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尿路上皮がん urothelial neoplasm †
静岡がんセンター病理専門医養成講座
「尿中に出現する細胞の病理学的背景」埼玉メディカルセンター病理診断科 清水健先生の講演から.
膀胱の解剖・組織学 †
- Urothelium; urothelium は膀胱最内側を被覆する上皮で膀胱癌の発生部位となる.
normal urotheliumは基底膜側より1層の基底細胞, 4-5層の中間細胞, 1層の被蓋細胞(表層細胞, 傘細胞ともよぶ)の3種類の細胞で構成されている.
中間細胞は卵円形核をもち, 核の長径は基底膜に垂直に配列する(核極性). 中間細胞は時に基底膜へ突起をのばしている. 扁平上皮のように明瞭な分化傾向は示さないが,
表層へ向かうにしたがい, N/C比が小さくなる傾向がある. 核にはコーヒー豆様の溝(核溝)をもつことが多い.
被蓋細胞はN/C比は低く円形核をもつ.膀胱の部位や伸展により細胞層の厚みや形態が変化する. また核が時に大型化する. いずれも悪性所見としてはならない。
- Lamina propria; lamina propria (subepithelial tissue) は非薄な基底膜によりurotheliumと分画されている. 豊富な結合組織からなり,血管と神経構造を含む.*1*2 *3 *4.
lamina propriaの中間層にはうっすらと平滑筋の束が認められ完全な, または不完全な muscularis mucosaeを形成している*5
- Muscularis propria; muscularis propria (detrusor muscle)*6 はlamina propriaを取り巻き厚く不規則に錯綜する筋束により構成されている.
微小な生検組織では粘膜固有層内の muscle mucosae束を固有筋層muscularis propriaのより大きな平滑筋束とを取り違えて腫瘍のステージングを間違う可能性があるため注意が必要である.
脂肪組織はlamina propriaにも, muscularis propriaにも認められる.脂肪組織内に浸潤する腫瘍がある場合は必ずしもextravesical extensionを意味しない.
- Adventitia or serosa - muscularis propriaの外側に存在する perivesical adipose tissueは漿膜層に覆われている.

尿路上皮系腫瘍 †
尿路上皮病変を診断するには以下の4つの観点から病変をとらえて評価することが重要
1) 平坦状病変か乳頭状病変か
2) 非腫瘍性か腫瘍性か
3) 良性と悪性
4) 非浸潤性と浸潤性
平坦状病変; 隆起や潰瘍形成を示さない病変. 肉眼分類では「平坦型」, 組織分類では「平坦状」とする.*7
尿路上皮癌は非浸潤性と浸潤性に分類され, 非浸潤性はさらに乳頭状と平坦状に分かれる。
非浸潤性平坦状尿路上皮病変の分類
異形成は腫瘍性病変であり, 非腫瘍性の反応性異型とはことなる病変. 異型性は上皮内癌に進展する.
実際の病理診断では, 両者に明瞭な境界を引くことは困難なため意義不明の異型という分類を設けた.
低悪性度の非浸潤性平坦状尿路上皮を異形成, 高悪性度の非浸潤性平坦状尿路上皮を上皮内癌と考えると理解しやすい.
平坦状尿路上皮過形成; 異型のない尿路上皮が分化傾向を保ちながら増殖, 7−10層以上に多層化(正常尿路上皮よりも肥厚)している. 他病変の近傍にみられることが多い.
低異型度乳頭状尿路上皮癌近傍の病変には9p21欠失などの遺伝子異常を示すことが少なくない.
扁平上皮化生; 角化型と非角化型がある. 閉経前女性の三角部非角化型扁平上皮は正常尿路上皮の亜型と考えられている. 扁平上皮化生は発がんとの直接的因果関係はない。
まれに扁平上皮由来の異形成や上皮内癌を伴うことがある.