRを用いたTRAP(telomeric repeat amplification protocol)アッセイ法により高感度に検出ができる*6

 

TERTプロモータの点突然変異とテロメラーゼ活性化

がん細胞でtelomeraseが活性化する機序は長らく不明であったが, 2013年にメラノーマにおいてTERT promotorの点突然変異が高頻度にみられることが報告された.

点突然変異の部位は5番染色体上のほぼ2カ所に限定され, いずれもシトシン(C)がチミン(T)に変換されている. hot spotとして,C228T, C250Tと記載される.
個々の腫瘍ではいずれか一方のみが認められる相互排他的変異(mutually exclusive mutaion).

いずれのpoint mutationもプロモーターにGABPという転写因子の新しい結合部位を生成, プロモーター機能が活性化されTERTの転写が亢進, これによりテロメラーゼの活性化をもたらす. *7

TERT変異はさまざまながん種でみられ*8 *9, もっとも高頻度なのがglioma, これに続き脂肪肉腫, 尿路系がん, 肝臓がん, 甲状腺がんに認められる。一方, 乳癌, 大腸癌, 前立腺癌, 白血病などではまれ.

TERT点突然変異以外にも, TERT発現を調節する機構が推察されている.
小児脳腫瘍では, TERT点突然変異はまれであるがpromotor領域のメチル化が見られ, これがTERT発現亢進を起こしている可能性が示唆されている. *10

 
 

テロメラーゼに依存しないテロメア維持機構 ---ALT; alternative lengthening of telomerase

がん細胞の無限に分裂する機能はテロメラーゼにより染色体末端のテロメアDNAを伸長することにより維持されている。しかし約10%のがん細胞, 不死化培養細胞では, テロメラーゼ活性が検出されない.

このような細胞でテロメラーゼ非依存性のテロメア維持機構*11ALT(alternative lengthening of telomeres)とよび, ALTによりテロメアを維持する細胞をALT細胞という.

ALT細胞の特徴

1. テロメア長が長く, 長さの差異が大きい

  • Southern法により ALT細胞は, Telomerase活性陽性細胞(以下Tel+)にくらべテロメアDNA長が長くそのバラツキが大きい*12
  • 中期染色体進展標本のFISH法によるテロメアDNA検出で, Tel+細胞はシグナル強度が均一なのに対して, ALT細胞では染色体末端のテロメアDNAのシグナル強度が異なっている *13.
  • ALT細胞のテロメアDNA長の長短のバラツキが大きいという特徴は相同組み換えによるテロメア維持機構を示唆される.(相同組み換え組み換えによるテロメア伸長は確率的な要因が大きくなるため)
  • これらはTel+細胞がテロメア長を均一に保つ機構をもつこと, ALT細胞ではその機構が失われていることが推察される.

2. APB(ALT-associated PML body)核内構造体の形成*14

  • APBはテロメアDNAとPML構造体が間期の細胞核内でフォーカス状に共局在している構造
  • PML構造体: Acute promyelocytic leukemia患者の血球細胞に高頻度にみられる染色体転座においてレチノイン酸受容体α遺伝子と融合している遺伝子から同定されたPMLタンパク質を主要成分とする核内構造体.
  • PML構造体には転写因子, 組み換え, 細胞死制御など多くの細胞機能制御に関わるタンパク質が含まれている.
  • PML構造体では, さまざまなタンパク質の機能を変化させるSUMO(small ubiquitin-like modifier)修飾が高度に観察される.
  • ALT細胞ではテロメア結合タンパク質であるTRF1, TRF2がAPBにおいてSUMO化修飾を受けていることが報告されている.
     
  • PML構造体の機能は十分に解明されていない. 細胞増殖やストレス応答に関係することが示唆されている.
     
  • PML構造体はTel+細胞にも, ALT細胞にも存在するが, テロメアと共局在するAPBはALT細胞にのみ見いだされる.
     
  • APBにはさまざまな相同組み換えや修復・複製などに関わるタンパク質群が多く局在しており,&note;この構造体においてテロメアDNAの組み換えと新規合成が起こっていることが示唆される.&note;
     
    APBで観察されるテロメアDNAのフォーカスはAPBに局在しないテロメアDNAのフォーカスに比べ著しく強いシグナル強度を示す*15ことよりテロメアDNAまたはテロメアタンパク質の免疫染色によるフォーカスのシグナル強度のみを検出してALT細胞の判定が行われる.
    生検など少量の検体でも明瞭な判定が可能である.-->Telomere-Specific Immunostaining FISH *15
 

3. その他のALT細胞の特徴

1) chromosome orientation-FISH法によりTel+細胞に比べ高頻度に姉妹染色分体のテロメアDNA間で組み換えがおこることが示される.

2) ALT細胞では二次元ゲル電気泳動法, 電子顕微鏡観察により, 環状二本鎖テロメアDNAが認められる.

3) 中期染色体進展標本のFISH観察でALT細胞には, 染色体外テロメア繰り返し配列(ECTR; extrachromosomal telomere repeat)が高頻度にみられる.

 

ALT細胞のテロメアDNAのG鎖, C鎖にはそれぞれ特徴的な一本鎖構造が見いだされ*16, 環状テロメアDNAは染色体末端のテロメアDNA内の相同組み換えにより生じ,
それを鋳型にしたローリングサークル型複製によりALT細胞がテロメアDNAを効率よく伸長合成するモデルが考えられている.

 

ALT機構に関与する遺伝子

遺伝子ノックダウンにより相同組み換えやDNA損傷応答に関わる遺伝子群からALT細胞の増殖やテロメアDNAの維持に重要な遺伝子が同定されており*17, これは通常の染色体DNAの組み換えや修復に関わる遺伝子がALT機構においても機能していることを示唆している.

ALT細胞とTel+細胞のハイブリッド細胞では, ALT細胞に特徴的なヘテロなテロメア長が徐々に観察されなくなる.*18これは, ALT機構を抑制する遺伝子がTel+細胞では機能し, ALT細胞ではその機能が欠失していること示唆する. その候補遺伝子としてATRXとDAXXが報告されている. *19

 

ATRX (alpha thalassemia/ mental retardation syndrome X-linked)DAXX (death-domain associated protein)

  • 進行性膵内分泌腫瘍の40%で変異のみられるクロマチン関連タンパク質をコードする.
  • ATRXまたはDAXXどちらかに変異をもつすべての細胞でALT細胞に特徴的なAPBが観察される. どちらの変異ももたない膵内分泌腫瘍ではこのようなテロメアDNAのフォーカスは認められなかった.
  • 代表的なALT細胞であるU2-OS細胞ではATRX遺伝子内に欠失領域が存在している.

これらの現象はATRXまたはDAXXの機能が欠損することでALT機構が誘発されることを示唆している.

1) 上皮系細胞に由来する癌細胞では, ほとんどがテロメラーゼによりテロメアが維持されている. 一方 肉腫ではほぼ半数の例にALTが機能していることが知られている.

2) 間葉系細胞ではテロメラーゼ発現が厳密に制御されており, 間葉系細胞由来の悪性腫瘍細胞ではALTでテロメアを維持している傾向が強いことが言われている.&note{:

3) 中枢神経系に由来する悪性腫瘍の一部にはALTが多い.

ATRXの免疫染色は成人gliomaの診断に使われる.--->脳腫瘍のページ


*1  細胞周期とテロメア がん細胞の特性 がん生物学イラストレイテッド
*2  d'Adda di Fagagna F, et al. A DNA damage checkpoint response in telomere-initiated senescence. Nature. 2003 Nov 13;426(6963):194-8.
*3  Blackburn EH Structure and function of telomeres. Nature 1991; 350: 569-573
*4  Blasco MA et al, Teromere shortening and tumor formation by mouse cells lacking telomerase RNA. Cell 1997; 91: 25-34
*5  Hiraga S et al. Telomerase activity and alterations in telomere length in human brain tumors. Cancer Res. 1998; 58(10): 2117-25.
*6  Kim NW, et al. Specific association of human telomerase activity with immortal cells and cancer.Science. 1994 Dec 23;266(5193):2011-5.
*7  Bell RJ, et al. Cancer. The transcription factor GABP selectively binds and activates the mutant TERT promoter in cancer.Science. 2015 May 29;348(6238):1036-9.
*8  Bell RJ, et al. Understanding TERT Promoter Mutations: A Common Path to Immortality. Mol Cancer Res. 2016 Apr;14(4):315-23.
*9  Killela PJ, et al. TERT promoter mutations occur frequently in gliomas and a subset of tumors derived from cells with low rates of self-renewal. Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 Apr 9;110(15):6021-6.
*10  Castelo-Branco P, et al. Methylation of the TERT promoter and risk stratification of childhood brain tumours: an integrative genomic and molecular study. Lancet Oncol. 2013 May;14(6):534-42.
*11  鍋谷彰ほか テロメラーゼ非依存性テロメア維持機構と疾患 医学のあゆみ 2012; 241(11): 853-859
*12  Bryan TM, et al. Telomere elongation in immortal human cells without detectable telomerase activity. EMBO J. 1995 Sep 1;14(17):4240-8.
*13  Perrem K, et al. Coexistence of alternative lengthening of telomeres and telomerase in hTERT-transfected GM847 cells. Mol Cell Biol. 2001 Jun;21(12):3862-75.
*14  Grobelny JV, et al. ALT-associated PML bodies are present in viable cells and are enriched in cells in the G(2)/M phase of the cell cycle. J Cell Sci. 2000 Dec;113 Pt 24:4577-85.
*15  Heaphy CM, et al. Prevalence of the alternative lengthening of telomeres telomere maintenance mechanism in human cancer subtypes. Am J Pathol. 2011 Oct;179(4):1608-15.
*16  Nabetani A, et al. Unusual telomeric DNAs in human telomerase-negative immortalized cells. Mol Cell Biol. 2009 Feb;29(3):703-13.
*17  Nabetani A, et al. Alternative lengthening of telomeres pathway: recombination-mediated telomere maintenance mechanism in human cells. J Biochem. 2011 Jan;149(1):5-14
*18  Perrem K, et al. Repression of an alternative mechanism for lengthening of telomeres in somatic cell hybrids. Oncogene. 1999 Jun 3;18(22):3383-90.
*19  Heaphy CM, et al. Altered telomeres in tumors with ATRX and DAXX mutations.Science. 2011 Jul 22;333(6041):425.

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Last-modified: 2018-05-23 (水) 22:07:43 (145d)